第14話 Maxチャレンジです?

「皆さんお待たせ。これからリリちゃんMaxチャレンジ初体験しちゃいますねぇ」

 ハナビストさん指示で撮影が再開されるとリリがあざとすぎるアニメ声に変わる。


 もちろん萌え萌えキュン的なヤツじゃなく一見すると魔法少女っぽいイメージだ。

魔法のタロットカードを回収する古いアニメ……あのヒロインは茶色の短髪だけど。


 それに主人公はリアル小学生……いや中の人が当時めちゃくちゃ若かったらしい。

数年前制作された続編のアニメで中学生になり見た目がリリと同世代まで成長した。


 もしかしてだけど元の世界でリリはメイドカフェ勤務? いやいやないないない。

ガリガリの身体にまとう地味なワンピース姿で白髪とアルビノの肌に赤眼が際立つ。


 ワンチャンぐらい魔法少女……魔法のプリンセスリリちゃんだ。魔女っ娘かもな。

月に代わってお仕置きするセーラー少女じゃない。魔法の呪文を唱える系だろうか。



 子どもっぽさのない性格でオトナよりおしゃまなお子ちゃまだけどそれがリリだ。


「ちゃんとジロウくんにスロットの目押し教えてもらっちったしラクショーじゃん。

目押しよりもレバーオン? 画面の向こうにいるみんなぁ応・援・し・て・ね・っ」


「エイ・ヤー・トー・ヴィッ!」思わずズッコケるかけ声でリリがレバーオンした。


 もちろん小役確率に違わず鉢巻ナビが順回転するとうす茶の花火玉絵柄で停まる。

「左リールに三連ドンちゃん絵柄狙いの中右をテキトー押しで勝手に花火玉揃うよ」


 もちろん画角外から無意識の声かけで教えるとはらはらした表情で見守るヒカル。

大花火のBGMに被せるようにハミングをしながら満面の笑顔でリリが目押しする。


 誰でも一度成功すればカンタン単純作業……ボーナス中はずっと繰り返しになる。

「やっぱ引きが強いなぁ」思わず小声でつぶやいた12ゲーム目にボーナスインだ。



「逆回転で青いリプレイ絵柄だから適当に順押しでいいよ」これも軽いアドバイス。

「りょーかーい」気が抜けるような声のリプレイ揃いでボーナスゲームがスタート。


「ボーナスゲームは一枚ベットで中段にリプレイが揃う。それを八回繰り返すんだ」

「はーい」なんとなく小馬鹿にされたような声にツッコミをたくなるがスルーした。


 通常二回目を揃えるゲーム数に悩むボーナスインは今回のタイミングでバッチリ。

「また最初と同じボーナスインまで順押しだよ。三連ドン毎ゲームちゃんと狙って」


「オッケー♪」なんにも考えてなさそうな顔をしたリリがこちらを向きながら笑う。

「おぉバッチリじゃんか」二回目のボーナスインが図ったように24ゲームだった。


 残り6ゲームでいつでもボーナスインできる……逆にパンクの可能性まで増えた。

「さっきと同じでボーナスゲームを消化してから本気でMaxチャレンジになるよ」



「なんにもわかんないけどリリちゃん凄かったりしちゃう? マジの引き強じゃん」

 図に乗ったようなリリがドヤ顔になりカメラ目線のダブルピースでウインクする。


「まぁ一発成功できるなら信じられない引き強だけど……これからパンクと紙一重。

残り6ゲームしかないのは結構ヤバいよ。オレなら8ゲームから絶対にインさせる」


 Maxチャレンジが初回成功する確率なんて一万人いても難しいレベルのはずだ。

残り6ゲームなら引いた瞬間にそのままボーナスインだから遅けりゃ遅いほどいい。


「えぇっと6回レバーオンだよね。その間に青いリプレイ引いちゃえばいいだけ?」


「そうそう最終ゲームにジャックイン絵柄を引ければMax711枚の獲得なんだ。

それでもジャックイン確率が6分の1だから引けなかったら600枚に減っちゃう」


 ここから神業みたいな引きになる。すぐに引くと減るし引けないとヤバい減りだ。



「えぇっ。100枚以上減っちゃったらリリちゃんダメダメ女になっちゃうじゃん」


「いやいや大花火で600枚獲得できれば平均。普通ならハズシ入れまくるんだよ」

 なんというかリプレイ絵柄ジャックインは固まりで来るフラグだからヤバすぎる。


 三回目の小役ゲームが始まると同時に店内では妙な緊張感が漂うような雰囲気だ。

いつの間にやら傍にオーナーを筆頭にユニフォーム姿の店員さんたちが勢揃いした。


 確率そのままに五連続で花火玉小役を揃えると泣こうが笑おうがラストゲームだ。

「考えすぎても仕方がないしラストゲーム。みんなに感謝しながらレバーオンっ!」


 照明が抑えられたうす暗い店はそれなりの広さで来客数もかなり多かったらしい。

令和の時代が悪いのかバブルが弾けた景気低迷で末期に近いようなパチンコ業界だ。


 平成の初頭には30兆円産業と呼ばれた最盛期から遊戯人口の減少は止まらない。



 演者として自分たちがイベントに呼ばれることでお客さんの出玉率は確実に減る。

わざわざ大金を支払って演者をパチンコ店に呼ぶメリットがあるか考えなくもない。


 これまでは歩いて行けるご近所ホールさん以外の依頼をお断りした理由がそれだ。

イベントからたった独りだけでも遊技人口を増やせると未来は変わるかもしれない。


 リアルに二次元アニメみたいなリリのキャラクターが大バズりする可能性はある。

「うらっしゃぁ。こっち見てジロウくんMaxチャレンジ一発成功してんじゃん!」

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