第2話 異世界こんやく
「……なんなんだ。一体?」
自分の身体は動かせないけど、主任の声は聞こえる。
そして、なんとなく体に回される腕から感じると、もしや、お姫様だっこ!?
あの、私はかなりなものです。確かに食費浮かすために手作り弁当を作って頑張っていますが、それはダイエットのためではないので。
できればそのへんに忘れ去られるようにそっと置いていただけたら。
それに、男性とのゼロ距離でワタクシの脳内機能がショート寸前であります!
たとえ相手が備品部の鬼神と呼ばれる人外呼ばわりされてる方でも、こちらは経験値が低すぎますので、適切な距離感、を希望します、いえ、感ではなく間です。
動揺のあまりどうでもいいことをぐたぐたと考えているうちになんとか薄く目を開けることができた。
かろうじて開いた視界の先は見たこともない部屋だった。
白と黒の大理石っぽい床だが、決してうちの会社の第七応接室ではないようだった。
例えるなら神殿のよう。丸い石柱が壁代わりに天井を支えているのが視界の端にかろうじて見える。
天井も高そうで電灯らしきものは見当たらない。ここどこ?
もしや、気を失っているときに、どこかに連れ去られたのかしら?
なんと、主任、女子に不埒な行いをしようとは……。
女子というか、腐女子かもしれませんが、一応、それは犯罪かと思いますよ?
私の身体はまだぐったりと動かせない。自由がきかないまま、どうしようかと思っていると。
「〇△〇?!」
「〇△△」
聞きなれない言葉が聞こえてきて私は耳が変になったのかとビビった。
声の主を見たいがどうにも動けず。
それなりに会話になっているようだが私にはまったく何を言っているのか分からない。そのうちに背中の感じから、私はどこかに下されたのが分かった。
しばらく横になっていると気分の悪さがとれてきたので気力を振り絞って目を開けた。
「……うっ」
思わず呻き声が出てしまった。
視界には天蓋があり四方の柱からは薄いカーテンが掛かっていた。
これって、あの天蓋付のベッドですか? 昔、憧れていました。
「……大丈夫か? 立科」
心配そうな声が降ってきた。
「……主任、私の名前知ってたんですか?」
私は自分を覗き込む主任を見てついそう言ってしまった。
「こんなときにそんなことを言うのか。……とりあえず手を出せ」
主任に言われるがまま手を差し出すと主任は私の左の中指に小さめの可愛いカボションカットのスタールビーっぽいのをはめた。
主任は何気なく続けた。
「これは、ほんやく指輪だ」
「はあ! こ、こここんにゃく指輪?!」
指に入れられた立派なそれに私は泡を吐く勢いで叫んだ。
「婚約指輪ですか。それは素晴らしいです。」
そこへ第三の声が会話に割り込んできた。さっき聞こえていたバリトンボイスの人だけど今度は言葉が分かった。
私が上半身を起こすと側に金色長髪アクアブルーの瞳のすこぶる美人が主任の傍に立っていた。
その人はずるずるした白いローブを纏っていて色とりどりの宝石をはめ込んだサークレットをしていた。
あれですよ。あれ、アニメやゲームで言うなら神官とか司祭とかっぽい。なんかひょっとしたら、やっぱり私は応接室で倒れたとき頭でも打ったかもしれない。
これは夢だ、夢。もう一度眠ったら大丈夫。
「なんとなく気持ちは分かるが、寝るな、立科」
横になろうとした私を主任が引き起こした。
いや~。あんたやっぱり夢の中まで鬼だよ、鬼。
「これで、マイリ様は、こちらで生活していただけますね。この日を待ち焦がれていましたよ。さっそくお披露目の準備を、ああ、私としたことが、花嫁のお名前を頂戴していませんでしたね」
「違う!」
「違います!」
私たちは脊髄反射的に同時に答えていた。意外と主任と気が合うかも。
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