第5話 三人
俺とメイ、シーアは早々に村へ帰って、明日の旅立ちを準備する事にした。
その道中では、昔の話に花を咲かせていた。
村の外で、三人だけでキャンプをした事、シーアが大切に育てていたトマトをメイが間違えて食べてしまった事、メイが初めて一人で、海を泳げる様になった事、シーアが自分のおねしょをメイのせいにした事。そんな他愛もない話を、どんどん昔へと遡って広げていく。
「前に三人でさ、誰が一番遠くまで行けるか、海で勝負したじゃん。あれもう一回やらない?」
シーアが楽しそうにして俺とメイに言ってくる。
「駄目だよ、明日から大変な旅なんだから」
メイが真面目に答える。
メイも、シーアのそれが冗談な事を分かっているだろうに。
そして、またいつもの様になると分かっているだろうに。
「じゃあ、海で勝負するかどうかを、海で泳いでどっちが早いか競争して決めるのはどう?僕が勝ったら、海で勝負する、メイが勝ったら、海で勝負しない、リキルが勝ったらリキルの好きな方で!」
シーアが、良い事を思いついた様な顔をして言ってくる。
「えー?うん、それなら良いかな」
メイが良く考えた風な顔をして答えた。
やっぱりか。まあいつも通りの事なのだが。
メイは、いやシーアも劣らず、幼いというか。
二人と居ると、俺だけ倍に成長している様な感覚になる事がしばしば在る。到底、俺と同じ十六歳とは思えない発想。修行で鍛えている俺とは体つきが違う点は仕方無いが、それにしても背が低い。まるで二人足したら漸く俺と同じなのでは、とさえ思える。
「俺はやらないよ。今日は修行で疲れたし」
今日は滝を三度も登らされたから、体のあちこちが痛む。
それに、明日から大変なのだから、そんな事をしている場合では無い。そして、海など明日から嫌と言うほど見て過ごすのだから、尚更だ。
「そっか、リキルは明日から大変だもんな」
いや、お前もだよシーア。
「じゃあ、競争するかどうかを、誰が一番長く潜ってられるかで決めるのはどう?」
ああ、お前もかメイ。
「よし、それなら良いぞ」
俺も大概だな。
こんな事はもう、明日から出来なくなってしまうだろうから。今日くらいは、二人にとことん付き合おうと思った。
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