第8話 笹岡 勇の事情
俺こと笹岡 勇の家庭は、両親と俺の3人家族
どこにでもある一般家庭と言いたいが、ウチの両親の親、つまり父方と母方のおじいちゃんやおばあちゃんはどちらも病気で亡くなっている
頼れる親戚もおらず、笹岡家はこの3人家族のみとなっていた
子供のころから、家族を心配させたくないとずっと思っていた
そんな時に出会ったのが、陸上だ
元々俺は、小学校の時から50m走で毎年クラスで1番の速さだった
これなら中学、高校でもいけるはずと自信を持って陸上部に入部
しかし、監督から言われたのは
「お前は短距離じゃなくて、長距離が向いている。長距離に専念しなさい」
しぶしぶ受け入れ、いざ走ってみると短距離とは違う爽快感があった
そこから俺は実力をメキメキと上げて、初めて出場した大会で1500mと3000mで優勝を果たした
監督の言葉は本当だった
2か月後の大会で、俺は別の学校に通うヒロこと赤川 浩之と出会う
彼も長距離の選手だ
ヒロの実力は本物だった
1500mと3000mを俺より速いタイムで優勝したのだ
「いい走りだったよ。次は俺が勝つ!」
「君も素晴らしかった。また走ろう!」
相手を侮辱するんじゃなくて、称えあう
大会があるたびにどちらかが優勝する勝負へとなっていき
俺とヒロは仲のいいライバル関係となっていた
2年の時に俺とヒロは全国大会に出場したが、予選で敗退した
「上には上がいる…か」
「決勝まで行きたかった…。でも、俺たちの実力はここまでだな。でも、諦めない!3年生になったら、もう一度全国に出て、絶対に決勝まで上り詰めてやる!」
「俺も負けてられないな!お前と決勝で走りたい!」
俺たちは固い握手を交わした
でも、その夢は叶わなかった
♰♰
3か月後
家の電話が鳴り、俺が出ると警察の人が開口一番
『あなたのご両親が…、事故でお亡くなりになりました』
俺はこの時、何を言っているのか理解できなかった
でも、自然と俺の体は病院に向かっていた
俺の目に映ったのは、無残な状態で死んでいた両親だった
「うそ…だ、父さん…母さん…」
呼んでも応えてくれない
現実を受け入れ、その場で泣き崩れた
それからの俺は、抜け殻のような生活をしていた
学校には通ってはいたが、何もする気がなくなり
俺は陸上部を辞めた
数日後、校門前にヒロが待っていた
「聞いたよ、事故の事…」
「思い出させないでくれ…、俺はもう走りたくない…」
「そうか…。でも、いつまでもそんな状態が続くとは限らないぞ。最後は自分が行動しなきゃならない」
「分かり切った事を言うんじゃねえ!それが出来てたら、とっくに立ち直ってるよ!」
「なら、俺からも言わせてもらう。いつまでも逃げるな!!」
俺よりでかい声で言い放つ
「今のお前の姿をご両親が望んでいると思うか?俺だったら、そんな自分を脱ぎ捨てて新しいことをやってみたいと思うね」
そうだ、俺は家族を心配させたくないために陸上を始めた
でも、それ以外でも何かやりたいことがあるはず
「いい目をしてきたじゃないか。きっかけは何でもいいんだよ。オタクになろうが、変態になろうが」
「へ、変態って…」
「お前が興味のあるものを片っ端からやってみて、これがいいと思うのをとことんやり続けろ。俺からのアドバイスだ」
「ありがとう…ヒロ」
ヒロがいなければ、俺は今頃廃人になっていた
だから俺は、彼に感謝しているし、今度は俺がヒロを助ける番だ
学校も不登校することなく、無事に卒業
鳳凰ヶ谷学園に入学してすぐに、バイトを始めた
少しでも今の生活を続けるにはこれしかない
ちなみに、樋山とアニ●イトに行けたのは、バイトのシフトが入ってなかったからだ
♰♰
「そうか…辛かったな」
「ええ、まあ…。だからですかね、俺みたいに家族を突然奪われる悲しみを背負わせたくなかった。本心じゃなきゃあんな行動はできなかった」
「笹岡君…」
それが伝わったのか、郡やご両親は涙を流していた
もし困ったことがあったらいつでも言ってきなさい。できる限りの事はさせてもらうと励ましてくれた
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