IF13話 陸自幹部とダンジョン?

 もちろんフロントでチェックアウトせず外出を伝えて目的地は徒歩で移動になる。

オレは長そでカッターシャツに黒革ジャケットを羽織ると極細の皮パンツを履いた。


 ちょっとごつめのロングブーツに替えた理由は防御力と攻撃面を意識する武装だ。

また聞きしたダンジョンに興味なかったがモンスターを討伐することに抵抗もない。


 リリは出現時点のワンピース姿に戻して地味な革靴にバックパックはコールマン。

パンパンに膨れる黒リュックの中身が古着とアクセサリーで見た目より重さはない。



 白い擁壁に囲まれた入口で歩哨に立つ門衛に声かけすると顔を見せた幹部自衛官。


「お待たせしましたジロウさん陸自の葛城二佐と申します。佳二さんから噂は常々。

本来ならお尋ねしたいことは多々ありますが副総裁の制限が入りまして残念ですよ」


 まったく笑っていない両目が恐ろしく映る幹部自衛官が入口までの案内役らしい。

やれやれと感じながらもレージ先輩を経由して佳二くんに配慮されたことで一安心。



 無駄話はせず原爆ドームと乖離した雰囲気を持つ奇妙な文様の巨大扉に到着する。


「うん。ダンジョンの入口扉ってどこも同じ。たぶん大丈夫なはずなんだけど……」

 ごそごそポケットを探るリリが片手で引きだす名刺サイズのカードがきらめいた。


「それがダンジョンに出入りするためのカードなんだね。オレのもらえたりする?」

 そうつぶやいたのと同時に目前の空中が七色に輝いてきらめくカードが落下した。


 躊躇うこともなく拾い上げたカードの表面に0が6つ並ぶ十一桁の数字が見えた。

すぐ下にあるのは使うこともない捨てたはずの本名……宗二郎・本間・オルドリン。


「それがダンジョン入退出キーがわりのカードだよ。裏にスキルが出現しちゃうの」

「スキルか……なるほど。リリが魔法を使えるんならそっち系統のスキルなんだね」


 視界の隅っこで確認できた葛城二佐の双眸が胡散くさげに瞬いたようにも見える。



「他人いるからナイショ。ダンジョンモンスターに対して使うからわかっちゃうし」

「そらそうだよな……葛城二佐ありがとうございます。案内はここで結構ですから」


「いえいえ副総裁による指示ですから。いずれ佳二さんに相談させていただきます」

「まぁお伝えできる範囲でしょうが政府関係者に必要なら拒否なんてしませんから」


「了解しました……いずれまたお会いしましょう」敬礼してから葛城が姿を消した。



「わたしが消えた後ならさぁ……周囲のお漏らしするぐらいぜんぜん問題ないから。

そもそもがイレギュラーで事故みたいな世界間の転移……ホントにマンガみたいだ」


「ちょこちょこと話を盛ってごまかしながら周囲にうまいこと伝えるから平気だよ。

姐さんと先輩に相談すれば……お揃いでオレやリリよりめちゃくちゃ博識だからさ」

「うん。その辺はジロウくんにお任せになる。わたしがいなくなったら証拠ないし」


 リリが巨大扉の傍に見えるタッチパネルっぽい光る場所にカードを触れ合わせた。


【キー認識セズ実行エラー】――いきなり頭で響いた機械音に驚きリリを見つめる。


「やっぱりこうなっちゃうよね。あっちのダンジョンから跳ばされて屋外だったし。

ダンジョン攻略した直後で正規に判定される前のつぶやきで……世界間移動の事故」



【エラー解除ト世界ノ登録】――再び頭に響いた機械音に併せてリリに問いかける。


「リリに質問なんだけど……こっちでダンジョン誕生したのは今年の頭なんだよね。

チラッとだけ聴いた話だけど一層を攻略して世界のダンジョンで調整するらしくて」


「えぇっそんなことナイナイ……ってかそれおかしいよ。ダンジョンできて八年目。

あっちの世界じゃ攻略することのメリットで世界が変わりつつあるくらいなんだし」


「ちょっと待ってリリ。2023年1月23日……日没の大阪に連動した地震だよ。

直後に同期してダンジョンが生まれてから……新三国同盟とか様々な変容を遂げた」



「その話どこかでちょっと聴いた。ダンジョンの日に制定された記念みたいなヤツ」

「ちょっと待ったちょびっとだけ考えさせてよ。七年後の並行世界からリリがきた。

偶然みたいな事故でジャンプさせられた場所が大阪市中央区三津寺の路地裏だった」


「違うちがうチガウ。なんとなく願ったのは運命の人がいるなら傍に行きたいだよ。

ダンジョンを攻略できた人の想いや願いが強いほど実現しやすいって常識だからね」


 たまたまだとか運命の出会いなんて言葉はすべて後づけにすぎない結果論なんだ。

引き寄せの法則って意味ならかなり近いかもしれないが偶然の交錯は運命に変わる。


 どこで耳にした言葉だっけ? 量子力学の並行世界は傍にあっても触れないんだ。

近くに感じても限りなく遠い場所だから見えないし誰にもたどり着けない異世界だ。

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