「手のひらに幸せをつかもう！」逆転移魔法少女と元バーテンダーがラリー車で進む不明瞭なミライ

ＩＦ10話 ハイウェイでは大乱戦？

「ヤバいしヤバいよまじヤバだから前マエまえ。近すぎるんだよぉジロウくぅん！」

　いつもなら見た目の年齢にそぐわないほど冷静すぎるリリが絶賛混乱中で笑える。

「ちゃんと確認してるからリリも落ちついてこいつらは絶妙に避けるから大丈夫だ」

　アクセル落とし気味にすると絶妙なタイミングで前走車がブレーキングを決める。

　こちらが相手を認識したことに気づいた瞬間の絶妙すぎる減速はプロ並みだった。

たぶん小指一本分ぐらいの車間距離を常にキープしながら右斜め前方に切りこんだ。

「キャアァァァッ！」シートに貼りついたままの助手席で声にならないリリが叫ぶ。

　ヤバいかもしれない勢いのままで中央分離帯ガードレールを軽くかすめたらしい。

ワーゲンゴルフの高性能に期待しながら六速にチェンジしてアクセルをベタ踏みだ。

　ほんとうに人生なんて一寸先は闇だからワールドスピードな未来なんて必要ない。

冒険活劇なんて死の代名詞だから三十路で頭頂部をハゲ散らかしたくないんだよね。

　庄原ＩＣから割りこんだのか路肩に待機してたらしいからどこかで情報が漏れた。

グーグルさんを信頼しすぎたのかＷｉ―ｆｉがクラッキングされた可能性は微レ存。

　深夜から早朝までのハッキングなら相手側の対応が微妙に早すぎる感はあるよな。

こちらの移動がラリー仕様車なんてことは誰も予測不能なはずで違和感が半端ない。

　ＷＲＣに参戦したシビッククーペならば四駆で４００馬力のＲＸスーパーカーだ。

低速トルクは別にして１．５倍以上のパワーユニットにテクノロジー部分が最新型。

　ドライビングテクニックもチラ見した限りでは同等以上にはラリー慣れしている。

　最新のハイブリッド車ってヤツは速いのが取り柄でもエンジン音はお飾りなんだ。

こっちはシャーシとフレームの剛性なら優位……つまり重いことが利点に働くよな。

　ミラーに反射しても窓の全面がスモークガラスで車体は艶消しのブラックだった。

シビック三台の運転手以外に誰がいるのか見えないし荒事の専門家の可能性はある。

　あんまり使いたくはなかったが小汚いテクニックを使ってぶつけるしかないかも。

マジのワイルドスピードな展開だけど……言霊か死亡フラグを乱立したのが結論だ。

「ごめんよリリ……避けられないバトルの始まりらしいよ。もっと揺れちゃうかな」

　助手席のリリに目線を合わせると自分の手のひらで一瞬だけ強烈に闘魂注入する。

生前のアントニオ猪木さんみたいに負けられない闘いなら必殺の心構えがいるよな。

　幸いだったのは邪魔になる一般車両が見えないことに一対三なら恐れるに足らず。

近すぎずに離れない距離を律儀に守ってくれる間にこっちから反撃すればいいんだ。

　エンジンブレーキで急制動しながら無理くりの操作で車体を捻って半回転させる。

戸惑うようにして左右に分かれた二台と併せてアクセルを全開にして横スクロール。

　一トンを超える豪快なぶちかましが直撃した一台は左のガードレールで大破した。

もう一台は中央分離帯に大きく弾んで跳ばされたのか半回転しながら停車している。

「最後の一台どこだ？」ハンドルを握り締めながら周囲に視線を巡らせると見えた。

　大きな車間距離をとりながら様子をうかがうシビックが急反転しながら近づいた。

「ＹＯＵぶつけちゃいなよ！」声に誘われて目をやるとリリが真っ赤な顔を伏せる。

「美少女の声援なら応えるしかないよねぇ。あんなザコは木端微塵にしちゃうぜ！」

　こっちに向けて急加速する最後の一台……黒いシビックに右からのぶちかましだ。

本格的なラリー仕様車でもゾウやサイの突進は避けられないから対抗手段も少ない。

　ラスト一台は炎上こそしなかったが白煙に包まれながら路肩域に留まったままだ。

「アッハッハッハ。ジロウくんってなんか最高すぎるんじゃん！　イエェェィッ！」

　満面の笑みで言葉に合わせるようにして腕を掲げながらハイタッチを迫るリリだ。

「喜ぶべきかもわかんないんだけどさ。まぁ勝てば官軍で負けると賊軍なんだよね」

　お姫さまのご要望なら仕方がないね。シートベルトのままで軽めにハイタッチだ。

　山岳地帯の狭間で監視カメラもないから騒ぎにならないうちに撤収しちゃおうか。

　よくわからないラリー仕様車のシビッククーペを横目にして目指す場所は市内だ。

安佐サービスエリアはスルーで広島北ジャンクションから先は緩い左曲がりになる。

　蛇行しながら風景は市街地に変わり広島ジャンクションを降りると四号線だった。

道なりに市内の中心部を目指す自動車専用道路はそれなりに渋滞してものんびり感。

　そのまま四号線で天満川の中広大橋を渡ると繁華街に入り目的地はすぐ先にある。

広島名物路面電車に並走して十日市町の交差点を左折すると相生通りをまっすぐだ。

　大きな旧太田川の上を走り抜けると右前方に折り鶴タワーや原爆ドームが見えた。

「……………」長期保存された半壊する建屋を見つめてリリは無心に祈りを捧げる。

　ここ広島が旅の終焉地になるか現時点で未来がわかる存在なんてどこにもいない。