第9話 スーツは戦闘服足りえるのか? モビルスーツではない
隣国への移動魔法陣に行く前にそれぞれの旅支度をした。
私は奇妙な目で主任を見てしまった。ええ、恩人様をね。
「しゅ、主任。どうしてスーツなんですか?」
このトリスという中世欧州風の異世界にはあまりにも似合わない現代の格好でした。
ちなみに私は用意してれた貫頭衣風の刺しゅう入りのチュニックの下にはスパッツに近いパンツを下に履いていた。パンジーのような花の刺繍が結構可愛い。ええ、服がね。服だけですよ。自分のことは言ってはいません。
ブーツも茶色で皮っぽい素材、結構向こうの世界で着ていても大丈夫かも。
「あぁ? これは特殊加工だぞ、動きやすいし、慣れてるし」
抗菌、消臭……あと、形状記憶かと主任が続けた。
いやいや、この世界には似合いませんから! 形状記憶はよしとして、抗菌って、必要ですか?
「あの、それって魔物とかと戦う時もですか?」
主任は私を見て至極当然そうに頷いたた。
「勿論だ。スーツは立派な戦闘服だ」
即答ですかい。いえ、聞いたワタクシが悪うございました。
ただ、主任は背中にその新橋のサラリーマン風スーツに物凄く不似合いな黒銀の鞘の剣を背負っていました。
「剣なんて使えるんですか?」
「まあ、なんとか、最近使ってねぇからなぁ。自信ないが……」
そうですか。会社では脚立抱えてボールペンを耳に挿していますよね。
主任はスラリと左手で背中の剣抜いて、キンキンと効果音が出そうな程に剣先を繰り出していた。それを見てつい飛びついていた。
「私も、も、持たせてください。やりたい!」
つい言ってしまったが、主任は少しひきつった顔をしたあとそれでも剣を黙って私に差し出してくれた。
俺の愛剣に触れるなということは無かった。
「お、重い」
私の片手では剣が持ち上がらない。両手で構えるが剣先は震えて定まらず。足はぷるぷるしてます。まるで生まれたての子牛のようです。
「しゅ、主任。ワタシ、こんなの使えません」
「……お前が使ってどうすんだ。……それは俺のだ」
返せと言われたので、剣を渡したときに私はそれに気がついた。
「あの、主任のお腰にあるのは……」
主任は剣を収め、ふんを胸を張って言った。
「勿論。脇差だ」
そのうち、ワタシめに懐剣とやらを持たせるんじゃあないですよね。
え? お前は風呂桶と手ぬぐい? え、何、言ったか聞こえません。
主任が召喚されたトリスという世界は、一つの大陸に複数の国家が設立されており、主任が召喚されたミンディア国はその大陸中のやや南方に占めていた。
そしてこの世界には魔族と呼ばれる存在が地下帝国を築いているそうだ。それらを纏めていたのは魔王様だとか。
ミンディア国のさらに南方にある主任の町の端の方にこの魔族との地下通路があって、まだ、たまにそこから魔族が侵攻してくるのだそうな。
十年ほど前に主任がまだ学生だった頃、この世界に勇者として召喚されて、ミンディア国の地下通路から出て来た帝国の魔王様と戦って退去させることが出来たそうだ。
そして、戦利品として主任はこの領地を与えられると地球世界との行き来が始まったことを話してくれた。
主任の勇者伝説!
これから行こうとしている隣のローリエ国は、この国とよく似た王政を行っており、この国とも今のところ良好な関係らしい。
そんな説明を受けながら移動魔法陣の部屋に着いたので、皆で魔法陣の上に並んだ。
はい。移動魔法陣来ました! 眩暈がします。
例によって、ダイくんありがとう。私は今も彼に脇から抱きかかえるように支えてもらってる。
「すみません。マイリ様の大事な方を僕が……」
なんですと?! 彼から呟かれた言葉に少し気分が悪くなりましたとも。
いえいえ。大変、光栄なお言葉で、……ゴザイマスです。
魔法陣で隣国の魔法陣に着いたがそこも厳重に警備されていた。
主任が事情を話すと警備の者は主任を知っているようで、すんなり隣国ローリエの玉座の前に一行は通された。
そこには白髪ロン毛でお髭様のどこに出しても王様に見える方が座っていました!
「おお、よく参られた。勇者マイリの勇名はわが国でも通っておりますぞ」
そう言って労うような言葉をかけてくれた。良い感じの王様だとほっと安心して溜息をついた。
主任様が床に膝をつくと一同が礼をとった。
「身に余る光栄でございます。陛下」
慌てて私も遅れながら真似をしてみた。
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