第30話 レバーオン撮影(1)?

「皆さんかなりのお久しぶりになります。数年ぶりに復活しました山口レバーオン。

司会はわたくしパチスロ必勝ガイドに所属のまりも。いつものこいつが傍にいます」

 がさつな手振りで中肉中背の……一見知的な優男が坊主頭の相方を指さし笑った。


「ホントご覧の皆さんお疲れさまです。いやぁまさか特番でも復活してビックリよ。

まりもさんと一緒に司会と進行役でわたしパチスロ攻略マガジンの松本バッチです」

 右手で坊主頭を押さえながら大口を開けるネタ返しに即応して空気まで和らげた。



「実はわたしもビックリなんですが一昨日? このパチスロ業界激震が走りました。

岡山のスロゲーセンで撮影した古4号機。大花火Maxチャレンジ動画が大バズり」

 いきなり初っ端のツカミでネタ……大バズりから入るのはかなりの虚を突かれた。


「そぅそぅそぅ。まりもさんってちょっと前に北海道で同じことやられましたよね。

そっちなんて全然話題になってませんけど演者さん超可愛いだけで大バズりですわ」

 めっちゃ先輩のまりもさんをわざわざイジりまくるバッチさんは頭いいんだよな。


 いきなり唐突すぎるようなかけ合いから始まった展開でも恒例行事かもしれない。

もちろん周囲に大勢のスタッフが並んだお店の裏口でかなり早くから勢揃いしたよ。


 当然オレの左右にちゃんとヒカルとリリがいてワクワクした表情で二人を見守る。



「いちいちそんなネタ振りなんてしなくていいから。こっちもホントわかってんの。

地味なオッサン同じことやってもマニアしか見ない。アニメみたいな美少女ちゃん。

めちゃくちゃ可愛い子やっちゃうだけで……めちゃくちゃバズっちゃうんだよなぁ」


 ため息つきながら苦笑いするまりもさんがネタなのか本心かは微妙にわからない。


「まぁいいじゃないですかまりもさん。おかげで自分ら呼ばれて新装の取材ですよ。

山口レバーオンとジャンバリ放送局でコラボしながら本日やっていこうと思います」


 言葉を区切ったバッチさんが徐に手のひらをちょいちょいしながらリリを呼んだ。

「それで……いつものちっちゃいオッサンとオバサン。本日はお揃いで不参加です。

その代わりといっちゃうのアレなんだけどスペシャルゲストが……三人いますから」



 画角外からバッチさんの傍に駆け寄ると見事すぎるダブルピースを決めるリリだ。


「皆さんおはようございます! 呼ばれてとびだしたのは魔法少女リリちゃんです。

なんか一昨日の岡山とか昨日の広島でバズっちゃってヒカルちゃんが傍にいまぁす」


 満面の笑みでカメラ目線……リリに名指しされてから驚いた顔で駆け寄るヒカル。

「皆さんお疲れさまです。ジャンバリ放送局の演者……虹色ヒカルもお願いします。

わたしたちのフォロー役? ジャンバリ紅バラ軍団のジロウさんこちらになります」


 いつもながらの打ち合わせ一切なしの現場で……完全にアドリブ展開は仕方ない。

ゆっくりと画角外からリリの背後まで歩み寄ると……カメラ目線になり自己紹介だ。


「山口レバーオン本放送あるいはyoutubeの配信動画をご視聴中の皆さま方。

遠い関西からやってきました我々三人……目下のところネット上でなぜか大バズり。

こちらのお店が本日の九時から新装開店……ゲストで揃って御呼ばれした次第です」



「おぉジロウくん立派なごあいさつ。我々二人は初対面ですが噂は常々聴いてます。

二メートルに近い背丈で金髪碧眼の超イケメンくん。しかも業界歴かなり長めです」

「そぅそぅ。あの伝説になった地方局の深夜番組ガチスロでデビュー組なんですわ」


 茶々入れするようなまりもさんに乗っけたバッチさん。まぁもちろん噓じゃない。

「同じ必勝ガイドでかつて活躍されました覆面ライターさん直々のお弟子さんです。

そのジロウくんの愛弟子みたいなハーレム。美女と美少女なんて妬ましすぎるよね」


「本当ホントほんと……我々も既婚者なんでいいたかないけど色男は蹴倒したいよ。

スロット歴とか知識ならぜったい負けてません。二人揃って叩きのめしましょうね」


「うんうん。バッチくんの知識と俺の運。イケメンなんて強敵は成敗しちゃおうぜ」

 なんかバッチさんとまりもさん二人の目つきが相当マジっぽく見えるのは変だよ。



「いきなりガチな敵認定されて……もちろん先輩でも負けたくないんで頑張ります。

こっちも勝利の女神……魔法少女リリちゃんと眷属の美女ヒカルちゃんがいますよ」


 まぁ今日はお仕事なんだ。勝負じゃないしこの場を盛り上げるのもオレの役目だ。

画面映えする意味でもネタになるからリップサービスするだけで各種の話題に上る。


「うおぉヒカルちゃん聴こえた? なんかジロウくんがいきなしデレちゃったけど」

「うんうん。あたしのこと眷属の美女ヒカルなんて……もう。ホントずるい男よね」


 頬を染めてくねくねするのはヒカルちゃん止めてね……悪い意味の炎上するから。

狭すぎる大阪ミナミならまだしも全国区でクズ男なんて呼ばれるのはキツいんだよ。



「ねぇバッチくん俺たちほっぽって……ハーレムやってんだけどアレってどうなの」

「そんなの仕方ないですまりもさん。どんなヒドいことやっても許されるイケメン。

俺たちなんて先輩と同業者でもお飾りされます。パセリ扱いなんて当たり前ですよ」


 これって完全にアドリブなんだけどネタだよな? 頭を抱えながら逃げたくなる。


「あっ抽選終わってから……再整列だって。お客さんの先行入場始まっちゃったよ。

あたしたちも早く最後列……並ばないと新台。好きな台なんて選べないからまずい」


 裏口を指しながら大きな声を上げたヒカルを見た瞬間に店のオープンを理解する。

さて五月八日最速導入台されたスマスロ……主役は銭形4。「新台が打てるかな?」



 店の巨大駐車場は1100台らしい。パチンコが720台でパチスロは480台。

岡山から西の営業は……開店が九時で閉店二十三時だ。最長で十四時間勝負になる。

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