IF9話 ハイウェイを西進中に?

「はぁいちゃんとフーフーして冷やしたから熱くないよ。お口もっと開けてあーん」

 なんてこった助手席からリリの細い腕が伸びて指先のつまようじまでチラ見えだ。


 穴子入り玉子焼きで口内は激アツだけどめっちゃフワフワとろとろで最高じゃん。

ダメすぎる住所不定の元バーテンがなんで真っ白な美少女からあーんされてんだよ。


 この不可解すぎる状況を頭が拒否したくなり今朝からの経緯を振り返ってみたい。



 深い眠りから目覚めた高級ホテルで温かいシャワーを浴び終えて身支度を整える。

オレは黒いメイドインイタリーの長そでシャツに極細の綿パンでラフなスタイルだ。


 もちろんリリは購入したばかりで新品に等しい古着ワンピースが涼しげに見えた。


 それなりに評判のいい朝食バイキングで和洋中それぞれ旬を満喫して満足できた。

芳醇な香りが漂う熱々のコーヒーとリリのフレッシュジュースは絞り立てのようだ。


 ドアマンの手で玄関前に移されたワーゲンゴルフに手荷物を載せると出立になる。

それなりの車列が並ぶ騒々しい二号線は海岸や線路と交錯して進む西向きルートだ。



「あの沖まで続いてる長い道の先に見える建屋とか堤防ってなんのためにあるの?」


「あぁあれは垂水の魚釣り公園だったかな。海上にある有料釣り堀みたいな施設?」

 訪れたことはないが生け簀と外向き堤防からそれなりに大物が釣れると聴いたよ。


「こんなに近くてもお魚さん釣れちゃうんだ。あのおっきな橋の左が淡路島だよね」


「そだね。淡路島の玄関口が岩屋港で舞子ジャンクションからハイウェイでも直結。

世界で最大の吊り橋だったかな。明石海峡大橋を超えるとすぐ目的地の魚市場だよ」


 元町から神戸が繁華街になり兵庫をすぎるとたまに店舗が見える程度の田舎道だ。

二号線に並走するJR神戸線の新快速電車なら神戸から明石はノンストップになる。


 時間的に寄れなかったが須磨海浜公園が最寄りの水族館は見どころが満点らしい。

垂水周辺は大きな商店街が見えたし新長田の名物は鉄人28号の等身大オブジェだ。



 ホテルの朝食バイキングで満腹になってから一時間ほどのドライブが快適すぎた。


 明石港で適当なコインパーキングにゴルフを停車してからリリとの散策を楽しむ。

レージ先輩の話じゃ玉子焼きに限らず海鮮系のメニューはそれなりにお得らしいよ。


 魚の棚商店街にある古風な民家で並びタコと穴子の玉子焼き二種類を購入できた。



 ついでにドリンクをまとめ買いしてから車両に戻ると二号線で山陽明石を目指す。

ここで冒頭に戻り右折して175号線から玉津ICで有料の第二神明道路に合流だ。


 あーんしながらもリリは冷めないようにとお口いっぱいの玉子焼きをほお張った。


 カウボーイビバップのジャズピアノにノリノリのリリがハミングを合わせて歌う。

あのエンディングテーマみたいに全身が躍動しながら恍惚の表情をしてるんだけど。


 とりあえず数台分の車間距離を空けながら流れに任せたハイウェイのドライブだ。

自然があふれる木々に囲まれた直線路を颯爽と走り上機嫌の美少女が助手席で踊る。



 情けないような半生がなぜこんなことになったのかと自分でイマイチわからない。

加古川バイパスを抜けてから姫路バイパスの福崎ICまでは播但自動車道路を走る。



 中国道に合流できれば補強された剛性シャーシボディと高性能タイヤが活躍する。

昔の半端ないスーパーチャージャーで颯爽と加速しながら四輪駆動で大地を駆けた。


 街道レースは平成で消滅してアクションが売りのハリウッド・シネマは人気低迷。

数億円のスーパーカーをぶつけ合い炎上させるのは禿げたジジイだけで十分すぎる。


 現代社会にマフィアや賞金稼ぎなみたいな職業は表面的には存在するはずがない。

それでも右翼の街宣車が走り回り闇カジノやスロット店なら深夜のミナミでも定番。



 ごみ集積場だった夢洲を地盤改良して再来年に開催する予定の大阪万博は危うい。

建設業の圧倒的な職人不足と資材の高騰でパビリオンの建設でもイエローカードだ。


 金銭のチカラで無双するつもりの地域政党と国家与党のタッグには赤信号が灯る。

開催の時期を数年ずらしてでも大幅な規模縮小は免れないと市民目線で俯瞰したい。


 それでも数年後に誘致する海外資本統合型リゾート施設のIR成立が先に見える。

合法カジノに数千台のスロットを設置できれば夜の界隈から闇組織が消えるはずだ。


 よくも悪くも表裏で業界団体の思惑が合致するのなら成功する可能性はまだ残る。

落ちぶれたオレは朝の情報番組で激昂するような偉そうなご意見番じゃないけどね。



 姫路から岡山が近くなっても風景は変わらないし休憩でドライブインに立ち寄る。

悪くない評判の勝央サービスエリアで一休みして津山から先は広島に入るんだよな。


 どこで下道に降りれば原爆ドームに一番近くなるだろうかと庄原ICを通過する。

「ジロウくん危ないないって!」脳内でルートを検索中急に響きわたる少女の悲鳴。



 気づけば低車高が際立つ黒いシビックが前にいて同じタイプに左右から囲まれる。

かなりヤバい状況はこんなことがあろうかとみたいな事前対策を怠ったせいだろう。


 どう見ても真っ当じゃない黒いシビックはWRCに参戦済みのラリー仕様車だよ。

見えない敵を意識することでフラグが立つはずもないと高をくくったから笑えない。

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