第32話 レバーオン撮影(3)?

「なにがゴッドの日だよ。ハーデス二列……人いねぇ。稼働まったくねぇじゃん!」

 スマスロ導入から北斗の拳は大人気……あらゆる意味で負けたハーデスに客数人。


 ガラガラだから選び放題のシマ全域にまりもさんの笑えない絶叫がやたら響いた。

早朝から行列を作る客層の大半がパチンコに流れたことも要因になるかもしれない。



 最新6.5号機で屈指の爆発力だ。そう定評あるハーデスも朝一から稼働しない。

そもそも景気が低迷中の現代に終日ぶん回されるようなパチスロ台は皆無になった。


 大昔は実売価格が三十万のパチスロ台も近年は五十……を軽く超えるほど高額だ。

それでも強気の姿勢を一切崩さないメーカー側は抱き合わせ販売やらで大儲けする。


 新台が話題を呼んで年単位に稼働して貢献できるなら店の不満なんて爆発しない。

現代のパチスロはジャグラーなど一部人気機種を除きあまりにも稼働率が悪すぎた。


 爆発力があるかないかも判断つかない営業マンのセールストークで機種予約する。

新台の導入時から稼働貢献週で一か月を切る状況が普通に起こりえるえげつなさだ。



 明らかな違法のモーニングセットは抜きにして現代は朝一メリットがなさすぎる。

リセットでガックンしてくれるジャグラーは店が1ゲーム回すだけでもわからない。


 これから打つハーデス槍撃はリセットの高確率状態なんて十数分の一にすぎない。

高設定は優遇されるだけでレアフラグを引くとヘルモードが来ても判断はつかない。


 液晶の表示上で奇数テンパイが多発するような低設定の据置台もあり判別困難だ。

朝一での冥界モードは……かなりメリットでも設定値による確率差がほとんどない。


 リセットでヘルモードに突入する台の多数が低確率状態でメリットもあまりない。

冥界モードジャッジメントでハーデス以上がくることはもちろん大きな恩恵になる。


 それでもカニ歩きしてまで全台を数十ゲーム回すのは時間効率的にもムダが多い。

そんなこんなでメイン通路角から順序よくリリやヒカルと並んでハーデスを遊戯だ。



 背後の角台からバッチさんとまりもさんが座るこの状況下なら指示を仰ぎやすい。

オレみたいな半端ものじゃないお二人はパチスロ業界なら神さまみたいな存在感だ。


「なんかいきなり鎖みたいなやつ降ってきちゃった……リリのこれっていいヤツ?」

 なんとなく物思いにふけりながら粛々とレバーオンする状況でいきなり声が響く。


 リリの声と被せるように首振りしながらリールをのぞきこむとヘルゾーン突入だ。

リリにストップを指示してから直上のデータ表示器で確認しても絶妙にわからない。


 前日の最終ゲーム数が見えないタイプの表示器だからリセットの判断はつかない。

とりあえず5ゲーム単位のチャンスゾーン中に……レアフラグを引けば優遇される。



「朝一からのヘルゾーン突入なんて……リリそれってマジもんのチャンスなんだよ」

「そんなのしらない。どしたらいいかもリリわかんないし? ホントに困っちゃう」


「どうしようもこうしようもないんだけど……まぁレア小役を引ければいいんだよ」

「ふぅん。じゃあ今日もリリちゃん……みんなのパワーを借りてがんばっちゃう!」



「またまた皆さんにお願いです……リリにパワー分けてちょうだい。ドキューン!」


 インパクトありありの完璧なカメラ目線……微笑んだリリがやばいよヤバすぎる。

「うぉぅっ魔法少女リリちゃん……今日もがんばってねっ!」遠くからの唸り声だ。


 勢いに釣られて振り向くと声を合わせた子デブさんとメガネのひょろくんがいた。

レバーオンすると同時のヘルゾーンの状態は赤背景で液晶の表示がプッシュボタン。


 これは間違いなしのレアフラグだよ……これってリプレイ以外なら激アツじゃね?



「なんかおっきな音が鳴ってデッカいボタンきた。当たったっぽいし……えいっ!」


 満面の笑顔に変わるリリがパンパンパンと止めるとリールは完全に小役ハズレ目。

だがしかし……すぐに液晶上の3テンパイに被せるようなプッシュボタンが現れた。


「ジャッジメントじゃん……リリのそれで大当たりだよ。右上の光るボタン押して」

「へぇっ。えいやぁとぅっ!」プッシュで派手な音楽と液晶に3の絵柄が停止する。


「うおぅ。これがホンモノの魔法少女リリちゃんパワーかよっ。マジですんげぇ!」

「ネットの大騒ぎなんて……あんなのぜったいヤラセと思ったらほんものだったし」


 驚愕したバッチさんの叫び声と同期するように普段は冷静なまりもさんが応じる。

ネットのお祭り騒ぎはあれから継続中かもしれない……半端ないリリの影響力だよ。



 もちろんというべきなのか朝一からのジャッジメントは…ハーデスでスタートだ。

プレミアム・ゴッド・ハーデスは継続するゲーム数が10プラスアルファで増える。


 平均の上乗せ数は300ゲームとされているがこれはもちろんすべてが引き次第。

十ゲームの間に冥王図柄を揃えるとそこで一度リセットされて再びやり直しできる。


 さほど確率自体は高くないが五回連続揃えられるとハーデスごとストックになる。

もしもの話になるけれど朝一およそ800ゲーム上乗せすればそれだけでも完走だ。


 6,5号機の宿命である純増が2400枚した時点で強制終了される状態になる。

完走した状態から再び1/4になる朝一ペルセポネ恩恵を絡めながらループを狙う。


 設定値はほとんど無関係に一撃数千枚を獲得できる可能性を持つ仕様が生まれた。

ここから先のリリがどうなるのか……見えない未来なんて神さまにしかわからない。

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