第29話 本州西端の山口入りで?

「さすがに強キャラの美容師さんすぎる……仲間内だけでもかなりの有名人みたい」

 ネットの評判をまとめてチェックするヒカルの声まで余所行き風に上ずってるよ。


「リリのあれ……リアルの魔法少女アニメキャラだよな。どこか見覚えある髪型だ」

「なんとなくイメージできるのは魔法のプリンセスとかマジカル天使ちゃんかなぁ」


「ふふん。リリちゃん本物の魔女っ娘なんだよ。ここじゃ魔法を発動できないんだ」

 ほとんどないような胸を張りながらイキるようなリリはあざとすぎて逆に可愛い。


 ふらふらと駅前から弥生町に戻りワーゲンゴルフのトランクに手荷物を放りこむ。

軽めのランチは済ませたからゆっくり二号線をひたすら走り山口入りを目指す旅路。


 午後早めに出発したから二号線でいい……下道であわてることなく山口を目指す。

広島から岩国で……周南から防府入りになる。市内まで四時間ちょいの道のりかな。



 いつもながら後席から響く終わらないしゃべりをBGMに聞き流して安全運転だ。


 海が間近に迫る国道190号線添いにある大型店のユーコーラッキー宇部で収録。

業界歴なら大先輩になるまりもさんと饒舌で声のトーンまで高すぎるバッチさんだ。


 二人お揃いで初対面だが誌面記事や実戦動画でさんざんお世話になった先輩たち。

レバーオン本放送は終了したはずだけどyoutubeにコンビの動画を配信中だ。


 それなりに評判のいい既婚者さんだからヒカルとリリがコラボしても問題はない。

もちろんハナビストさんを筆頭にかなりのスタッフさんが生放送で撮影を担当する。


 ほぼ海岸と並走しながらほとんど直線に近い二号線は岩国から山岳ルートなんだ。

平日昼間の走行車線で他車とすれ違うこともほとんどないまま欽明路の先が街並み。



 しかし髪型をちょこっと変えるだけでかなりイメージは変わるもんだと実感中だ。

オレの目にリリが子どもにしか映らないのに膨大な信者が発生するのも是非はない。


 JR高水駅をすぎると線路に並走しながら田舎町を通過して徳山の市街地だった。

うねうねした二号線でひたすら西を目指すから長閑な風景に思わずあくびが漏れる。


 やっと周囲が都会っぽい雰囲気に変化したのは防府市内をスルーしながらになる。

新幹線の新山口駅周辺をスルーしながら目的地に近づくとほとんど宇部市は目前だ。


 国道190号線に逸れるとJR宇部線に並走しながら南への迂回ルートになった。

それなりの市街地を大回りしながら宇部新川駅前を交差してひたすら西向きになる。


 かなり幅の広い厚東川を通過するといよいよ目的地の手前になりニトリが見えた。

再び小さな川をすぎるとすぐ右手になる巨大な建屋がユーコーラッキーの宇部店だ。



「へぇぇ広島の弥生町タイガーとぜんぜん違う。めちゃくちゃおっきい店じゃん!」

 辺鄙なダンジョンからやってきたリリにとってはなにもかも新鮮に映るんだろう。 


 すぐ向こうにしゃぶしゃぶ店やドン・キホーテがあり左は回転ずしのスシローだ。

その向こう側でぼつんと見える高層ビルが恐らくは三ツ星ホテルのルートイン宇部。


「あの高層ビル三ツ星ホテルのルートイン宇部。ちょうど歩ける近さでいいじゃん」

 ぽつんと一軒家じゃない……一軒だけ見えた高層ホテルを指差したヒカルが笑う。


「ホントにほんと……ここら辺大きなお店いっぱいだしそこら中にお寿司屋さんだ」

 中国地方っぽい珍しい地魚が食べられるならディナーは和風の寿司屋でいいよな。



「とりあえずホテルの確保だよな。チェックインして晩飯に早いからお店を探そう」

「うんうん。海のすぐ傍で美味しいお魚さんいっぱいあるお店ならリリも食べたい」


 コンフォートツインの禁煙ルームにベッドを追加してもらえれば問題ないようだ。 

朝食バイキングは当然としても男女別の大浴場にラジウム温泉まで用意するホテル。


 リリのサポートをヒカル任せにして今夜のんびりすごせるのは非常にありがたい。

立体駐車場を無料で使えるのもありがたいがディナーのレストランだけは問題かな。


「なぁリリ。歩いて行ける範囲内に回らないお寿司屋さんはないけどどうしたい?」

「お寿司屋さんなら回らなくてもいんじゃね? 大きな回転ずし二つも見えたよね」


「最近スシローさんって評判よくないから……無添くら寿司ならちょっとはマシ?」

 美味しい寿司を食べさせたいヒカルがウェブにあるメニューの確認を始めだした。



「ざっと見た無添くら寿司さん……国産まぐろと地魚フェアなんてやってんじゃん」

「おぉ生まぐろの大トロとかあんの? あれってマジにめちゃめちゃ美味いんだよ」


 ヒカルが叫ぶ言葉に思わず反応したのは仕方ない。寿司は高くても旨けりゃいい。

チェックイン手続きを終え落ちついてから訪れた無添くら寿司は完璧で最高すぎた。


 三人お揃いでバカみたいに空皿を積み上げたのは黒歴史なんだろうけど悪くない。

それなりのお値段なりに価値がある地魚も舌がとろけるほどの旨さで満足できたよ。


 リリの猫目がなくなるぐらい細く見えたのが新鮮でヒカルと一緒に大笑いだった。

おかげでへそを曲げたリリに倒れる直前までデザートをふるまったのは笑い話かな。



 ホテルに戻って数時間すぎても……大浴場を満喫する二人組にあきれるしかない。

こっちはこっちで関係各所にメールを入れてから各種の調査でかなり大変だったよ。

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