第2話
傷、とは何だろう。
僕はここ最近ずっと、そんなことばかり考えている。
ついこの間のことのように思う。僕の周りには確かに家族とか、親しい人間がいっぱいいたように思う。けど、今は全く知らない人ばかりであふれかえっている。
そんなことある?って思うけど、でも確かに誰も、話さない。
しかし、僕は本当は喋ることができる。でも、言葉は使わない。誰も、そう、言葉を使っていないから。
ただ、忘れてしまいそうになるからこうやって、日記に書き綴っている。
「………。」
あれから、数年が経ってしまった、という事だった。
もう外には出れない。
あの、”物質”が大量に噴射された瞬間、隔絶された場所にいなかった人間は、大体死んでしまった。
僕の家族も、そうだった。
けど僕はたまたま、難を逃れたから、生き残ってしまった。
はあ、こんなことなら、生き残る必要なんて無かったのに。
そう思う、強く、そう思っている。
たまたま、病院で寝ていたのだ。体が病弱だった、だから外に確認に行くことは無かったし、だから、どんどん人がいなくなっていくという状況でも、年少者の僕はあの安全な建物の中にいることができた。
そして、何か良からぬことが起こっている、ということが確信に変わった頃には、もうほとんど人は残っていなかった。
奇跡的に、通信網が生きていて、そこから外に出てはいけない、という情報が発信されたのだった。が、その時にはもう、多くの人はいなくなっていて、つまり、あの物質を吸い込んでしまっていて、手遅れだった。
手遅れだった、僕の家族も、みんな。
けど、だいぶその濃度が薄くなり、僕らは外に出ても大丈夫になった、ということだった。けれど、そこに広がっていたのは、目を覆いたくなる現実だった。
僕は委縮した。
そして、多くの人もそうだったのだろう。
だんだん、言葉が話せなくなる人ばかりで、次第に多数になっていき、最後にはもう、そういう習慣が無くなってしまう程、生活が一変してしまった。
じゃあ、言葉を失くした僕らがどうやって生きてきたかというと、それは、
「こんにちは。」
「よく来たね。」
僕はこうやって月に一度、ここを訪れる。
僕は、話せるのだ。
けど、話せない人がほとんどで、だからこういう意思疎通は遠くまでやってこないとできない。
ここで、交流を進める。
つまり、人との交流が必要な場面はすべて、僕がこなしている。
しかし僕は、それを話しができない人々に伝えることはできない。
なぜなら、彼らは言葉とともに、聴力も失っていたから。
ここに来ると、情報を仕入れることができて、その人たちが言うには、話せない人の多くには、何らかあの出来事のショックから言葉以外にも関連して多くの事柄を失っている人がいる、という事だった。
そして、その多くが耳が聞こえない、ということで。
僕はまず耳が聞こえる人に、仕事を伝達する。必要な情報を伝える。
そうやって、何とか生きながらえている。
けど、こんな状況っていつまで続くのかな、僕は、まだ10歳だった。
けど、案外子供が生き残っているっていう例は多くて、目立つことは無かった。けど、子どもだから、大人だから、といって遠慮があるということは無かった。
みなが、当然のごとく動いていなければ、明日にでも世界は終わってしまうのだ、という恐怖に駆られていた。
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