第三章 神さまの手のひらレバーオン

第24話(幕間1+2) こんな流れも悪くない?

シーン1「第17話 お互い逃げ切るはずが? リリ対ヒカル対決の終了直後から」



「負けたからご褒美いらないよ。ヒカルちゃんならジロウくんのお相手に丁度いい。

とりあえずお願いはリリ優先の行動で……消えちゃったらどうにでも好きにしてよ」


 リリが叫ぶような言葉に合わせヒカルの手首を握ると同時に店内から走り去った。

時間軸で一日以上を巻き戻して大花火チャレンジ成功の直後から物語は再開する──


 そのまま女子トイレまで二人は移動すると洗面台に手を置いたリリが話し始める。

「ねぇヒカルちゃん。ジロウくんに対する想い……ホントのとこちゃんと教えてよ」


「リリちゃん……ジロウさんに守られるような関係。邪魔したいわけじゃないんだ。

ジロウさん塩対応でもあんな格好いいから……女ならほとんどが恋に落ちちゃうの」


 目線を合わせて大マジメに伝えるリリに対して戸惑いながらもヒカルが即応した。



「ふーん。リリもおバカ三人に路地裏で攫われかけた瞬間ジロウくんに助けられた。

いきなり三人ぶっ飛ばして……女ならあんなの一目惚れ。そんなシチュエーション」


「あたしも一緒いっしょ。事務所つぶれた元アイドルから……再デビューなんだよ。

コスのイベでパチ屋に呼ばれてカメラ小僧。追っかけファン連中に愛想振りまくの」

 女子トイレでリリしかいないため本音を打ち明けるようにヒカルは顔をしかめた。


「たまにいるんだよ。しつこくプライベートに踏みこもうとするおバカオタクくん。

マネさんいないとすぐに抱きつこうとしたり触ってきたりとマジでキモイんだよね」


 当時を振り返って苦虫を嚙み潰したような表情のヒカルが胸を腕で抱えて怯える。

「もちろん普通の男もいるんだけど……おデブさんやヒョロくん率がゲキ高なんだ」


 生理的な意味で嫌悪感があるのだろうかヒカルが虫唾の走ったような表情になる。



「パチ屋の帰り道出待ちみたいな男たちがいて怖くて座りこんだらジロウさん登場。

『どうした?』なんて声かけして男たち睨みつけるとあの体と声で威嚇すんだよね」


「へぇジロウくん。さすが本物のイケメンだよね」感心したような表情になるリリ。


「そそそ。二メートル近いイケメンご登場で男たちは一瞬でビビりまくって逃げた。

てかさぁ……ジロウさん当時のこと振ってもなんだよそれって……マジで笑えない」


「アッハッハージロウくんって昔からそうなんだ。悪意はないのにひどすぎるよね」


「ほんとホント。バーテンダーの仕事中や撮影だけ女に甘くなるジゴロなんだから。

それでもねぇ……ジャンバリの演者やスタッフさんたち。集まって忘年会やったの」


 閉鎖空間の女同士……話題は弾み流れが変わるとヒカルからの打ち明け話になる。

ほとんど内容を理解できなくても相槌を打ち感心するリリには遠慮しないヒカルだ。



「解散直前に飲みすぎたのかなぁ……酔っぱらいみたいにトイレこもっちゃったの。

席に戻ろうとしたら面識がないカメラマンいてさ。あたしの荷物抱えて立ってんだ」


「ふーん。あんましわかんないけど大勢の飲み会じゃん……それってアヤしくね?」


「そうそう。勝手に女の手荷物とコート触ってんだからめちゃくちゃヤバいヤツよ。

それで二次会がどうのこうのとか勝手にしゃべってくっから荷物奪って逃げたんだ」


「うおぅヒカルちゃん危機一髪じゃん」わざとらしくぶり手ぶりで引きつるリリだ。

「うんうんうん。ヤバそうだから速足で出口に向かうとなぜかジロウさんがいたの」


「それってマ? やっぱりジロウくん女のピンチに駆けつけてくるヒーローじゃん」

「うん。妙にあわてる姿にびっくりしながらタクシー呼んでそのまま乗せてくれた」


 あの幸せな想い出二つ……アイドルを引退させられたヒカルにとって最後の光だ。




シーン2「2023年5月7日22時──東京港区……某テレビ局の正面玄関前で」



 身長が178cm。体重は非公表の大きな身体を揺らせてタクシーに座る女装男。

長い髪をまとめる姿は丸々とした巨体で男か女か見た目の判断がつかない有名人だ。


「ふぅ今日もホント疲れたわねぇ。運転手さん……麻布までよろしくお願いします。

五十すぎて夜の撮影ってホントに困るのよ。早くお風呂に浸かって眠りたいの……」


 ほんとテレビもそろそろ潮時かもしんないわ……そう考えた瞬間スマホが鳴った。

着信相手を確認しながら思わず笑みが漏れる……かなり久しぶりのお友達からだわ。


「あらナージャじゃん。あんたからの連絡なんて初めてじゃないの。お久しぶりね」

「ほんとマチコさんしばらくぶり。ちょっとしたお願いなんだけどお時間大丈夫?」


「運転手さんしばらくうるさいのごめんなさい……タクシーだけど話していいわよ」

「明日の夕方なんだけど……4時に夢中の生放送でMBSとコラボしたいんだけど」


「なにそれ。そっちの4チャンTVって関西でも割と大マジメな番組なんでしょ?」

「いつもはそうなんだけど……お世話になったある人からお願いされちゃったのよ。

ちょうど広島駅の傍で可愛い女子とイケメン。撮影してるから話題にしてくれって」


「広島なんてヤクザの故郷じゃん。イケメンとか……そんなのぜったいウソでしょ」

「いやいやいや。ほんとほんとマチコさんも一度だけ会ったことがあるイケメンよ。

ミナミの外れにあるショットバーの見習いイケメン店長さん……ジロウくんだから」


「あぁあの金髪碧眼くん。めっちゃ北欧系みたいな二メートルの色白ノッポくんか。

なんであの子が広島なんているのよ……って整形の可愛い子ちゃんを見たくないわ」


「整形ちゃうし……140cmぐらいで中学生っぽい紅眼の可愛いアルビノちゃん。

ウソだろうけど合法ロリ魔女らしいのネットで大バズりさせたいってお願いされて」

「ふぅん。生放送の話題にするのは問題ないけど……局長さんにお願いしてみるわ」


「マチコさんありがと。また今度いろいろ案内するからミナミで一緒に遊びましょ」

「そうねぇ。遠すぎるから関西なんて行きたくもないし機会ないけどまたどこかで」


「ふぅ……」ため息をつきながら着信を切ると同時にタクシーの後席に体を預けた。

 なんとなく明日に想いを馳せながらそれもおもしろいかもしれないわと意識する。

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