週末異世界奇譚 異世界召喚は上司と共に 危険手当も超勤もありませんが

えとう蜜夏☆コミカライズ傷痕王子妃

第1話 異世界は会議室から

 私は立科鈴子と申しまして、ただ今二十四歳です。

 どこにでもいる普通のOL生活をしています。年齢=彼氏がいないけれど特に気にしない。きっとこれから出会いがあるのよ。きっと素敵な運命の人がっ!

 なんたって、ワタクシ、高校は女子高でしたし、そんでもって大学は共学だけど学部やゼミは女子ばっかりだったのよ。気がつけば、周りは女子ばかり。

 一応ね、合コンとやらに参加したかったのだけど、なぜか、端からスルーされいてた。どういうこと? まあ、大学のレポートとバイトに明け暮れてましたけどね。

 誓ってオトメなイベントなんて参加してませんから。

 え? 今の会社に気になる人はって? 

 やっぱり、職場ではそんな気にならないし、そもそも男性とナニを話していいのやら分かりません。

 毎日、綺麗どころのやんごとなき方々が楽しそうに廊下で談笑しているのを横目にしつつ、小走りで通り過ぎるだけ。

 間違っても自分も輪に入ろうなんて身の程知らずの望みは抱いておりません。

 それに、今日は金曜日、明日は一応お休み。

 今週はノー残業デーだから早く帰って、取り溜めした深夜アニメを見なくちゃ!

 そう誓って私はいそいそと片付けしていたら、廊下でコンパに行くリア充キラキラな方から声を掛けられた。

「ごめんなさい。立科さん。私たち急いでいるの。これ、備品部に持っていってくれない」

 彼女はにこりとマスカラバッチリ、ラメ多めの目で微笑まれ、鼻にかかる声で備品請求書を渡されて私はそれを素直に受け取った。

「あ、はい。備品部ですね」

「そうなのよ。お願いね」

 いやいや、私にそんなサービス声ださなくても、それくらいはしますよ。

 それから備品部まで行ったけれど部屋には鍵がかかって、もう帰ったかなと引き返そうとしたら、通りかかった人が親切に教えてくれた。

「備品部の主任なら、第七応接室で電球を換えていたよ」

 主任かぁ。できれば課長の方がいいなあ……。

 私はやや憂鬱な足取りで第七応接室にたどり着いた。

 そういやここは会社の七不思議的な話があるとこで、誰もいないのにうめき声が聞こえたり、電灯がチカチカしたりとかなんとか……、それにここは構造上、どの部署からも遠く、普段はめったに使わない。

 でも実はここは、創業者の趣味とかで、高級仕様だ。床が一部大理石になってたりいろいろオブジェがおいてある。お茶を運びに来て床で滑りかけてお茶碗を落としたら木端微塵になって弁償さされたとかいう怖い話を思いだす。

 そんなの怪談じゃないないって?

 だって、うめき声とかは誰かがいたのかもしれないし、電灯のチカチカは古くなったせいだろうし。それより、高価なお茶碗を弁償刺される方が恐怖ですよ。

 だって、その分薄くて高い本が買えると思えば……。ねえ。

 私はとりあえずドアをノックしてみた。

「……はい」

 中から男性の声で不機嫌そうな返事がした。

 誰かいたー! ……多分、備品部の鬼……いえ主任様。早く渡して帰ろう……。

 帰ったら私の心のオアシス、〇〇〇〇様を堪能しなくちゃ。ちなみに〇の中には複数のキャラ名が入る私は悪い女。ゴメンね、許してっ。

 やや帰宅後の妄想に入りつつ私は声をかけた。

「失礼します。備品請求をもってきました。備品部は鍵かかってたのでこちらに……」

 ドアを開けると室内には脚立をたたんでいる男性がいた。

 その人は備品部の主任で、光の加減でたまに色が変わるサングラスをかけて、Yシャツネクタイの上に作業用のジャンバーを羽織っていた。

 私は手に持っている書類を主任に手渡そうと近づいた。

「……わざわざどうも。来週でもよかったんじゃ……、おい!」

 主任が私の方を見て途中から顔色を変えた。

 怒られる? 噂どおりの鬼だ……。こんなことなら、来週のほうがよかったのかな。

 でもこれは私のではありません。別の方にと言おうとしたら、主任は足早に駆け寄りいきなり抱きしめてきたのだ。

「ちょっ!!」

 セクハラです! こんなことされると彼氏いない歴=年齢の人間には対応できません!!! 

 訴訟対応もできません! いや、逆に慰謝料請求されるかも。かなり、童謡いえ動揺してます!

「くそっ、まさかこんなときに……、緊急解錠。第二魔方陣、展開、作動!」

 抱きしめられたままの体制で、耳元で主任の少し低い結構良い声が響き、思わずぞくりと体が勝手に震えてしまった。

 声とは別に風鈴のような音が聞こえてきてだんだん大きくなっていく。それと同時に眩暈がしてきて、周囲も暗くなった気がした。

「な……、に?」

 思わず、自分から主任にすがりついてしまった。他につかまるものがなかったの!

 私は、下を見ると俯くと白と黒の大理石の床が発光していた。そのままぐるぐると視界が回りだした。

 あれ? 床って蛍光性だったっけ?

 主任、何つけてんだろう? 爽やかな香りが……。それに主任って結構細マッチョ……。

 私の思考もだんだんと回り出して、最後に意識も失った。

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