第18話 なんでこうなったんだ?

 史上最悪……そんな感じの目覚めはふかふかの布団とベッドが快適すぎたせいだ。


「ジロウくん爆睡だったねぇ。体ごとベッドに倒れこんじゃうからビックリしたよ」

 うつむき状態で目を開けた瞬間の声だった。耳元だから首を回すと頭が二つある。


 もちろん赤眼のリリ……傍で耳先から頬まで真紅に染めた黒い瞳はヒカルちゃん。

この状況が謎すぎる。記憶を失くすほどの暴飲……人生で数えるほどの回数なんだ。



 おい……ちょっと冷静になろう。もちろんベッドサイドの二人は服は着たままだ。

ベッドに両肘をつきオレの上下からのぞきこんで目線を合わせた二人は女の子座り。


 二人ともベッドに……全裸で寝転んではないから最低最悪の事案じゃないはずだ。

酔った勢いにせよガリガリに瘦せた子どもにしか見えない少女は恐らく眼中にない。


 もしかしての仮定だが酔っぱらった時点でヒカルちゃんだけなら相当ヤバかった。

それこそあれだ……大泥棒の三世じゃないが銭形に逮捕されようとも文句いえない。


「ジロウくぅん。早起きした可愛い女の子たちに挨拶一つもできないのダメじゃん」


 リリの細腕が伸びて頬っぺたをツンツンされている謎の状況が微妙にわからない。

「ちょっとだけステイでリリ……暑苦しかったのかパンイチみたいだあっち向いて」



「別にいんじゃね? ジロウくんってノッポさんの細マッチョでかなり格好いいし。

ヒカルちゃんも先刻からなんかさぁ。うなじとか首筋みつめながら興奮しまくりよ」


「えっえっえっあたし……エロいからじゃないからね。ジロウさん心配だからよっ。

寝てるんだから見つめちゃダメよっていってんのにさぁリリちゃん……本当にもう」


 ニヤリと歪んだリリの口元……ヒカルちゃんをからかいたいだけで悪意じゃない。

ぷんすか怒るギャルみたいな演者の美人さん。起き抜けに見るとそそられるもんだ。



 ごそごそ布団を被ったままで長袖シャツに腕を入れて綿パンを履くと記憶を探る。


「なんとなくしか記憶にない……昨夜ハナビストさんに酒注がれまくったっけなぁ。

あの人ヤバいな……運転手飲めませんからジロウさん代わりにとか調子よく薦めて」


「そうそうオーナーさん遅れてやってきた流れで二件目の移動先がスナックでさぁ。

なんかジロウくんばかすかウイスキー飲みまくっちゃってそのまま解散になったの」


「後のことはよろしくねってリリちゃんとジロウさんが放置されちゃったんだよね。

なんとか二人で抱えながらホテルに運んで……ベッドの追加お願いしてお泊りだよ」



 チェックアウトで料金の加算はいい……まさかヒカルまで広島についてくるのか?


「もちろんヒカルに迷惑かけたから金はいらない。もしかして広島に同伴したい?」


「はい。あれジロウさん聴いてませんか? 正午オープンの弥生町タイガーですよ。

ハナビストさんの撮影で演者を一人追加して……どこかの雑誌との合同取材ですね」


 ちょい待って……ちょっとだけ待ってほしいな。そんな話どこからも聴いてない。

ベッドサイドのカバンからタブレット端末……メールをチェックしながら驚愕した。


 追加で先輩の指示が……広島駅に近い住宅街のパチ屋だ。否たぶんスロ専だよな。


「マジかよ。時刻が7時……ちょい待った。岡山から広島ってめっちゃ遠いじゃん」

「そだよぉ。12時のオープンだからぜったい厳守だってハナビストさん叫んでた」


「やばいヤバいよすぐ支度しないと……すんのオレだよな。モーニング先に行って」


 あわててググると二号線でも通常なら四時間らしい……それぐらいなら間に合う。

先に荷物をトランクイン……ざっくりとだけ後席を整えてから朝メシにありついた。



「二号線ひたすら一直線……迷わないからナビいらないけど時間ギリで無言になる」

「オッケー安全運転よろしくねっ。ヒカルちゃんと後席でだべってるから問題ない」


「えぇっと……おかしな流れで同乗しちゃったのホントすみませんジロウさん……」

「気にしないでいいよ。イマイチわかんないけどライターさん待たせるのがヤバい」


 ドライブ中リリは邪魔することもないしヒカルちゃんとおしゃべりで放置できる。

攻略誌に所属するライターさんか……誰だかわからないが知人なら問題ないんだよ。



 狭すぎるパチンコ業界で有名攻略誌が元々三つある。ガイドとマガジンに必勝本。

レージ先輩がガイドの覆面ライターだから知己は多いし他所とそこそこ交流はある。


 オレたち紅バラ軍団ジャンバリなんてかなり後発チームで関西のホール情報誌だ。

二号機時代から三十年以上経歴があるベテランライターは目押しと半端ない集客力。



 わざわざ撮影チームと演者まで呼んで正午の開店ならお店は気合い入れまくりだ。

『渋滞して遅れましたすんません』なんてふざけた対応はあり得ないし干されるよ。


 基本的には制限速度と道路交通法を遵守しながら流れに任せてひたすら進めよう。

米倉から早島のちょびっとに瀬野から中野が渋滞しただけで流れはかなりよかった。


 通常なら四時間ぐらいかかる距離を二百分で駆け抜けたんだから頑張ったはずだ。

絶妙にわからない女たちのおしゃべりを左から右に聴き流していたら到着できたよ。


 寝坊しただけで……悪くはない。レージ先輩に逆らうとロクでもない結果になる。

とりあえず15分前に弥生町のコインパーキングが見えたからゴルフを放りこんだ。



 美女二人組を先行させて後追いするデカい白人……広島でもかなり珍しいよなぁ?

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