第15話 ムラサキの名は
主任様が私たちの前に立ちふさがった。
「フジツボ! やめろ! こいつは違う!」
背中に庇われてなんですが、……フジツボって、海の生き物の方ではないですよね。
多分、色彩から光の君の大事な人ですかねぇ? でも野分きの章はたしか紫の上じゃあ……。
「また。変な名で呼ばないでよ」
ムラサキ、いえ藤壷様は麗しい眉を顰めた。
……やっぱり、主任のネーミングセンスは変なんですね。
この方にも言われています。
もしや、主任の持っている剣って名前をつけたりしていませんよねぇ。
ムラ○サとかオサ○ネとか……。
その間に飛ばされたカクさんセブンさんも集まってきた。
「いい加減憶えて欲しいわ」
「これでもラ・コンテスの名を冠して有名なのよ。私」
藤壷様は、ふふんとナイスバディを見せつけるようにポージングしてウインクを決めました。
「……もう一度聞く、ここで何をしていたんだ」
「あらあ、せっかちな男はいやよねぇ。あなたも……」
そうよね。と肉感的な唇が私に向かって同意をうながした。
……お姉さん! お色気ダダ漏れですよ。私ごときにもったいない!
後顧の憂いを考えて、藤壷様の言葉に否定も肯定も出来ませんとも!
「ただ、教えるのもつまらないじゃない。計画をダメにした代わりに私を楽しませてくれるかしら? ……私に勝ったらお、し、え、あ、げ、る」
キタ―! ハートマーク付の投げキッッス!
すると藤壷様の周りにピンクの陽炎が立ち込めた。
――ナニ? ナニ? これって主任が言ってた有毒ガスですか!? それとも有害……。
「楽しみなさい。ダキニの調べを」
藤壷様は空中で羽ばたきました。羽ばたきが空気に伝わり洞窟内に歌が響き渡る。
すかさず、スケさんは防御魔法で私たちを包み込んでくれました。
「無駄よ、これは空気を震わせて貴方たち人間の精神に作用するわ」
――ああ、超音波ですか。その羽ですもんね。
藤壷様の勝ち誇った高笑いが辺りに響いた。
セブンさん、カクさんが警戒モードを解きふらふらと藤壷様に近寄っていく。
……これって、もしや、あの地中海とかの神話にあるローレライの歌声っぽいのでは?
主任も藤壷様に近づいていったが、途中で苦しそうに片耳を塞ぎ、膝をついた。でも、ダイくん、スケさん、私は特に変わりはない。
音の調べは美しいけどそれだけ。
「……あら。あななたちは、以外ね、かからなんいだ。ふうん。面白いわね」
そんな藤壷様とばっりち目が合った。
私はあうあうとオットセイと化しました。
スケさんが、杖を振り上げ私に話しかけた。
「ギン様! マイリ様を止めてください。聞いたことがあります、魔族の使う技の中に清らかな者にはかからない催淫の術の存在を……」
それって!? 絶句している場合ではありませんが、ええ、私は身も心も清いですとも。
やけになって、私は片膝をつく主任のもとに駆け寄った。
「主任、しっかりしてくださいよ!」
その肩に手をおいた。こちらに来てから、いいえ、飛ばされる時から庇ってくれていた。
「……」
主任からの返事は調べに紛れた。
「やっぱり、あなたたちって面白いわね。ねえ、どういう関係?」
藤壷様が私たちの前に降り立った。
私はこちらにきて初めて間近に見た人間以外の存在に体を強張らせていた。藤壷様に見つめられて自然と背筋に冷たいものが流れていく。
「あなた、面白そうだから、少し教えてあげるわ。ここはね。実験場だったのよ」
藤壷様はそういうと羽ばたいたと同時に洞窟内の調が一層深くなった。主任は苦しそうに呻き声をあげた。
「主任?! 大丈夫ですか」
「ふふっ。永遠に私の下僕となりなさい」
主任はそれにふらつきながら立ち上がり藤壷様に近づいていく。私は思わず、その背中にしがみつき叫んだ。
「主任! ダメです!」
それ以上の言葉は言えない。代わりに私は叫んでいた。
「主任! 抜き打ち監査です! 台帳と備品の数が合いませんよ!」
私は力の限り叫んだ!
「ばかな?」
私の渾身の叫びと同じくして、主任の剣が藤壷様の羨ましい胸の谷間を刺し貫いていた。
藤壷様は自分の胸を刺し貫いた剣と主任の顔を信じられないと言った様子で見つめていた。
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