IF後日談 転移先の見えない未来?

 泣いても悔やんでもやり直しなんて不可能だけど。それでも最後に希望はあるよ。

パンドラの箱……あれなんだったかな。まだ自意識が芽生える前の子ども時代かも。


 物心つかない幼いころ傍で添い寝した……在りし日に母がいた記憶かもしれない。


 もちろん生まれた国がもうすこし健全だった時代の孤児院は人員に余裕があった。

子どもを亡くして間もない女性に慰められた記憶が戻った可能性がないこともない。


【転移ノ先ハ選択デ博多ダ】――頭の声に合わせたように前で巨大な扉が稼働する。



 偶然が絡まり合い逢えるはずもない相手の傍まで跳べたことは僥倖かもしれない。

SFタイムパラドックスみたいに錯綜した時空の歪みを修正できるかもわかんない。


 わたしがジロウくんの傍にいたいだけだから七年でやるべきことはたくさんある。


 まずは一つずつ見えた問題を解決しながら大人になる努力とダンジョンの攻略だ。

博多のダンジョンに詳しい仲間を見つけて新たな関係を育み時間軸を進んでみたい。


 もちろん今度は相手から口説かれるように艶気や雰囲気を秘めた大人になりたい。

ジロウくんが求めるようなボンキュッボンの体型にして理に聡いデキル女が理想形。



 背後に見える石膏の大階段はダンジョンに降りるための共通したギミックなんだ。

目前の大扉から出現する六人組の男たちは統一感ある装備で人種がまちまちじゃん。


 日本共和国の軍人さんかもしれない男たちにすれ違いざまでチラ見されただけだ。

小中学生にしか見えないお子ちゃまが単独でダンジョン出口にいれば驚きもするね。


 あの敗戦から三分割で統治される日本。日本帝国に日本統一連合と日本共和国だ。


 帝国生まれのわたしたちが目指した南の日本共和国は古の大英帝国を母体とする。

九州全域と南西諸島から朝鮮半島。中国大陸からインドとアジアの全域が支配下だ。


 もちろんアメリカ合衆国が母体になる日本統一連合も自由主義陣営の所属になる。

それでも北米特有の粗っぽい人種と静かな雅を好む大和民族は妙にわかり合えない。


 ごっちゃ煮と他陣営から嘲笑される日本共和国は肌色から信条に宗教まで様々だ。



 わたしみたいな年齢不詳でロシア系の異民族が密かに紛れこむなら理想的な陣営。

カードをタッチパネルに触れさせて巨大扉を潜ると広いはずの人いきれに戸惑った。


 特段騒がしい左側は探索者協会が運営する酒場らしい雰囲気で雑多な酔っぱらい。

中央空間で大騒ぎする集団にアジア系や北方種に褐色肌と純粋ブラックまで見えた。


「なぁちっちゃいお嬢ちゃん。魔法を使えんならオレらのパーティーに歓迎するぜ」


 しゃがれた酒焼けのダミ声に合わせて左から手のひらで肩をつかまれそうになる。

びくっと身体を震わせながら右に飛び退るといきなりノッポさんに後肩を抱かれた。



「小汚いうるせぇオッサン連中はとっとと見えないとこいっちまえよ。顔見せんな。

この小さな女の子は今日からBランク【スプリング・ウインド】の魔術師さんだぜ」


 ガラの悪さを感じさせる口調で高く響いた若い女声に見上げる顔はかなり美形だ。

あれみたい……ホテルの有線放送で見た宝塚歌劇団じゃん主人公の高身長イケメン。


 ジロウくんには届かないんだけどわたしの頭が胸の位置にあり妙に落ちつけたよ。

Bランクなら同じ強さだし今後を考えるなら雰囲気に流されていいのかもしんない。


「えっと同じBランクのリリ……だけど初対面よ。魔法使いってなんでわかるの?」

「そりゃさぁちっちゃい身体に武器や装備なし。荷物が黒いリュックだけじゃん?」


 白黒のワンピースに包まれるだけで装備は皆無の小柄な女子だ。ほんそれだよね。

イケメンさんな彼女が膝から全身を折り曲げて耳元に小さくささやき声をこぼした。



「それに……うちのヒーラーちゃんあんたのご登場を予知? 予感してのお迎えね」


 ちょっと先に見えるのは探索者協会の受付だった。受付嬢と並ぶ四人組は女の子。

背丈から肌色に種族まで違う。すべてバラバラに見える雰囲気だから楽しめそうだ。


 おもしろい……いや丁度いいのかもしれない。運命の人お代わりされたんだよね。

ダンジョンの奥に潜むカミサマみたいな誰かがくれたオマケの出血大サービスかな。



 当たり前すぎて考えもしない運命の人。それは恋愛的な意味の相手とは限らない。


 女にとって恋愛対象なんて一人でいい。むしろ運命の人がたくさんいると困るよ。

もちろん茶化すつもりはないし死がふたりを分かつまで一緒にいたいジロウくんだ。


 女に生まれた人生でよかったのは……もちろんジロウくんに出逢えたことなんだ。


 七年後になるのかなぁ……いずれは遭わなきゃいけないからイタズラしちゃった。

ジロウくん男だからマジで笑えないかもしんないけど許してくれるって信じてるよ。



 イケメン女子に優しく背中を押された。一歩ずつでも進もうか……未来に向けて。

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