第11話 撮影とゲームの始まり?

「ジロウさん毎度お世話になります。急な依頼ですが今回もよろしくお願いします」


 おかしな因縁で絡み合う知人は界隈でハナビストと呼ばれるベテランカメラマン。

彼はジャンバリ放送局の古株でちょこっと年長だが長いつき合いで人当たりもいい。


 ちゃんとした動きやすい濃紺のスーツ姿で革靴だけどオッサンっぽさを感じない。


 撮影から編集の総てを一手に担うベテランのディレクターで正式には会社役員だ。

問題はこっちの訳アリ女……別に元カノだとか一夜を共にするような関係じゃない。


「かなりお久しぶりですジロウさん。たまにはSNSなんかのメッセくださいよね」

 緩めに巻いた金茶の長髪が色白に映える美女は深紅の肩だしワンピース姿だった。



 どことなく艶っぽさと熱量まで感じさせるウルウルした子犬じみた目線はヤバい。

なつかれる原因がいつかあったような気もするが仕事の関係者に深入りしたくない。


 ジャンバリに所属する女性演者……仲間は売れないままで消えた元アイドルさん。

お互いにそれなりの古株だから因縁はあり虹色ヒカル芸名の彼女はかなりの美人だ。


「気が向いたら送る」コスプレ姿でホール情報誌の表紙を飾るほどのグラビア体型。

歌や踊りで売れなくても演者仕事は撮影会やサインがメインになるアイカツだよな。


 コンビニで売られる攻略誌に文章を載せる先輩みたいな顔だしライターじゃない。

もちろんライター業は仕事量的にピンキリでも文筆家の端くれになり演者とは違う。


 オレの状況は特殊で初期のテレビ出演に目押しや立ち回りの正確さを売りにした。

珍しい金髪碧眼の白人で長身だから人気はあるが来店イベントをお断りするタイプ。



 確かに現時点で住所不定は間違いなしの事実だから副業として吝かでもないけど。

現時点では正月以外を休みなしで営業するオーセンティック・バーの店長じゃない。


 周囲から浮きすぎて馴染めない地元の経験から見た目を売りにする気がなかった。

幸いにして流れ着いたミナミで先輩から紹介されたバーテンダーは理想的な職場だ。


 それでも正しい技術を学んだことはなく名店での弟子入り経験なんてないド素人。

手元が怪しげなガールズバーや口先や印象操作のボーイズバーの店長と大差はない。



 パチスロ演者として実質的に引退したような現状だからおかしな成り行きになる。

6.5号機からスマスロの時代を迎えて希望の光が見え隠れする界隈でゲーセンだ。


 業界で最上位みたいな場所にいる元編集長やベテランの配信動画は大人気なんだ。

あんな感じでオレを補佐役に……映像で映えるリリをメインに売りだしたいのかね。


「依頼の本筋なんかはしらないけど……まぁ先輩や姐さんの手はずどおりでいいよ。

スロットに熱狂する可愛いリリを撮影しながらヒカルちゃんに絡ませたいんだろ?」


「そうですそうですジロウさんはアドバイス。ゆるゆりっぽい雰囲気を希望します。

流れに任せた感じでガンガン撮影しますがヤバそうなら適当に編集しちゃいますよ」



 まぁ実際のところリリは子供っぽい不穏当な発言がないしバズりが狙いでもない。

優秀なカメラマンと空気を読めるアシスタントのフォロー役ならカンタンなお仕事。


 アフリカに多い日光が弱点になるアルビノじゃないリリは北方ロシア系美少女だ。

見た目年齢的にギリギリ中学生ぐらいの……まっ平らで痩せた体にもフェチは多い。


 性的な嗜好が完全アウトのロリータ・コンプレックスは救いのないおバカさんだ。

証明書類がなくて確認なんてできないが自称十八歳のオトナっぽさをリリに感じる。


 ちょっと意味は違うがオタク界隈で人気の合法ロリババァみたいな美少女だよな。

もしかしたらの妄想で無料動画の配信サイトならリリが大バズりするかもしれない。



「えぇっと動画をご覧の皆さまには初めまして。こんなんですけどリリ十八歳です。

きょう初めてパチスロ打つんですがアドバイスは皆さんお馴染みすぎるジロウくん」


 ホールの入口に立ち淀むことなく語り終えたリリに左腕を大きく広げて呼ばれた。

ひょっこりと移動してカメラの画角に入りながら軽く頭を下げての自己紹介になる。


「ジャンバリで一番露出がないジロウです。初心者リリのフォローに呼ばれました。

どデカい図体であんまし映像的にもウザ絡みできないんで声がメインの出演ですわ」


「そんなこといっちゃうのダメ。いちからぜんぶリリにオ・シ・エ・テちょうだい」

 語尾にハートマークが舞うような台詞に合わせたリリのウインクはあざと可愛い。



「キャァァ可愛い」ハナビストさんの目は真ん丸でヒカルちゃんの声まで上ずった。


「カメラマンはハナビストさん。応援の演者さんは超美人の虹色ヒカルちゃんです」

 言葉を区切ったリリが強引に画面外からヒカルの腕を引いて両肩から抱き着いた。


「わわわわわ近い近い近い。皆さんこんにちはジャンバリ放送局の虹色ヒカルです。

きょうはパチスロ初体験のリリちゃん18歳。美少女ちゃんを手伝いにきましたよ」


 なぜか頬から耳先まで真っ赤に染めたヒカルがリリを離そうと互いにじゃれ合う。

「リリ美少女じゃないもん。そっちこそモデルさんみたいにキレイでも可愛いよね」


 猛獣に怯える獲物みたいなヒカルに広げた猫目を爛々と輝かせて抱き着くリリだ。

キャアキャア二人ではしゃぎながら画角内に収まりゆりっぽく戯れる雰囲気はいい。



「うーん。その雰囲気で悪くないんだけどそろそろパチスロの台選びしちゃってよ」

 無言で見守るしかない空気を割る勇者……ハナビストさんが会心の一撃を入れた。



「最初どれから始めちゃおうか。誰でも目押しできるカンタンな機種がいいよねぇ」


 最低限のフォローとして司会進行役を務めることになったオレが仕切るらしいよ。

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