第24話 尸童
「貢の具合はどう?」
奥の部屋から出てきた夫は、久々に医師の顔になっていた。
「大丈夫だよ。熱はもう下がったから。ただ、怖い夢をみるんだと言ってた」
「怖い夢。どんな?」
「さあね」
軽く首を傾げて、夫は言った。
「目が覚めたら忘れてしまうんだと。怖かった事だけ憶えているらしい」
再び
「……貢」
うっすらと目を開けた孫の頭をそっと撫でる。昔に戻ったような気がした。寝顔を見に来た小百合が、目を覚ました孫をあやす。隣の部屋には娘夫婦がいて……。
「お祖母ちゃん」
歳を取ると、想い出というものが大切になる。記憶の底に沈んでいた筈の何気ない時間が突然よみがえり、大きな感情の波を呼び起こす。
「どうして泣いてるの?」
尋ねられて、そっと涙を
「大丈夫よ。ここに居るから」
そんな言葉が口をついた。答えになど、なっていない。それでも、そう言わずにはいられなかった。
あなたは、私が守るから……。
思い過ごしであって欲しい。この期に及んでも、そんな思いが消えない。
そして、あの『消えた男』は何者なのだろう。二人一緒に幻覚を見た? そんな事があるのだろうか。前もって何かの暗示をかければ可能だろうか。しかし、何の為に。
考える程に分からなくなる。どうすればいいのだろう。
回復した貢は、また大学に通い始め、アルバイトも再開した。けれど家に帰って来るまで心配でならない。今日は何もなかっただろうか。怖い思いをしていないだろうか。
毎日昼食を一緒に取るようになったという秋山さんが、まめに連絡をくれるのがありがたい。彼女にも迷惑を掛けてしまって申し訳ないが、もう少しだけ付き合ってもらおう。
「あの子、うちに嫁に来てくれないかなあ?」
蕎麦を並べながら、夫が呑気にそう言う。
「毎日美味い蕎麦を食わしてやるのに」
少しだけ気持ちが和いだ。もう暫くマイブームは続きそうだ。
「ふふ……そうね」
毎日だと彼女も飽きるわよ。そんな言葉を呑み込んで小百合は笑った。
「
もう誰も、いなくなって欲しくない。
願いは叶わなかった。
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