第5話 城は城でも……

 着替え終わると、食堂らしきところへ案内された。

「お、おにぎり、みそ汁」

 洋風な机の上にあるのは紛れもなくミソスープ! 白いおむすび! 海苔っぽいのも巻いてある。

「簡単なものしか用意できなかったのですが……」

 私は声がした方を振り向いた。

 うわ! 美少年! ふわふわ白銀色の頭でブルーグリーンの瞳でした。眼福開眼。私はくいつくように眺めたと後感動のため息をついた。

「急にすまなかったな。ダイ」

「いえ、お帰りになって嬉しいです」

 主任と美少年がお礼を言い合うツーショットに、私の目にはBL的フィルター補正がかかりました。

「……なんか気持ち悪い目で見るな」

 主任の声に我に返ったと同時に疑問を口にした。

「ダイさんですか? 風車の人でしたっけ」

「……いや、だいごろうだ」

 ああ、乳母車のほうでしたか。って、なんでやねん。

 今時そんなの知ってる人いないよっ。

 私は、ミソスープとおにぎりのおかげで元気がでてきたので、もう夜になっていたが、主任に頼んで外に出てみた。

 この町は主任が十年かけて築いたそうな。

 玄関を出て私が振り返ってみるとそれは館というよりお城だった。

 いえ、日本のじゃないですよ。どちらかというと中世くらいの欧州の城塞という感じ。

「主任、ほんとの野望は白鷺城ですか? それとも二条城?」

「まあな。……じゃない」

 今、まあなって言いましたよね。言質を取りましたよ。

 主任はぶっはと腹を抱えて笑いだしました。今にも地面も叩いて壊しそうなほど笑っています。

「立科、……面白いな。とても良いアイディアだ」

「いえ、真面目にとらないでください。この街並みにはそれは似合いませんから」

 城門まで歩く間、花と緑の間にちらほらと見慣れたものがあった。

 ――ネギだ。

 いや、そのほかのミントっぽいハーブはいいですよ。

 なんで万能ネギ? まあ、使い勝手の良い便利なものですけど。九条ネギとかもいいかも。いやいや、おかしいでしょう!

 主任、何を植えてるんですか! 異世界とやらなのにっ。

 城門にある警備詰所にしては大き目の建物があった。ライトアップもされていて明るい。

「?」

「一応、ここは領主館だからな。二十四時間体制の警備だ。それと、緊急事態に備えて各種簡易な手続きも受付けている」

 保険会社ですか? 私は思わず心の中でツッコミを入れていた。

 「よう、マイリ。帰ってたのか?」

 詰所からはさわやか赤色短髪のコバルトブルーな瞳の騎士様が出て来た。

 なんか、イケメン率、高すぎ! もしかして、顔での採用基準あるんですかね。

 私はいつか聞いてみようと心に誓った。決して腐女子的な意味はありませんよ。……多分。

 こうして、並んでみて分かったことに、主任は結構背があった。その主任より騎士様はなお背が高い。

 さらに私の腐女子モードで脳内変換された目にはさわやかイケメンに壁ドンされてる主任がいた。

 主任の鬼神とどっちが……。

「こら。正気に戻れ」

 妄想に飛んでいた私は主任に頭ポンポンされました。

 すみません。なんだかちょっとハイテンション気味です。

「ちょっと手違いがあってな……。俺の留守の間何かあったか?」

「いあや。今のところは。なにも……」

「今のところか……」

 私の頭越しにイケメン二人がぼそぼそと話をしていた。

 私は仕方ないのできょろきょろとあたりを見渡すと、書類に書き込んでいる人、城門の外に見張りをしている人。こちらをチラ見しつつも仕事をしていた。

 ふむふむ、結構雰囲気はいい。

 さすが主任。無駄のない設備配置。

 惜しむらくは、こちらの文字まではほんやく指輪は変換してくれない。書いてある字が読めません。

「で、この女性は一体?」

 イケメン騎士様の言葉で、詰所に緊張が走りました。

 何ですか? なんだか非常警報が鳴りそうな雰囲気ですけど。

「ああ、……部下だ」

「部下?」

 主任の言葉にイケメン騎士様がその美しい眉を顰めた。

 ――いえ、間違いないですよ。部署は違いますが、一応、彼は肩書ありですよ。私は平ですから。いけども、いけども立派な平社員です。

 だからイケメン騎士と主任の視線を受けてコクコクと肯いた。

「へぇ~。部、下、ねぇ。女嫌いのマイリが……。ちなみに何処の配属予定? 決まってないなら、オレのところで働く? 可愛い子は絶賛募集中!」

 イケメン騎士がバッチリウインクしてきた。

 イケメンからのウインクは見事に決まったので鈴子の心は打ち抜かれた! ということにはなりませんでした。

 主任はじろりとイケメン騎士様を睨んだ。

「却下」

「即答かよ。……お嬢さん。こいつが嫌になったらオレのとこおいでよ」

 彼はそう言って爽やかに笑った。キラキラフィルターキタ―! 

 おお! さすがイケメン様です。

「はあ。ありがとうゴザイマス。ぜひイベントにもご参加クダサイ」

 眩しさのあまり私は動揺して意味不明なことを口走ってしまった。それに主任は呆れたようにつぶやいた。

「……よけいなことは言わなくていい」 

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