第3話 ゲームのヒロインたち その2

翌日


学園に登校すると


「赤川 浩之!笹岡 勇!」


女子が大声で俺たちを呼んだ


「うわっ…、出たよ…」

「またか…」


二人してため息つきながらも、その女子の元へ歩み寄る


その女子が4人目のヒロイン 飛鳥あすか たまき


3年D組の先輩だ


「…何の用ですか?」

ヒロは嫌々ながら、先輩に問う


「単刀直入に言う。二人とも陸上部に入ってくれ!」


深々と頭を下げる


そう、飛鳥さんは陸上部のキャプテンで、長距離のエースでもある


俺たちがこの学園に入学したときから、勧誘を受けているが、俺たちの答えは決まってる


「「お断りします」」

「何故だ!?お前たちの実力なら、我が陸上部のエースになれるんだぞ!」

「実力とかエースとかには、飽き飽きしてるんです…」

「もう走るのはやめました…」


俺たちは中学時代、陸上部に所属していた

俺とヒロは中学は別々だったが、大会を通じて仲良くなり

互いに研鑽を積み、よきライバル関係になった

そして気付けば、俺たちは全国大会にまで出場するようになっていた


だが、ある事件をきっかけに俺は

走る気力を失ってしまった


「逃げるのか?」


ギロリと睨む先輩


「先輩…、逃げも何も俺たちはやり切ったんです。プロになろうとかこれっぽっちも考えてません」

「相手の意志を踏みにじるのもキャプテンであるあなたがすることですか?」

「ふ、踏みにじってなど…」

「とにかく、俺たちはどこの部活にも入るつもりはありません」

「失礼します」


ヒロと歩いてしばらく、一度振り返ると

悔しそうな顔をする先輩の姿があった


なんか、悪いことしてしまったな…


♰♰


昼時


俺は学園の食堂に来ていた


いつもは購買のパンやおにぎりを買ってた

でも、無性に食堂の美味い飯を食べたくなる…


「さて、どれにしようかな…」


すると、後ろから

「せ~んぱい♪」

誰かに抱き着かれる


「お前…、人が見てるんだぞ。もう少し自重しろ…」

「えぇ、いいじゃないですか。先輩との仲だし…」

「お前が思ってるだけだろ」

「そう言って、鼻の下伸びてますよ」


こうやってからかってくる女の子が、5人目のヒロイン 五十野いがの 真莉亜まりあ


1年B組の後輩で、本来ならヒロに抱き着くんだが

何故か俺に抱き着いている


…ああ、やっぱり…

俺が初っ端からやらかしたのが原因だな…


こうなってしまったらしょうがない

最後までこのゲームの世界をやるっきゃねえ!


とりあえず、俺はカツカレーを頼んだ

そして、五十野も俺の隣に座る


「なあ、俺といて楽しいか?」

「何がです?」

「天然かよ…。まあいい…、それより何で俺に付きまとうんだ?ヒロとかいい奴が多いと思うぞ」

「それは…、私の勘ですね」

「勘かよ…」


思わず俺はあほらしいとぼやいてしまう


ヤベっ…、聞こえてしまったか…?


「そうそう、先輩ってどこの部活に入ってるんですか?」


どうやら聞こえてないみたいだ


「部活?どこにも入ってないよ」

「帰宅部…ですか」

「何だよ?もしかして、俺が部活やってたらお前もそこに入部するって魂胆か?」

「…えっと、まあ、そうですね…」


少し濁しているが、こいつの行動は何かと分かりやすい


「俺は部活に入る気はねえ。悪いが他の奴に頼ってくれ」

「あっ…」

俺は急いでカツカレーを平らげて、食堂を出た


♰♰


授業も一通り終わり、清掃の時間になった


今日の俺は、ごみ捨て担当だ


ゴミ袋を収集場まで持っていく

その角で、何かをじっと見ている女子生徒がいる


「お~い、掃除中だぞ」

俺は声をかける


「きゃっ…、す、すみません…」


俺の声に驚き立ち上がったこの子が、6人目のヒロイン 大広おおひろ ひびき

1年C組の後輩


俺に一礼すると、そのまま教室の方まで走っていった


大広が見ていたもの、それはチューリップ


「でも、あの子は確か…」


本来のゲームなら、ヒロと大広が出会うのは放課後の図書館だったはず


さらに、6人のヒロインの中で一番厄介な事情を抱えている


ヒロがその解決に奔走するけど、もしかすると俺がやるかもしれない…な

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