第7話 お見舞いされました

病院の手術室前で待機している郡


そこに2人の大人が駆け付ける


郡の両親だ


「朱音!」

「朱音ちゃん!」


郡の姿を見て、安堵した二人は優しく抱きしめた


「よかった…、本当に無事で…」

「通り魔に襲われたと聞いたときは、ゾッとしたよ…。それよりも、朱音を助けてくれた彼は…」

「今、左腕の手術をしているところ…」

「そうか…、終わったらお礼がしたいな…」


2時間後


手術は無事に終わり、俺は病室に運ばれ、3人は家路に帰った


4月25日


郡が学園に着くやすぐに

「会長、通り魔に襲われたのは本当ですか!?」


彼女を慕っている後輩が尋ねる


「ええ。でも、同じ学年の笹岡君が身を挺して守ってくれたの」


それを聞いた生徒たちはすごいやかっこいいと称賛の声を上げる


「その、肝心の笹岡先輩は…?」

「左腕にナイフを刺されたの。でも、お医者様は傷は浅いから後遺症はないと言っていたから安心して」

「良かったです…」


と、集団をかき分けて郡に近づく生徒が一人


「今の話、本当か!?」

それは、他でもないヒロだ


「昨日から電話しても出ないし、今朝あいつの家に行ってもいなかったから、何かに巻き込まれたんじゃねえかって心配してたんだ…」

「ごめんなさい、連絡できずに」

「いや、今の話を聞いてたら、パニックになるのも仕方ないな。となれば、お見舞いに行かないと」

「…あ、そっか」


恩人は入院しているんだ

お見舞いに行くのは当たり前


放課後にでも、足を運ぼう


でも、病室に入ったけど、笹岡君はまだ目を覚ましていなかった


4月26日


俺はゆっくりと目を覚まし、視界に飛び込んだのは白い天井


そうか、俺は入院してるんだった


左腕に目をやると、手術痕が残っている

少しでも動かそうとすると、すぐに痛みが来る


まだ安静にしておくべき…か


窓を見て、小鳥たちのさえずりが僅かに聞こえる

朝だな


って、学校に連絡入れないと!!


スマホを見ると、1件のメッセージが入っていた

送り主はヒロ


『郡が先生たちに事情を話したから安心しろ』


短い文章だが、俺の事を察してくれているのが分かる

本当に良い友を持った


♰♰


夕方


病室のドアがノックされる


どうぞと俺が言うと、数人の生徒が入ってくる


「笹岡君、目を覚ましたのね…」

「…ああ、今日は大所帯だな」

「勇、心配したぞ!!」


真っ先に俺に駆け寄ったのはヒロ


「ごめんな。連絡を入れるのを忘れてて…」

「まったくだぞ…と言いたいが、あんな事件が起きたんだ。仕方ないよ」


他にも、飛鳥先輩、赤阪、五十野、一瀬、樋山が来ていた


「笹岡君、腕の方は大丈夫かい?」

「ああ、痛みはあるけど安静にしておけば治るよ」

「そっか、よかった」


再びノックされ、入ってきたのは夫婦と思われる男女


「笹岡君…だね?」

「はい」


俺が答えると、男性は俺の手を握り


「娘を助けてくれてありがとう!」

「私からもありがとうございます!」


この二人は、郡のご両親


「いえ、気付けば体が動いていたので…」

「それでも、通り魔に勇敢に立ち向かったと朱音から聞いているからね。普通はそう簡単には動けないよ。君は、恩人だ。恩返しがしたいんだが、何か欲しい物とかあるかな?」

「いえいえ、郡や他の人たちがケガがなくて済んだことで十分ですよ」


それを聞いた郡の父親は

「君は器が大きいな。学生とは思えないほどだよ」

と感心していた。


ふと、俺は思った

「あ、でも。治療費とか…結構かかりそうな気が…」


咄嗟に行動したとはいえ、俺に降りかかるのは手術代などの費用だ

どう工面すればいいんだろう…


「ならば、その治療費は私が全額出そう」

「…え?」

「君への恩返しという事で、私に払わせてくれないか?」

「…い、いいんですか?俺は、見返りを求めるために行動したわけじゃないのに…」

「もちろんだとも。さっきの言葉で、君はそういう男じゃないと確信したよ。だから、払わせてくれ」


俺は一瞬迷ったが、ここで断ったら後味が悪いというか、ご両親にも申し訳ない気分になりそうだった


「分かりました。お言葉に甘えて、お願いします…」

「ああ、任せてくれ!」


ご両親の顔がキラキラと輝いていた

余程、恩返しがしたかったんだろうな


そしてまた、病室のドアのノック

今度は誰だろう?


入ってきたのは、スーツ姿の男性

多分、警察の人だろうな


「失礼します。中央警察署の真鍋と言います。笹岡 勇君で間違いないかな?」

「はい、あの件についてですよね…」

「ああ。そちらの郡さんにも事情を聞かせてもらったよ。でも、犯人逮捕につながったのは間違いなく君のおかげだ。君からも事情を聞かせてほしいんだ。そこまで時間は取らないから安心してくれ」

「分かりました」


俺は数分間、あの出来事の仔細を話した


「そうか。君は勇敢な男だ。君のケガが治り次第、署長から感謝状が贈られることになっている。改めて、犯人逮捕のご尽力感謝します」


真鍋さんは俺に頭を下げる


「頭を上げてください。一つ聞きたいんですが」

「何かな?」

「通り魔はどうしてあんなことを…?」


あの件の当事者として、事情が知りたい


「働いていた会社をクビにされ、付き合ってた彼女にまでフラれて、再就職もうまくいかない。段々と精神的におかしくなって、最終的には誰かを殺してから死のうと考えてたそうだ」

「それは…迷惑な話ですね」

「ああ。だが、本当に申し訳ない事をしたと涙を流しながら反省してたよ。刑は軽くなるとはいえ、実刑判決が出るのは間違いない」

「そうですか…」


ともあれ、この件は解決した


「ところで、ずっと気になっていたんだけど。笹岡君のご両親は、まだお見えにならないのかな?来られたら挨拶でもと思ってたんだが…」


郡の父親がそう問いかけるけど、俺は黙った


「勇、話してやれ」

俺の顔を見たヒロが察して、優しく声をかけた


「分かった…。全て話します」


これは、飛鳥ルートで明らかになる話


俺が、陸上を辞めた

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