第10話 岡山駅西口徒歩10分?

『トゥルーン』逆回転した直後に鳴る特殊効果音はレバーオンと同時のタイミング。

正面中央にある鉢巻リールが派手な音程を奏でながら左向きに高速で逆回転したよ。


「リールを回転させたままでいいからしばらく見つめてよ。赤い塊が見えるからね」

「なんそれ。そんなもん見えない」廻るスロットを睨みつけたリリが猫目を細める。


 いつまでもグルグルと回りつづけるリールをながめてイメージができただろうか。

「たぶんここだよね」右さし指でパシっと左ボタンを押すと三連ドンビタ止まりだ。



「わぁお。なにこれ」そのまま中リールにも赤ドンを狙うと『チャラララララン♪』


 左中停止時の三連テンパイで特殊効果音ってアレじゃね。これはビッグ確定音だ。

早くも目押しタイミングをバッチリ決めたリリが右リール中段に赤ドンちゃん狙い。


『おぉ当たりぃドォーンっ。チャラーチャラーチャラーチャラララララララーン♪』

 鳴り響いた大きなファンファーレ音。これがパチスロ大花火のビッグボーナスだ。


「うわぁあぁぁっ。なにこれなにこれなんだよこれ。めっちゃくちゃハデじゃんか」

 こぶしを固めたリリが満面の笑顔でバンザイしながらガッツポーズで大きく叫ぶ。


 なんでこんなことになったんだろう。そもそもここにリリいるのは反則じゃない?



 またしつこいぐらい天丼だけどここまでの経緯をちょっとだけ振り返ってみよう。

そもそもダンジョンに入りたいリリの諸事情は濁して関係各所にメールで連絡した。


 神戸旧居留地ホテルで丑三つ時に近い時刻のメールで……レスが意味不明すぎた。

駅前にあったANAクラウン・プラザホテル岡山にチェックインしてから気づいた。


 高層階にあるプレミアムのWシングル・ベッドルームを確保できて休憩中だった。

太陽が高いうちに岡山入りできたから相談がてらに最上階ラウンジでティータイム。


 フレッシュジュースとショートケーキで笑顔のリリを前にタブレットを操作した。

ほとんど知識がない周辺の情報をチェックする最中にレスが届いてマジでびっくり。



 軽い食事だけを済ませて西口から徒歩で10分ぐらいの場所に行けとだけあった。

しかも驚かされた現地は昨夏にオープンしたばかりのユニークすぎるゲーセンだよ。


 小型ボウリング場に併設するパチンコ屋が廃業した居抜き物件のスロット専門店。

初期1.5号機から珍しい爆裂裏モノ。末期の5号機まで幅広く設置される店舗だ。


 ふらふらとホテルから住宅街に向かい到着する清新町のガラパゴス岡山が目的地。


「このお店みたいだね。オシャレな外観でニューパルの黒パネルがオブジェらしい」

「ふーんよくわかんないけどキレイなお店。店内うす暗いからアヤシイ雰囲気だよ」


 全面がガラスのスライド式自動ドアをリリと並んで抜けながらこの状況を考える。

まさか忙しすぎて身体が三つあっても足りない先輩が岡山なんかにくるはずがない。


「いらっしゃいませジロウさん。ジャンバリの関係者さんが皆さんでお待ちですよ」



 そんなことはあり得ないマジか。どこの誰がどう転いてこんなことになったんだ。

もちろんこの業界へと誘った先駆者であるレージ先輩の手はずだろうがおかしいな。


「九頭竜さんが珍古台マニアでつき合い長いんですよね。オタ仲間みたいな感じで」

 ガラパゴスのオーナーだとていねいに名刺を渡された彼は先輩と同世代に見えた。


 一番奥にある事務所に連行されると顔馴染みの訳アリ女と見慣れたカメラマンだ。

住所不定で無職のプー太郎とリリに伝えた気もするがたまに依頼される副業はある。


 社会的に貢献のないクソみたいなパチンコ業界の端っこで受け負うお仕事になる。

まだ赤門の学生だった時代関東ローカル局を拠点に全国放送された深夜のガチスロ。


 正式になんだったのかも記憶にないが全国のホールに置かれた無料情報誌だった。

ジャンバリ放送局としてネットに進出することになり紅バラ軍団を募集したはずだ。



 院生で年長のレージ先輩は当時から大手の攻略誌で活躍する覆面ライターさんだ。

「現役東大医学部のパチプロ」そんな煽り文句で覆面ライターとして人気者だった。


 趣味と実益まで兼ねるパチスロで弟子みたいな扱いのオレは調子に乗ったバカだ。

紅バラ軍団の演者として深夜ローカル番組の公共電波にリアル顔だしが問題になる。


 以前から東大生が活躍するクイズ番組は多いがパチンコ業界は微妙すぎる世界だ。

もちろん未成年じゃなく法的にパチンコは問題ないが大学生の立場が問題視された。


 法人化したばかりで国立大学を運営する組織として許されざる事態だったようだ。

覆面ライターとして動くレージ先輩はセーフでもアウト判定になり大学を中退した。


 もちろん考えなしでおバカすぎる行動が招いた末路はざまぁ的意味の追放だった。

そんなこんなで実家から縁切りされてジャンバリと先輩頼りに逃げた大阪ミナミだ。



「最初どれから始めたらいいかな。誰にでも目押しできるカンタン機種がいいよね」

 ワクワクした表情のリリを見下ろしながら笑顔で伝えるオレに過去の後悔はない。

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