第27話 結末が延びると総てが?

「まぁビッグのみでジャグ連が十五回……三千枚弱を一挙獲得なんて素直に完敗だ。

オレからのご褒美は後で考えりゃいい。シイタケちゃんの誤解を……解いてやれよ」


 細かい差枚なんてネタにするべき問題じゃないし勝負ごとなんて結果がすべてだ。

そもそも論としてシイタケちゃんは別媒体のライターさんで一方的に被害者だよな。



「まずあたしからリリちゃんに謝罪ね。結果的にウソついちゃったのごめんなさい。

シイタケちゃんって若く見えてあたしより上……つい最近結婚を発表したばかりよ」


 目を引くのはキレイな顔立ちじゃなくてモデルと見まがうようなスタイルだよな。

二十代半ばでも鍛えた隙のない凛とした立ち姿のヒカルちゃんが素直に頭を下げる。



「いやいやヒカルちゃん悪くない。指示する側の責任問題だから謝罪なら俺だよな。

実際ジロウさんとプライベート交流ある演者なんて業界ネタでも聴いたことがない」


 こっちもマジメな顔で前屈姿勢に90度折り曲げるような謝罪はハナビストさん。

「昨年末ミナミの取材で遭遇した話を本人に聴いて祝い金をみんなで送っただけだ」


 ハナビストさんとヒカルちゃんのネタバレ話に目が点状態のリリが体を震わせる。



「えぇっと……シイタケちゃん。実は新婚さんでジロウくんと挨拶した程度の関係。

ミナミのパチンコ屋さんで年末遭遇したって……たったそれだけしかない繋がり?」


 呆然とした顔のままいきなりネタバレの謝罪されて崩れ落ちるリリも被害者だよ。

マンガなら『ガガーン』とか背景にテロップが入りでお笑いに転がる感じのヤツだ。



「見た目のいい女の子が追加招集されたから……ライバル関係がおもしろいなぁと。

ちょこっとだけ演出して盛り上げたくてヒカルちゃんに無理強いして……ゴメンよ」


 ハナビストさんがディレクター撮り高を考え番外のコネと絡み合った結果だよな。

まさかバーテン時代常連だったナージャさんが絡んでくるなんてこと誰も思わない。


 マチコ・デラックスさんもテレビの雰囲気で……あれに逆らえる気がしなかった。

いやいやいや……もちろん悪い意味合いじゃなくて尊敬に値する人物だと感じたよ。



「今宵のお供にどう?」なんてお帰りの台詞と同時に背中を撫でられたんだけどさ。

毛虫に這い寄られた感じのゾクッとする刺激で頭が痺れた行動もきっとジョークだ。


「あたし前後ろどっちでもいいわよ」ナージャさんの一言は……悪い夢にすぎない。


 個性の一つとして多様な生き方が許容される社会でLGBTQは当たり前にいる。

自分たちとは違う性癖持ちでおかしな思考と初めから否定するようなこともしない。


 単純にボンキュッボンの艶っぽい女好きで……ヒカルとリリを一瞬だけ見比べた。



 ヒカルの状況は……たまたま通りすがりに嫌な予感がしただけであれは運もある。

お節介して就職先を紹介したこともレージ先輩に助けられた逆の意味で恩返しだよ。


 クズも同然のオレに好意を向けてくる女たちは両極端な外見を持つ稀有な存在だ。

リリの場合は仕方ないよなぁ……生まれたてのヒナに餌づけしたようなもんだから。



 夜明けのミナミにいきなり現れたリリがいなくなるまで……期限はたった一週間。

まだ二日目の夕暮れ……このまま平和公園にあるダンジョンを目指すべきだろうか?



 か細い栄養不足の身体つきで……リリに見た目から判断できるような変化はない。

オレのワガママかもしれないがガリガリの身と心を癒せる想い出を刻みたい気分だ。


 あくまでも親心みたいな保護者目線……光源氏計画を進めるわけじゃないんだぜ。



 広くもない弥生町タイガーで応援してくれた来客に対応する三人は写真撮影中だ。

年若いお客さんの求めに従いサインか握手を選ばせるとスマホを向きながら微笑む。


 これはこれで他者との交流になるからリリにとっていいことづくめかもしれない。

狭すぎるネット社会のパチンコ界隈に限定しての話でもリリは大バズりした存在だ。


 これからすぐに広島のダンジョン……平和公園行きが決定したわけでもないんだ。

リリ本人が拒絶しないようなら時間を引き延ばすことで得られるものはあるはずだ。


 見えない未来の選択肢なんて……たくさんあればあるほどそれだけで選びやすい。

結果的に別の道筋が生まれたり新しく芽生えた幸せにたどりつくこともあるはずだ。



「ジロウさん……これも検討くださいね。ジャンバリに正式な形で依頼されました。

明後日の早朝から宇部市の大型店で新装イベント……山口レバーオン現地取材です」


 しばらく電話で席を外したはずのハナビストさんが戻ると同時に爆弾を投下する。

山口レバーオン……かなり前に見たことがある。中国地方地方局のローカル番組だ。


 司会と進行役が先輩にも連なるガイドのまりもさんとマガジンの松本バッチさん。

それに九州を中心に活躍するゆう坊さんがメインパーソナリティーと聴いたはずだ。


 あの番組は終了したはずで……あぁバズりに便乗する特番を撮影したいんだろう。

ワーゲンゴルフで二号線をひたすら西を目指すのは有名無実だ……悪くないかもな。


 明後日の朝一番から現地収録。明日の夜に現地入りなら時間の余裕はかなりある。

このあとホテルでのんびりしてから明日は買い物三昧で山口に向けて四時間ぐらい。



 広島に到着してダンジョンをスルーだとか想像の埒外だけど……それでいいよな。

結果としてリリの願いと想いが実現するまで側にいる理由が増えることに繋がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る