第12話 リリの初体験は大花火?

「じゃあリリ先陣に出発。ジロウくんとヒカルちゃんはべらかしてお散歩でぇす!」

 ハナビストさんの指示で撮影を再開した瞬間にリリがあざといアニメ声に変わる。


 左右に別れながら弧を描くように各機種が配置された広い通路のガラパゴス岡山。

もちろん店内はシャレた雰囲気の内装で設置許可が降りない古い機種ばかりの店だ。


 5号機と人気4号機それ以前の懐かしい裏モノが多数で全台ひじ置きの回転いす。

設置機種が100台以上あり岡山駅西口から徒歩十分と便利な大人の社交場になる。


 もちろん店はすべて禁煙で各台横に設置機の説明書きがちゃんと用意されている。

それなりに新しいデータ表示器が上にあり過去の履歴まで参照できて全台設定6だ。



 おっさんホイホイみたいな1.5号と2から3号機は爆裂連チャン裏モノが主体。

4号機時代は大量獲得機メイン。ストック機主体に人気の台がまとめて設置される。


「リリはぜんぜんわかんないけど……いっぱい遊べるおもしろい機種がいいかなぁ」

「昔の台ほとんど遊べて楽しいんだけど出玉的に大爆発しちゃうのはオオハナ……」


「大花火ってあれですね。最高711枚を獲得できるからチャレンジされるヤツだ。

あたしも昔ゲーセンで花火百景をよく打ちました。6号機の絶景たまに打ちますし」


 リリに問われアラジンAとサラ金をイメージして応じるとヒカルの邪魔が入った。

まぁインターセプトされはしたが理想的な展開になりそうでこんな流れは悪くない。


「なにそれなにそれ。リリちゃんチャレンジしちゃうジロウくんちゃんと教えてよ」

「いやいや教えるもなにもないけど。ビッグを揃えてからボーナス中の引き次第?」



 ちょっと前に配信動画で凄腕ライターのまりもさんが一発で成功してたんだっけ。

スロマガで攻略軍団初代ボスさんの動画だから間違いなくあれはガチなヤツだよね。


 オーナーに尋ねる必要もない常設超人気台だ。4号機の大花火にリリが着席する。

ハナビストさんがカメラ位置を決めて隣席にヒカルが座るとオレは画角外に逃げた。


 小箱のメダルをジャラジャラと大きな下部トレイに流してやり説明から始めよう。

「まず基本的にどの台でも同じ三枚のベットだよ。右の投入口からコインを入れて」


「うんうん」リリが慎重に数枚単位でコインを入れることで事前の準備は完了した。

「準備はたったこれだけだ。ほとんどの台左下にレバーあるから適当に叩けばいい」


「わかったー」気の抜けた応答で盤面を見つめるリリが魂こめながらレバーオンだ。



『トゥルーン』逆回転した直後に鳴る特殊効果音がレバーオンした瞬間に同調する。

正面の中央にある鉢巻リールが派手な音程を奏でながら左向きに高速で逆回転した。


「リール回転させたままでいいからしばらく見つめればいい。赤い塊が見えるから」

「えっなんそれ。そんなのぜんぜん見えない」スロットを睨むリリが猫目を細めた。


 いつまでもグルグルと回りつづけるリールをながめてイメージできたんだろうか。

「きっとここだよね」右さし指でパシっと左ボタンを押すと三連ドンビタ止まりだ。



「わぁお。なによこれ」そのまま中リールにも赤ドンを狙い『チャラララララン♪』


 左中停止時の三連テンパイで特殊効果音ってアレじゃね。たぶんビッグ確定音だ。

いち早く目押しのタイミングをバッチリと決めたリリが右リール中段に赤ドン狙い。


『大当たりドーン。チャラーチャラーチャラーチャラーチャラララララララーン♪』

 広い店内に鳴り響いたファンファーレの音がパチスロ大花火でビッグボーナスだ。


「うわぁあぁぁっ。なにこれなにこれなんだこれ。マジでめちゃくちゃハデじゃん」

 こぶしを固めるリリが満面の笑顔になりバンザイしながらガッツポーズで叫んだ。


 ユニバーサルがアルゼだった4号機の時代に最高711枚で人気の大花火だった。

一部に設置された裏モノは別にして最高設定の6が破格すぎる確率で機械割なんだ。



 照明が抑えられたうす暗い店内はそれなりに広いお店だから昔は盛況だったかな。

平成の初頭には三十兆円産業なんてもてはやされた業界ごと現代は壊滅する一歩前。


 全国展開のチェーンで業界三位だったGAIAが破綻するぐらいでかなりヤバい。

バカ高い新台を売りまくるメーカーは上下差が激しいし小型の店はほぼ吸収された。


 ここガラパゴス岡山が新幹線停車駅の徒歩圏内にあっても倒産してしまう時代だ。

パチンコ業界の片隅で生きるオレたちが自身の手のひらで盛り上げないといけない。


『打ち込み機』大昔はこれで新装開店時や朝一集客用にモーニングをセットできた。

朝一番にボーナスが揃えられる状態まで回しセットしてくれるのはかなり懐かしい。


 5号機の到来前まではゆるゆるの規制でメーカーから出荷する直後に改造された。

いわゆる内部の基盤を入れ替えた違法プログラムを注射した連チャン機が誕生する。



 もちろんオーナーによる打ち込み作業なのかリリの驚異的引き力かはわからない。

オーナーを問い質せる問題じゃないしエンターテイメントの意味なら大正解である。


「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」あれは後世生まれの創作ネタだ。

 それでもあマリー・アントワネットならあり得ると感じられたから面白いんだよ。


 怪しげな都市伝説が廃れないのは間違いじゃなくてあれもエンターテイメントだ。

「真実はいつも一つ」みたいな少年に見える探偵役は物語世界にしか存在できない。


 正しさなんて価値観の差であり方向性の違いだから真実なんて星の数ほどできる。

違う世界からこの日本にピンポイントで現れたリリの引きはどれぐらいあるだろう?

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