第11話 ソイラテ
「彼がさー、私よりバイトを優先するわけよ。どう思う?」
友人の一人である中村
「まあまあ、そう怒りなさんなって」
みどりが、紙コップを取り上げてくず入れに向かって投げた。失敗して床に落ちたのを拾い上げて捨て直してから、こちらを振り向いて舌を出す。
「でも、確かに冷たいよね。心愛、可哀想」
「そうそう」
同調する声に苦笑し、桐子は口を挟んだ。
「心愛の誕生日、もうすぐだよね。プレゼント買うのにバイト代稼いでるんじゃない?」
「え?」
心愛は、
「良く気付いたね桐子。凄いじゃん」
みどりが言う。心愛はあっという間に機嫌を直し、話の内容は愚痴からのろけ話に変わった。
「いいねえ。
「何かおごりなさい」
本当に羨ましいと思っているのかどうか分からないような、興味がありそうな無さそうな口調で皆がはやし立てる。
大人の関係は、気楽だ。
父が転勤族のため転校が多かった桐子には、長続きする友人がいなかった。仲の良い友達も離れてしまうと
親友と呼んでくれる友達もいた。けれど女子特有の、一切隠し事をしない、何処へ行くのも一緒という関係は、桐子には負担だった。いらない気を遣い、他の子と話せなくなる。彼女らとも、引っ越し後には縁が薄くなった。
広く浅く付き合う術を覚えた。必要以上に深入りしないこと。自己主張をし過ぎず、
こんな風に、これからも生きていくのだろうか。
「プレゼント、何かリクエストした?」
みどりが尋ねる。
「もうすぐiPhoneの新作が出るわよ」
ちょっと値が張るなあ、と心愛が答える。
「でもお
「GPSなんか入れちゃったりして」
「いいね。私のに入れられるのは嫌だけど」
ブラックジョークに、笑い声が起きる。
あの男性は貢の恋人なのだろうか。途中までの雰囲気は正しくそうだったけれど、貢の様子は普通ではなかった。別れ話がこじれたとか、そんな次元ではないように思えた。
消えたように思ったのは錯覚だろうか。どこかにまだ、桐子の知らない隠し扉があるのだろうか。
「どうしたの桐子、ボーっとして」
声を掛けられて我に返る。
「ごめん。昨夜はレポート作成であまり寝てなくて」
睡眠不足は本当だった。ただし原因はレポートではないのだが。
「そうか。理系は履修科目多いもんね。実験って遅くまであるんだっけ?」
心愛が心配そうに言う。
「そうなの。閉店間際のカフェテリアでカフェラテ飲んで、帰ったらすぐデータ整理。一晩寝たら分からなくなっちゃうのよね」
言い訳のように、言葉を
大切なものを人目に
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