最終話(本編) ハッピーエンドの先で?

【世界ト履歴ノ修復ヲ確認】――頭の機械声に同調して前の巨大扉が稼働して開く。


 商売繫盛にえべっさん……総本社にあたる西宮神社で毎年恒例の福男マラソンだ。

あれより素早いスピードで猛烈ダッシュのリリに驚愕しながらヒカルと目配せする。


 あわてて自分のカードをタッチパネルに触れさせながらリリの背後を追いかけた。

ダンジョン……定義上は地下迷宮だから一本道だ。ひたすら奥に進むしかできない。



 先行するリリは無言で駆け抜けながら巨大なアリやミミズとムカデに無双状態だ。

異世界ファンタジーみたいな魔法を詠唱することもせず……手のひらを前に向ける。


 手のひらから線状水っぽいビームを噴出させるだけでモンスターが弾き跳んだよ。

あれやこれや追随するだけでなにもできず洞窟を抜けた先に……巨大な扉が見えた。


 巨大扉の向こうに……ダンジョン一層ボスがいるかとワクワクする気持ちになる。

アスリートじゃないがランニングが趣味かもしれないヒカルまで遅れて追いついた。



【世界転移ノ少女ニ質問ダ】いきなりの急展開らしいよ【転移ノ先ヲ選択ガ可能ダ】


 これが千載一遇にして最後のチャンスってヤツになるしリリに直接伝えてみたい。

「リリの願いを邪魔するつもりはないが……それでもこっちの世界に残ってほしい」


 前で微動もしないリリが顔をしかめて悩みながらゆっくり自分なりの言葉を紡ぐ。

「ちょっとだけ時間をちょうだい……答えがでたら意思にしてちゃんと伝えるから」



【世界転移ノ少女ニ了解ダ】これって理想的な展開かな【転移ノ先ハ脳内デ指示ダ】


 頭の機械音が了承したようで同時にこちらを振り返ったリリがゆっくりと近寄る。

「うんちゃんと決めた。ジロウくんには感謝しかないし伝えておきたい言葉もある」



 元々もじりなのか省略した愛称か嘘八百かわからない理を二乗する名乗りのリリ。


「ジロウくんの記憶ちゃんとあるうちに姿を見せるつもりだけど無理かもしんない。

だから……保険として契約しましょう。お手つきの代わりになる初めてのチュウで」


 言葉に併せるように小さな手のひらがオレの頬を挟むと強引に口づけされました。

ニタりと笑いながら舌先まで巧く使い歯茎の裏を責めたててくる半端ない攻撃力だ。


 背丈が自分の胸に満たない少女に負けたままで終われないからと反撃を意識する。

契約ギアスが無事に完了っ。いまはお別れなんだけど再会できたら続きをやろうねっ!」


 あせるような手のひらに胸を突かれ倒れこむとリリの体がすべて七色に包まれた。



「……………………」だがしかし……リリの体は消えることなく呆然とした表情だ。


【キー否定サレ実行エラー】――また頭に響いた機械音に驚愕するリリを見つめた。


「やっぱりこうなっちゃった。あっちの博多ダンジョンに拒否されちゃったんだね。

あっちの樺太は嫌だったし博多に繋がる人なんて誰もいないから仕方がないのかな」

 ずっとあこがれで逃げたかっただろう博多に行けなかった割に納得した顔つきだ。



【エラー解除ト世界再登録】――再び頭に響いた機械音に併せてリリに問いかける。


「えーっといろんな意味で混乱中だけどリリが帰りたい場所はここでいいのかな?」


「最適解かどうかなんて誰もわかんない。ウワサになった博多は楽しそうだったし。

それでもなんとなくだけどさぁ……最初からこうなっちゃう気はしたの。ホントに」

「リリちゃんに後いとかないの?」唐突すぎる割りこみはもちろんヒカルちゃんだ。


「なんだろ……結局はどれが正しい行動だったかなんて先になんないとわかんない。

それでもウワサで聴いた博多よりこっちのジロウくんやヒカルちゃんに救われたよ。

魔法少女っぽい演技でずぅっと遊んだパチスロ。あれってめちゃくちゃ楽しかった」



「あたしたちのお仕事でもあるパチスロ演者って……見て喜んでくれる人がいるの。

それでいて勝っても負けても最後まで自分が楽しみたいから遊べるゲームでもある」


「まぁ元々オレも深夜放送パチスロ番組デビューして大学は追放されたんだけどな。

それでも後悔なんて一切ないぐらいレージ先輩や姐さんには感謝の気持ちが大きい。

愛とか恋じゃないにせよリリがこっちで暮らすならフォローはもちろんオレがやる」


「リリちゃんの面倒ついでにあたしもお願いしますねジロウさん。ご褒美がわり!」 

「うんうんうんヒカルちゃんとジロウくんにリリ……三人一緒で暮らすと楽しいね」


「ちょっと待った。不満云々じゃなくて年頃の男女……リリはお子ちゃまだけどさ。

同じ部屋で男女が一緒に暮らすってことは同棲……シェアハウスじゃないんだから」



「「ご褒美もらう約束した限りは責任とってわたしたち一緒に面倒見てよねっ!」」



 ちょっと待て……そんなのないない。アニメみたいなハーレム展開はあり得ない。

レージ先輩はハッピーエンドって……違うな。誰に対しての理想的なラストなんだ。


 家族なんて存在を信じたことはなく作りたい気持ちが最初からあったはずもない。

あらゆる意味でペテン……詐欺師に引っかかったおバカは結局オレ独りだけだよな。


 二十代半ばの同業美女はボンキュッボン。一見して中学生でも成人した美少女だ。 

お互いに恋愛どころかすべて乗り越えて同棲から始まる家族じみた不自然な関係性。


 なんとなく……はめられた感はある。姐さんとレージ先輩の怪しい言動の数々だ。

それでも一応どころかあらゆる意味で世界にとってハッピーエンドかもしれないな。



 手のひらに太陽を透かし見たいわけじゃないオレたちの未来は地上ここより下にある。

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