第14話 嫌な予感
貢がタクシーで帰宅した時には驚いた。送ってくれた彼女から事情を聞きたかったけれど、その機会は逃してしまった。図書館で何があったのか、何度も貢に問い質したけれど、まともな答えは返ってこなかった。どうやら、何も憶えていないらしい。
二度も助けてくれた秋山さんは予想通り良いお嬢さんだったから、お礼を理由に家に呼ぼうと思った。彼女なら何か知っているかもしれない。
なのに……。
断られたと、ぬかしやがった。
何なのだ、この孫は。女の子一人誘えないで何が氷の王子だ、情けない。
だから強引に誘った。そして、気になる話を聞いた。見知らぬ男。袋小路での消失。
奇妙な符合を感じた。
『図書館で出会った男に、見覚えはないの?』
単刀直入に訊いてみたが、貢は首を振った。
『ごめん。分からない』
辛そうなので、それ以上は突き詰めないことにしたけれど、どうしても気になってしまう事があった。
交通事故に遭う半年ほど前から、貢は誰かに見られていると訴えていた。朝カーテンを開けると、窓を見上げる見知らぬ人物の姿がある。通学の途中で尾行されている気がする。怯えはしなかったが、不安そうな顔をしていたのを憶えている。実害は何もなかった為、警察も動いてくれず、様子を見るしかなかった。
ところがある日、とうとう事件は起きた。自転車通学だった貢が、帰り道に車に連れ込まれそうになったのだ。自転車に乗っていたにも関わらず強引に引き
『綺麗な坊ちゃんだから、女の子に間違えられたんでしょうね。とりあえずパトロールは強化しておきます。クラブ活動もあると思うけど、あまり帰りが遅くならないように、君も気を付けてね』
対応してくれた警官は、そう言って笑った。
それから数日後、娘夫婦は交通事故により命を失った。ドライブレコーダーの映像は何故か真っ暗で、目撃者は相手の車のナンバーはおろか車種すらはっきりと憶えていなかった。
ストーカーとの関係を疑い、念のため興信所を使って行方を追ったが、結果は空振りだった。退院した貢の精神的ケアを優先し、後は警察の「継続して捜査する」という言葉を信じ待つことにした。
何も起きず、六年が過ぎた。
あの二人は良い雰囲気だ。貢も家で彼女の話をよくする。
『貢をよろしく』
そう言ってしまった。忘れてくれと言ったその口で、である。
今回のことは、あの事故と関係があるのだろうか。貢はまた、誰かに狙われているのではないだろうか。そんな思いが言葉になってしまったのだ。
味方が欲しかったのかもしれない。勝手なものだ。
まさかと思うが、この件に関わることで彼女が危険な目に遭うという事は無いだろうか。考え過ぎだろうか……。
──どうか何事も起きませんように。
祈りは通じないだろう。何故か、そんな気がした。
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