第28話 広島散策はおもしろい?

「ヒカルが嫌なわけじゃないから怒鳴りつけたり同乗拒否なんてことはやらないよ。

それでもヒカルまで九州に同行する理由がなぁ……二人の息が妙に合うのはわかる」


 本来なら大雑把だけど詳細まで説明しないと二人とも理解してくれないタイプだ。

そもそも外見に惑わされて拒否は難しいリリは確信犯じみた行動をとりがちになる。



 子供じみた言動が多い癖に実年齢ならすれた十八歳で……魔法についても絶妙だ。

リリ曰くになるがダンジョンで得たスキル魔法を行使するための前提条件は厳しい。


 発表されないから詳しくないが地下のダンジョンは見えて触れても別空間にある。

おかしな文様が描かれた巨大な扉は境界線……中外で時間の流れまで異なるようだ。



 リリの場合は気にならないが八年後の樺太からやってきた別世界の日本人なんだ。


 そもそも千島樺太列島なんてロシア連邦の統括地域で訪れた日本人は極わずかだ。

昭和二十年の敗戦からリリが住む日本と異なる歴史が流れた時点でよくわからない。



 この世界では今年の初めに誕生したダンジョンがリリの日本じゃ八年前らしいよ。

量子力学なんて学ぶ気がない理論上あらゆる空間で無限に存在するはずの並行世界。


 未来を変えようとして動いたリリが……逃げたいと選んだ場所は八年後の博多だ。

あっちの世界は本土全域がアメリカの一部になり九州以南はアジア欧州の連合国家。



 ゴールドラッシュ時代の合衆国は民族意識とか宗教観やルーツで格差が産まれた。

あくまで偶然かもしれないがリリとオレの祖先は同じく北方系のスラブ民族になる。


 リリの世界なら移民国家の領域まで逃げて自由に暮らしたいから熱望する博多だ。

オレの生まれは南西諸島で高校まで博多育ち……そんな共通点でも偶然の寄せ集め。



「「…………」」反省だけならサルでもできるってヤツは……見た目と態度だよな。



 まぁそれも仕方ないか……シティホテルなら親子扱いされる三人部屋で問題ない。

明後日の取材についても最初から三人をセットでジャンバリに依頼されたお仕事だ。


 明日は買い物とか寄り道で……ヒカルにお願いして駅前でリリの美容室を探そう。

午後の早めに出発できれば二号線……下道であわてることもなく山口入りはできる。



 広島から岩国……周南から防府で宇部市に四時間ちょっとの道のりになるはずだ。

「はいはい殊勝な態度は謝罪だけかよ……シティホテルに移動するから早くおいで」


 ハナビストさんたちスタッフ一同は一旦関西に引き上げてから明後日の再合流だ。

ちょうどディナーになる時間帯だからぞろぞろお供を引き連れホテル街を目指した。



 目につくシティホテルに三人部屋の空屋を見つけて玄関でリリの応援隊と別れる。

一部マニアをこじらせたようなおかしな連中が明後日の防府まで追っかけるらしい。



 海が間近に迫る国道190号線添いのユーコーラッキー宇部店で現地収録になる。

さてさて明日以降どんな謎めく展開が待ち受けているのか実際のところわからない。


 女二人で仲良くすごしてくれるならこっちに精神的な負担がないからラクでいい。

チェックインしてからホテルのレストランで酒抜き飲み食いしてから部屋に戻った。



 この二日……のんびりできたようでも意識的にはまったく運転に余裕がなかった。

「昨夜は飲みすぎで寝たせいか深い眠りじゃなかった……ゆっくり眠らせてくれよ」


「「うんワガママばっかりでごめん。なるべく二人静かにすごすんでごゆっくり」」



 なんとなく視線を意識したのはデジャ・ヴュじゃない……目を開けてビックリだ。

すぐ傍にいなかったが三つ並んだ反対側のベッドから見つめる赤と黒の双眸がある。


「「おはよう!」」視線が合うと同時に挨拶が返るシチュエーションは微妙すぎる。


 時刻を確認すると八時の直前だから朝食バイキングにはピッタリかもしれないな。

いつもどおり二人を先行させると……いつもの着替えは細身パンツに黒ワイシャツ。



 のんびり食後の熱い珈琲まで味わいチェックアウトしてから駅前を三人で散策だ。

ある程度リリの着替えと必要不可欠な小物類を調達が済んだから美容室探しになる。


「ネットの評判なんかは一切悪くないお店なんだけど……名前が777なんだよね」

 おそるおそるでヒカルに案内された美容室はこじゃれた感じで雰囲気も悪くない。


「スリーセブンってスロットの絵柄みたいだね。なんとなく感じがいいお店じゃん」

「オレたちを狙い撃ちするみたいな……」はしゃぐリリに応じると同時に扉が開く。



「いらっしゃいませぇ……あらあらあら。みんなビックリよウワサの張本人がいる」


「「「…………」」」もちろん外開きの自動じゃない木製扉から現れたのは巨体だ。


 オレよりちょっと低いぐらいの背丈でガチムチマッチョな……オネェさんだよな。

一見すると派手な化粧で年齢性別が読めない美容師の登場にお揃いで言葉がでない。


「昨夜から弥生町タイガーの動画がヤバいんだ……拡散力。ようこそリリちゃん!」


「わたしのアレ……ちゃんと見てくれてうれしいな。ぜんぶお任せしちゃおっか?」

「もちろんいいわよ。ちょっと昔風の魔法少女っぽい雰囲気に仕上げてア・ゲ・ル」


 またまたリリの引き力が凄い……濃ゆすぎるぐらいに。ヤバい感じのオネェさん。

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