君を許さない
@clownfish
君を許さない
どうして。
私は君を愛していたし、君も私を愛していると言ってくれただろう?
生涯を誓った間柄だというのに。
何故君は黙ったままでいるんだい?
§
少し、君と私が出会ったときの話をしよう。
あのとき、私は大学に入ったばかりで文字通り右も左もわからなかった。
そんな時に声を掛けてくれたのが君だった。
「大丈夫ですか?」、と。
あの瞬間は今でも忘れない。
きっと私は、この時には既に恋に落ちていたんだろう。
君も私と同じ一年だと分かったとき、得体のしれない嬉しさがあった。
そして、同じ教室だから、と言って私の手を引く君は、とても輝いて見えた。
オリエンテーションのようなものが終わったあと、
私を昼食に誘ってくれたのは君だったな。
メニューを見て目を輝かせる君はまるで子供のようで可愛かった。
そこで私たちはいろんなことを話した。
趣味や高校でのこと、君は熱くなって夢について語っていたな。
あの真っすぐな君の眼は、美しく、格好良かった。
§
初めて会った日からどのくらいだっただろう。
最初から意気投合し、一緒にいることが多かった私たちは、
周りの声もあり、くっつくまでにそう多く時間はかからなかった。
同棲を始めたのは、付き合って一年ちょうどだったな。
私は記念日とかを気にするタイプではなかったが、君はお祝いをしたがる人だった。
二人の家で、付き合って一年のお祝いと同棲の記念に出前を取った。
初めて行為をしたのもこの日だったな。
ゴムは準備したくせに、なかなか手を出さないものだから、私から襲ったんだ。
押し倒された君は、最初はあたふたしてたけど、
やがて覚悟を決めてしっかり抱きしめてくれたね。
君との行為は、優しくて、気持ちよくて、君からの愛をとても感じた。
§
大学を卒業して、お互い就職してからは忙しくなってしまったけど、
週に一度は時間をつくってどこかに行こうって決めたんだ。
朝食を一緒に食べて、一緒に家を出て。
夜は時間が合わないけど、おんなじベッドで寝る。
週末は君と出かけて、また次の週も仕事をする。
そんな生活を二年くらい過ごした頃。
君がプロポーズしてくれたんだ。
私はもう泣くほど嬉しくて、持っていたハンカチがぐしょぐしょにしたんだよね。
それからは早かったよね。
その日のうちにご両親に連絡して、二日後には入籍したんだ。
式も半年後くらいに挙げて、いろんな人から早すぎって言われたっけ。
私も寿退社して、これからって時だった。
君に癌が見つかったのは。
§
食道癌のステージ3。
長く見積もってあと三年だと医者言われた。
私はこの現実を受け入れるとこができなかった。
君が入院して、広くなった家で毎日吐いた。
私の方が病人に見えるくらいに気が滅入っていた。
そんな時に私を救ったのは、君の言葉だった。
「君が車椅子を押して、どこか連れて行ってくれないか」
私は君と出掛けることが楽しみになっていった。
顔色もよくなり、ほとんど回復したと言えるようになった。
だが、そんな私とは裏腹に、君はどんどんやつれていった。
薬の副作用で髪が抜け、食欲も無くなり、以前の見る影もない。
ついには、ずっと寝ているようになってしまった。
病室に入るたびに、死んでしまっているのではないか、
そんな考えが頭をよぎる。
そんなある日、ついに医者から病院に来てほしいという旨の連絡がきた。
§
なぁ、私は君との思い出を話し終えてしまったよ。
私がどれだけ君を愛し、君との時間を大切にしていたかわかってくれただろう?
だからさ、その目を開けてくれよ。
また一緒に出掛けよう。
私を置いて逝くなんて許さないよ。
君との子供も欲しいし、マイホームも欲しい。
だいいち、君があの日話していた夢はまだ叶っていないだろう?
ふたりで叶えていこうよ。
だからお願い、死なないで─
君を許さない @clownfish
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