第23話 流れが逸れると急展開?

「またビッグ速攻二発から一桁バケ終わり……出玉の伸びイマイチ足りませんねぇ」


 隣席でうなり声……ひたすらぶん回す彼女は連チャンとハマりの繰り返しらしい。

こっちが偶数的な挙動中なら……シイタケちゃんは奇数っぽい感じの逆展開になる。



 チェリーバケとプレミアビッグのスタートダッシュから半分近いゲーム数を消化。

全リセぽい挙動をするグリーンパネルは早めにボーナスを引いても伸びしろがない。


 スタートから三時間すぎても一進一退……ここから先の展開がかなり読みにくい。

全台高設定営業なんてウソみたいな店でもジャグラーを判別するのは難しいすぎた。


 シイタケちゃんが奇数……設定5なら……移動するほうが効率いいかもしれない。

問題はこっちの偶数挙動……ブドウ落ちが抜群だから止めるタイミング次第になる。



 ポチポチと小役をカウントしながら絶妙にメダルが増える状況はかなり悪くない。

クレジットでの連チャンがない分300ゲーム超えの深みまでハマらないのはいい。


 二千ゲームちょっとになりボーナスはビッグとバケ十回引いて千枚弱プラス域だ。

シイタケちゃんはビッグが十二でバケが六だから獲得メダル枚数的には大差がない。


 アイムジャグラーEXを二千ゲーム回して理論上設定6で五百枚弱プラスなんだ。

リリとヒカルの出玉推移を確認しながら手堅く移動するのが吉になるかもしれない。


 リリとヒカルのレッドパネルは真逆の展開で……えげつないぐらい差が生まれた。

初代ジャグラーからのあるあるネタ……典型的なバケ先行でリリの台はヤバすぎる。



「…………」無言のままでひたすらぶん回し中のリリはビッグ三のバケ十二だった。

 ヒカルちゃんはビッグ七のバケ十二だから両台とも合成確率にすると抜群にいい。


 6号機のアイムジャグラーEXは設定5と6でボーナスは確率的に同数値なんだ。

ビッグとバケは共通でフラグが成立する確率1/255で合成値はその半分になる。


 二千ゲームの平均ならボーナス十六回……理論上ペカらせることができるはずだ。

合成の一番悪いシイタケちゃんが最高のビッグ獲得回数で現時点ならトップにいる。



 900ゲームを超えるビッグ間ハマりに歯を食いしばるリリの目元で涙が滲んだ。

不自然なリリに周囲の目線がすべて吸い寄せられてざわざわとした雰囲気が満ちる。



 その瞬間……動いたハナビストさんに合図されてカバンを探り始めるケンジくん。

ケンジくんがセッティングに動いたのはタブレット端末と自撮り棒……もしかして?


 ここが見せ場と考えてyoutube動画のリアルタイム配信を追加するらしい。

ジャンバリ放送局youtubeチャンネル……なるほど登録者はそれなりに多い。


 まさかだけど……昨日ゲーセンで撮影した動画まで配信済みだったりするのかな?



 ふと我に返りヒカルに目をやるとニヤリと笑いながらスマホ画面を差しだされた。

ジャンバリ放送局とyoutube動画を身内の演者お揃いでSNSにリツイート。


 いきなり昨日から始まったおかしな流れからトピックで大バズりを始めたようだ。




 ヒカルのアカウントでチラ見したX……マジかよ「リリがトレンド入りじゃん」。

小さくつぶやくようにして声まで漏らしたみたいだ。どうしてこうなったんだろう?



♯魔法少女リリ ♯リアル魔法少女 ♯リリちゃんパチスロ これマジにやべぇよ。



 youtube登録チャンネルでもパチスロ動画コンテンツはかなり人気がある。

そういや端末……棚に置いたトートバッグのタブレットを見て頭を抱えるしかない。


 先輩のメッセージがヤバい……『身内関係と仕事各位に拡散しといたぜガンバレ』


 アンタいつでも真犯人だよな。事件は現場で起きてるんだ……勘弁してください。



 ふとねちっこいのか熱のこもったような視線にさらされたようで警戒心が生えた。

ふと入口を見てから左右に首を振ると離れた場所から見つめる多数の男たちがいる。


 大半の男がガリガリに瘦せたタイプと背が低めの小太りメガネ……オタクじゃん。

耐えきれなくなったのか入口を半分空けながら重なり合うような姿は学生服だらけ。


 あぁあいつらって見るからに十八未満……パチンコ屋で年齢制限されるヤツらだ。

じゃないから……なんでこうなる。どこから誰が拡散してこんなことになるんだよ?




「ほらほらリリちゃん……泣いちゃダメだよ。中と外にりりちゃん応援団いっぱい。

それにネット世界で大バズりなんだって……リリちゃん応援団があちこちできたの」


 芝居がかったように響くヒカルの口調は演技だよな? お前は元アイドル女優か?


「えっえっえぇっと……そう泣いちゃったらダメだよね。わたし誰にも負けないよ。

モンスター倒して強くなるんだ……自由に暮らせる場所に行って幸せになりたいの」


 うつむきながら指先で目じりを抑えるように拭いとりカメラ目線で強く宣言する。

さし指を細長く先に伸ばして親指を上げると右手のひらを銃型にしたロックオンだ。



「こっちにいきなり跳ばされて……ジロウくんの優しさにほだされてもリリは強い。

敵対するなら誰であろうと負けないんだからね。ジロウくんと泥棒猫には勝つよ!」


 半ば叫ぶように唇を歪めた真っ白な細い身体。紅い瞳の美少女がホールドアップ。

言動の意味やインターネットの概念はわからなくても強い視線に相手は射貫かれた。



「だから皆さんにお願いです……リリにパワーを分けてくださいね。バキューン!」


 世界中にいる映画スターやどんなアイドルよりも愛らしい姿に全人類がやられる。

どこかで始まる誰ともなしに拡散されたリリの動画は瞬く間に世界中を駆け巡った。



 その結果として……リリの数奇な運命は別方向に転がり違うエンディングになる。

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