IF11話 原爆ドームダンジョン?

 世界遺産に登録認定された原爆ドームは戦時中広島産業奨励館と呼ばれた記念碑。

半壊した状態のままで保存され令和時代に原子爆弾の恐ろしさを伝えている場所だ。


 もちろんゲートパークや三角州の時計塔から平和記念公園まで含めてワンセット。

いくつものホテルやデパートが立ち並ぶ繫華街の中心部で紙屋町と呼ばれる地域だ。


 ダンジョン化した自衛隊が管理する敷地内に車両を乗り入れるのは不可能だろう。

ちょっと歩くことになるが県庁の傍にあるコインパーキングにゴルフを停車させた。



 まだディナーには早すぎる夕刻で姐さんと先輩から返信が届けられる気配がない。

一周回って車体を確認するとごついバンパーの凹み程度で目立つ傷は見当たらない。


 あきらかに普通じゃなかったシビックの関係者に訴えられる可能性はかなり薄い。

とりあえず連絡待ちの狭間でディナーだけは済ませたいがアルコールはまずすぎる。


「あれ原爆ドーム……ダンジョンのすぐ傍にきた。これからリリはどうしたいの?」



「うん。いろいろ考えたんだけどダンジョンに入りたいだけであわてる理由もない。

わたしの未來……選択肢の問題だからジロウくんに着いてきてなんて頼めないしね」


 ゴルフの助手席に座るリリがつぶやくと同時に手のひらを組んで軽く頭を下げた。


「呉越同舟じゃないんだけど仲は悪くないし……最後まで見届けたいのが本音かな。

まぁあれだ。拒否する理由がないならリリの姿がここから消えるまで近くにいるよ」



 憐みじゃないし恋心とか愛情なんて一言にまとめて説明するような関係じゃない。

そもそもミナミで邂逅してから短い時間で恋に落ちるなんてちゃんちゃらおかしい。


「ジロウくん……なんでなんでなんで。わたしからお返しなんてできないんだけど」


「あっはっはっはっ。子どもを守って導くことは真っ当なオトナの義務だからなぁ。

実際には何百年も死なないような魔女だったしても……保護者としての特権かもね」


「そんなに長生きするような化物じゃないんだけど……本物の魔法使えるんだよ!」


「おぉふリアル魔法少女リリちゃんかよ。月に変わってお仕置きしちゃえるヤツ?」

「そっちじゃないし……ジロウくんさぁ。最初から信じる気持ちとかないんでしょ」



「なんかオレが極悪非道のナンパ師。ホスト野郎みたいな言い分じゃね……笑える」

「だってジロウくん。ボンキュッボン女に粉かけてもわたしなんてガン無視じゃん」


「いやいやいやいやリリめっちゃ可愛いと思うよ。好きだけど手はだせないからね」

「なんでよ? わたしだって思春期の女の子だからオトコを欲しいって感情もある」


「いやぁたとえそうでもかなりヤベェじゃん。オレにはロリィタの趣味ねぇからさ」

「ロリィタじゃねぇ。こんなんで十八の成人なんだから……あぅバラしちゃったし」


「エイティーン…………それまじすか。どう見ても永遠の十四歳。中二の病じゃん」

「ひどいひどいひどいよジロウくん。マジもんで男のクズじゃん。ウラギリモノだ」


 真っ赤な顔をしながら子どもみたいにぐるぐる細い腕を振り回す仕草が愛らしい。



「うーん。実のところ性格とかおしゃべり聴いていると子どもって意識はないんだ。

オトナじゃねぇのって感じるぐらいの仕草でもハイタッチをおねだりしちゃうよね」

「うぅぅ別にいいじゃん。いままで周りにロクな男いなかったせいで……大人だよ」


「いやぁ言い訳でもないんだけどさ。結構ロクでもないミナミの元バーテンだぜ?」

「そんなこと最初っからわかってる。細身の金髪碧眼ノッポで強いのヤバいじゃん」


「あぁ純正日本人に程遠いから。母は沖縄生まれの日系ダブルで父がアメリカ兵だ。

つぅのか顔も見たことがない父は北欧ヴァイキングの血を引く元海兵隊員らしいぜ」


 夜遊びばっかでローティーン出産した母の戯言が真実かどうかなんてわからない。



「ふーん日本語ペラペラでも血筋がクオーターなんだ。わたしたちって正反対だね」

「そりゃ沖縄生まれの博多育ちじゃん。日本語以外話せないおかしな混血野郎ミックスだよ」


「そっかぁ。わたしは気づいたらスラム街にいて選択肢なんてなんにもなかったよ。

それでも国に保護されて上限年齢で放逐されてすぐ樺太のダンジョンに向かったの」



「千島樺太か……こっちじゃ北方領土は二次大戦の敗北からロシア領土なんだけど」

「やっぱしそうなんだ……わたしはダンジョン深層の攻略で……って話しちゃダメ。

とにかくイロイロあってなんていうか……カミサマみたいな相手にお願いしたから」


「カミサマお願い……笑っちゃダメだが古い流行歌みたいな言葉がリリに合わない」

「『運命の人がいるなら傍に行きたい』なんとなく頭に浮かんでつぶやいたのかな。

かなうはずないと思っても迷うことなく浮かんだの。本土に跳べるはずだったのに」


 別に興味本位からリリに尋ねたわけじゃない……なんでこんな流れになったんだ。


 発育遅れの十八才乙……成人だったとしても超絶ヤバすぎるワードだらけじゃん。

運命の人……いやいやいやいた。じゃない生まれた直後のダンジョンを攻略できた?

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