一応

@rabbit090

第1話

 もう、考えることすら疲れていた。

 足は、がくがくと震えている。しかし、まだ歩き続けることができていた。

 

 「本当ですか?」

 「…当たり前だろ?」

 「そんな、言ってること違うじゃないですか。」

 「だから、当たり前だって言ってんだよ。あんた、何思ってんの?見なさいよ、こんな状況なんだから仕方ないでしょ?」

 確かに、その通りだったけれど、でも働かせてくれるって言うからちゃんと、けじめをつけてきたっていうのに。

 「あたし、故郷を捨ててきたんです。言ったじゃないですか、雇ってくれるって。」

 「だから、もう…。」

 彼女はもどかしそうに頭をかきむしる、だが仕方がないことは分かっている。

 あたしの故郷は、無くなることが決まっていた。それは、ここ最近続発している天災の影響だった。

 高名な学者によると、もう後少しで住めるところはほとんどなくなってしまうらしい。もう、現実にその威力は知れ渡っていて、すでに生きていた人間の4分の1ほどは、いなくなってしまった。

 為す術がない、それが結論だった。

 これはここに住んでいる者が悪かったのか、何かを手違えてしまったのか、対応が遅かったのか、考えが浅はかだったのか、とか、何かできることは無かったのか、とか、みんな、考えた。

 あたしは、どちらかというと思考を停止して、他人に言われた通りに物事を進めるという生き方をしていたから、こんな時局でも、危機感、というものが欠けていたように思う。

 怖くもなかったし、漠然と、主体性のある誰かがさらりと、問題を解決してくれるものだと思っていた。じゃないと、おかしいはずだから。

 あたしは、そういう主体性のある人が何かをするために黙って自分を殺して、したいこともせず他人の考える器の中に、自分を矯正しながらハマっていないと生きていけなかったのだから、なのに。

 

 ふざけんな、何だよ。

 誰にも、解決はできなかった。

 輝いている人でさえ、本当に大事なことになど目を向けることはできていなかった。

 そして、今。

 あたしはこの果てのない大地を歩いている。

 とにかく人がいなかった。

 これは、ついこの前故郷を捨てて最後の町にたどり着いたその日の、翌日のことだった。

 絶望していたその最中、唯一無傷で残っていたこの町は、世界もろとも住める場所ではなくなってしまった。

 空には、人が生きるにあたって吸い込んではいけない物質であふれかえってしまった。

 が、幸いその時、あたしはその日の生活を生きないといけなくて、地下にこもって眠っていた。地下と言っても、牢獄のような、使っていないその場所を格安で提供している宿があって、そこでひたすら固まっていた、けど。

 外に、出たんだ。

 でも、町は無かった。

 いや、正確にはあった。

 けれど、人は、人は、だから生きている人は、ほとんどいなかった。

 真昼間の出来事だったらしい。

 あたしみたいに、生き残った人もいた。けれど、あまりにもひどいその状況に、目を伏せていた。

 あたしも、最初は動揺して周りの人と目を合わそうとしていたけれど、そのあまりにも悲惨な様に、言葉が無くなってしまった。

 この世界には、言葉がない。

 いや、すでに失われてしまったのだと思う。

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