第6話 コスプレは慣れておりますがジャンルが違う

 さすがに疲れが出たのもあって、早々に部屋で休ませてもらうことにしました。

「主任、お風呂入りたいですが、そんなのありますかね?」

 おにぎりがあるなら、日本人として風呂は欠かせない! おにぎりが日本人のソウルフードなら、お風呂はレーゾンデートル!

 さあ、純和風の檜風呂か、テ○マエ・○マエか、どっちだ?!

 そこに世界遺産の富士はあるのかっ?

 私の妙な意気込みに主任様はにやりと口の端だけの笑みを浮かた。

「一緒に……」

 その意味するところにしばしワタクシは理解するのに時間差がありました。

「ムリムリムリ!」

 私は理解すると全力で拒否しました。そして主任から距離を取り壁に張り付きました。ビタンと、はい。

 仕方なく折衷案で手足を拭くくらいで我慢しましたとも。

 で、そうなるとですね。ベッドも当然……。

「ムリムリムリⅡ!」

 無理のセカンドシーズン!! いや、このベッド広いから端っこなら……。

 いけるか!! 

 こちとら彼氏いない歴=人生ですよ。いきなり高難易度ミッションはクリアで出来ません。

「……安心しろ。今のところ、こっちも相手を選ぶ余裕はある」

「それって……」

 オイロケムンムンな方ならどうなるんですか? 

 据え膳とはどこをどう判断されるんですうぅぅ。

 どこで、OKと判断されるんですか? 

 そんなこんなで私の思考の限界をついに超えました……。

「だあぁ、もう寝ろ」

 がばっと主任様に捕獲されました! 

 そして。ぽんぽん背中たたかれています。

 だから、ゼロ距離はやめませう! ワタクシはじたばた足掻きましたが、肉体的かつ精神的疲労が結構あったのか、ついうとうとして主任の腕の中で眠りについた。


 ――もしや、これは朝ちゅんですか。恋愛シュミレーションお約束の、いえ、もういろいろといいんですけど……。

 目が覚めても主任様はいました。私の目の前に。……まつ毛が結構長い。なんだかもったいない。

 こんな間近で男の人の寝顔をみることはなかったので、私はつい観察していた。

 いえ、体勢は変えられません。主任様の生腕に拘束されてますんで、なんか振り払おうものなら、鬼神の鉄槌とかきそうです。

 絶賛一人で生中継してましたが、なんか、部屋の外の廊下が騒がしい気がする。

 その騒ぎにううっと主任が起きる気配がして、主任の目が半開きから急に全開になりました。

 そんなに驚かないでください。すみません。朝からこんな顔で……。でも言わせていただければ、この体勢は私の責任ではありません!

「ああ、……そうか、こっちだったな」

 あの、もう離していただけませんでしょうか? 

 うぎゃっ、逆に胸元にワタシめの頭を抱え込まないでクダサイ。

 どうリアクションしていいのか困ります。

「マイリ、起きてるか? なんか面白い話を聞いたんだけど」

 廊下から暢気な男性の声が聞こえてきた。それに主任様が舌打ちしながら、起き上がって返した。

「……三十分くらいで用意する。食堂でいてくれ」

 そうして、主任様の生腕拘束は外れましたが、なんか私の左手に腕輪があるんですが? 腕輪輪というかバンクルに近いかな。いつの間に?

「ずっとつきっきりという訳にもいかないので、それを着けといてくれ」

「なんですか、これ?」

「防御力UP、位置探他のアイテム」

「はあ、アイテムですか……」

 綺麗なんでいいですケド。これあるならどうして生腕の拘束が必要アルカ?

「これは着替えだ、あっちが洗面所。じゃあ、終われば言ってくれ」

 主任そう言うと寝室を出て行った。

 私は着替え終わって、廊下にいた主任様と食堂に行くとすごく懐かしい感じの男性が食卓に着いていた。

「おはよう。初めまして。君、マイリの会社のOLさんだって?」

 ああ、和風だぁ。昨日から絢爛豪華なフルコースな方々ばっかり見ていたので、ほっとします。ん? OL?

「ああ、僕も昔マイリと一緒にこっちにきたんだ」

「ええ?!」

 奇声を発すると私は思わず凝視してしまった。他にもいたんですね。鬼神様いえ主任様に巻き込まれた方が……。

 和風の横に茶髪子犬系の女性がにこにこして、和風男性の横に座っていた。

「夫婦そろってまで、何をしにきた。セブン」

 主任様がブリザードの声で話しかける。朝から急に寒いデス。ちなみに、和風顔ですが、名前は洋風ですよね。

「いあや。なんか夕べ詰所が騒がしかったんで聞いたら、お前が女を連れてきたって騒いでてよお」

「……昨日の当番の奴ら減給してやる」

 まあまあ、とセブンさんは主任をなだめた。

「それで、この方はマイリ様の大切な方なんですよね。もしよろしければ私が、お手伝いをさせていただこうと参りましたのですが」

 にっこりと、女性が微笑んだ。昨日スケ様から女性用の服を頼まれました。と彼女は続けた。

 あれらはこの方のコス……。私の中で急にセブンという男性への評価がダダ下がりになった。そのため彼女の言葉に否定しなければいけないことに気が回らなかった。

「そうだな。そうしてくれると助かるが、アンナさんの無理のないように頼む」 

 いや、そこで肯定デスか? 先程のセリフの中に意味腐なこと言われましたが、それもスルー?

「さて、食ったら王宮いくぞ、ギン」

 あ、やっぱり、ギンですが。せめて、お、つけませんか? さんはいりませんケド……。

 ええい! もう、それじゃあ、いきましょうかね。カクサンや! いけね。これって、私が印籠様じゃん。

 

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