第11話 お弁当をいただきました

昼休み


「せ~んぱい!」

教室の入口から大声で叫ぶ五十野


「あの~、君。先輩と言っても誰かの名前を言ってもらわないと困るよ?」

教室にいたクラスメイトが注意する


「笹岡先輩はいますか?」


やっぱり、俺目当てか!


「あ、先輩!」


そして、性懲りもなく俺の左腕に抱き着く


「おい、ここ教室だぞ?少しは自重しろ」

「えぇ~、いいじゃないですか?せっかく治ったんだし――」

「まだ完治とは言ってないぞ。それに、痛い…」


五十野も俺の言葉を察して


「ご、ごめんなさい!!」

「気を付けろよ。下手したら、また病院に逆戻りしちゃうしな」


それを聞いた彼女の顔は段々と青ざめていく


「私…、取り返しのつかない事…しちゃいました…?」

「いや、少し痛かっただけで傷口が開いたわけじゃないから安心しろ」


ホッと息を撫でおろしたのも束の間、今度は右腕の方に抱き着く


「じゃあ、こっちで」

「じゃあって何だ!?」


と、廊下がやけにざわついていた


「な、何だ…?」

「さぁ・・・」


教室の入口からヒョコッと顔を出したのは、他でもない生徒会長だ


だが、すぐに怒ったような顔をして俺のところへズカズカと寄ってくる


「あなた、確か1年生だったわね。笹岡君に何をしているのかしら?」


あらら?

これはもしや…嫉妬

いや、修羅場…?


「何って、先輩とのスキンシップですけど?」


まずい

このままだと郡の顔が般若と化してしまう


「…ねぇ、笹岡君。赤阪さんといいこの子といい、何でスキンシップの多い女の子ばかりが集まるの?」

「それは、俺にもわからん…」


誤魔化しているわけじゃない

本音だ


当の本人も、怒り爆発寸前だ…


「恩人でもないあなたが、彼にスキンシップするのはどうかと思うわよ?」

「おやおや?生徒会長である先輩が嫉妬ですか?」


おい!!

それは火に油を注ぐ言い方だ!!


「…し、嫉妬だなんて聞き捨てならないわね」


声が裏返ってるぞ…

動揺しすぎだ


「先輩、こんな生徒会長はほっといて、ごはんに行きましょう」

「さっきから失礼ね、あなた!」


ああ、これは長引きそうだ…


そう思っていたのだが…


「ああ、真莉亜!探したわよ、あんた!!」

クラスメイトだろう女子が、五十野を呼んだ


「どうしたの?」

「どうしたの…じゃないわよ!!あんた、ノートの提出忘れてるんじゃないの!?担任の先生、御冠おかんむりよ」

「あ!??すっかり忘れてた!!」


おいおい、何やってんだよ…


「とにかく、急いで来なさい!」

「は、はい!!先輩、また後で…」


廊下を早歩きで自分の教室に戻っていった


「…はは、昼から騒がしかったな…」

「全くね…。笹岡君も誘惑に負けちゃだめよ?」

「気を付けるよ。っと、郡も俺に用があって来たんじゃないのか?」

「そうだった…。一緒に屋上に行かない?」

「…はい?」


うわ~お、学園の定番が来た

しかも今は昼休み

となれば、俺を誘った理由は一つしかない


♰♰


屋上で、郡は風呂敷に包んでいたものを開ける


「おお、美味そう」


そう、他でもない

お弁当だ


「でしょ?私が作ったんだよ」

「え、マジで?」


おいおい、ここもゲームとはだぞ


原作の郡は、家事もほとんどやらず、料理なんて皆無

となれば、味も壊滅的に酷い


実際のゲームで、ヒロは何度も愛のバケツ行きしてたな

でも、最終的にはめちゃくちゃ上達して、ヒロの胃袋を掴んだ


もしかしたらこの世界は、恋愛ゲームでよくあるifのパターンで、

郡は最初から料理上手なのかもしれない


それはさておき、早速郡の手作り弁当を食べよう


「いただきます」

「ちょっと待って…」


ん?

まだ食べさせてくれないのか?


卵焼きを箸でつまみ


「はい、あ~ん…」


これはまさかの、女子からのあ~ん!?


前世でも、彼女すらいなかった俺が!?


恋愛ゲーム定番のシチュエーションだけど

実際やると、かなり恥ずかしい

むしろ、勇気がいる


ここで断ったら、男が廃るというもの

乗ってやろうじゃないか


「…あ、あ~ん」

目を閉じて、口を開ける


郡自家製の卵焼きを頬張る


「う、美味い!!」

「よかった」


郡の顔は、とても嬉しそうだった


というか、これって毎日させられる…なんてことないよな?

だとしたら、俺の心臓が持たない…

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