第14話 自由人と反撃
まえがき
前話にてテオ君のお母さんとお父さんの名前を追記致しました。テオ君のお母さんの名前は『
それでは物語をお楽しみください。
――――――――――――――――――――――
「~~」
お母さん達と話を終え、少し経った頃。
シャルは鼻歌を歌いながら漫画を読んでいた。……俺のベッドの上で。
「めちゃくちゃくつろいでるな」
「テオの匂い、安心するんだもん」
カラメル色の瞳が漫画からこちらに移る。シャルは隣をぽんぽんと叩いた。
「テオもこっちで読もうよ」
「やめておく」
俺はベッドを背にカーペットの上へと座っていた。シャルの言葉に首を振ると、彼女は頬を膨らませた。
「いっしょに寝た仲なのに」
「そ、それはそうだが。……そうなんだが」
今更では、という思いがない訳ではない。
しかし、なんかこうあれなのだ。うん。
「ふーん?」
シャルがもぞもぞと動いてこちらに近づいてくる。そして、身を乗り出して肩に顎を乗せてきた。
「あ、これラノベ原作だったんだ」
ぴとりとほっぺたを押し当てながら、シャルはへえと声を漏らす。
「後で読んでみて良い? 私、なんだかんだラノベって気になってたんだよね」
「良いぞ。……近くないか?」
「近くないよ」
さらっと聞いて見るも流された。まあいいか。
「シャルって漫画とか読むんだな」
「
「なんか意外だな。アウトドア派かと」
「こっちでの流行りとかも押さえておかないとって思ってたんだけど、そこからはまってね」
なるほどとシャルの言葉に頷いた。それなら――良い事を思いついた。
「映画見ないか? 最近サブスクに追加されたのがあってな。……恋愛系のアニメ映画なんだが」
「見る! 見よ!」
こっちの趣味に付き合わせる訳にはいかないと思っていたが、丁度良い。
という事で、映画を見る事となった。
◆◆◆
シャルの言葉が俺を気遣って……という可能性も考えていた。しかし、それも杞憂のようだった。
最初から最後まで、シャルは至って真剣に映画を見ていた。
……ずっと手をにぎにぎしていたのが気になりはしたが。目を向けると「ハグして良い?」と聞かれたので大人しく握られる事にしたのだ。
そして、映画が終わり――余韻に浸る。
「最後のとこ、凄かったね」
「……ああ」
交通事故でヒロインが亡くなる所から物語は始まる。
主人公が次の日目覚めると、数日前に巻き戻る……タイムリープを引き起こしていた。しかし、何度繰り返してもヒロインは何らかの理由で死んでしまう。ヒロインを救うため、主人公が新しい運命を切り開くという話だ。
絶対にハッピーエンドになれないという展開から、
シャルがソファにもたれかかり、ふうと息を吐いた。カラメル色の瞳が天井を見上げ、続いてこちらへと向いた。
「ねえ、テオ」
「なんだ?」
「主人公、ちょっとテオに似てたよね」
「いきなりどうした」
「ヒロインをトラックから守るシーンあったでしょ? あそこであの時の事思い出してさ」
「……それくらいだろ、共通点」
「ふふ。凄い共通点じゃない? 交通事故から守るって。言葉にするのと行動にするのでは全然違うよ」
そもそもそんな場面が中々来ないとは思うが。
まあ、今考えてもあの時よく動けたなとは思う。
その時、シャルの口が小さく動いた。
「――からね」
「ん?」
「なんでもないよ」
口は動いたものの、肝心の言葉は紡がれなかった。聞き返すも、シャルは微笑むのみ。
「テオ」
名前を呼ばれたかと思えば――唐突に、頬に柔らかなものが押し当てられた。
「せ、せめて先に聞いてくれないか?」
「ふふ。やだ」
すぐ目の前に整った顔があるの、凄く心臓に悪い。……唇が押し当てられるのも、慣れる気がしない。
「私も助けるよ。テオに何かあったら」
「……そうか」
「ん。絶対ね」
鼻をつんつんとつつかれ、俺は少し下がった。しかし――
「逃がさないよ」
「うおっ」
ぴょんと跳ぶようにシャルが抱きついて来た。
「もう逃がさないからね。テオの事」
その言葉だけ切り抜けば、凄くヤンデレ味がある。しかし不思議と――怖くはなかった。
「ずっといっしょがいいな。テオとはずっと」
「……いっしょだよ。シャルが望む限りは」
「じゃあ来世までいっしょだね」
そうなると良いな、という言葉を繰り出す事は……まだ、出来なかった。
「テオは変わってないよ。ううん、ちょっと違うかな。変わりはしたけど、変わってない」
「……分からんぞ」
「分かるよ」
まっすぐとその瞳に見つめられる。そうしていると、心がむずむずし始める。
「テオも分かるようになるよ。だって――」
手を握られる。逃げられないように。ぴとっと、また柔らかいほっぺが当てられた。
そして、耳たぶを
「私、こんなに幸せなんだもん」
「……」
何も描かれていないキャンパスのように、真っ白で純情な好意。
それを真正面からぶつけられて、俺は言葉を発する事も出来ず……ただ受け入れる事しか出来なかったのだった。
◆◆◆
「来て、テオ」
「やっぱりまずいと思うんだが」
「なんにもまずくないよ。ほら」
「それはもう抱きつく体勢なんだよ」
ベッドの上で腕を広げて待機するシャル。俺もシャルも風呂を終え……後は寝るのみとなった訳だが。
「一旦。一旦話をしないか?」
「やだ。おいで」
「話聞かねえなほんと」
「はーやーく、おーいーでー?」
話し合いには断固拒否の姿勢を取られる。
……分かってる。分かってるんだ。最終的にはこうなるんだと。抵抗も形だけになると。
だが、このままやられっぱなしというのも面白くない。
それならばいっそ――
「シャル」
「わっ、と」
――攻めてみるべきではないだろうか。
一回だけ恥を捨て、ベッドに入り込む。というか抱きつく。
体の前面が柔らかく、そして暖かいものに当たる。それとめちゃくちゃいい匂いがする。
「……」
……なんか言われると思ってたんだけど。何も言われない。言われないと言われないでめちゃくちゃ不安になってきた。
選択を間違えた?
やっぱり……いや、それは考えるな。大丈夫。シャルは俺の事を……好きでいてくれてる。よな?
あ、やばい。良くない方に思考が行きかけている。凄く良くないやつだこれ。
心臓もバクバクと凄い音を立て――ん?
ふと違和感に気がついた。
心臓の音が二重に聞こえたのだ。
遂に俺の心臓も限界突破するようになったのかと思ったが、違う。
――これ、シャルの心臓の音だ。
それに気づいた瞬間、心臓は更に強く音を奏で始めた。
「……」
シャルは何も言わない。言ってくれない。
腕の力を緩めると、シャルも抱きつく力を緩めた。ちょっと感覚がおかしくなってたが、抱きしめ返してくれていたらしい。少しホッとした。
今俺はシャルの上に乗っている形になっている。
重いだろうとベッドに手をついて――その顔を見て、俺は固まってしまった。
シャルの顔は真っ赤になっていたのだ。しかし、その口元は緩みきっていて……それに抵抗するようにによによとしている。
その腕が持ち上がって、自分の口元を隠すようにした。恥ずかしがるように。
「……する?」
その声は小さく、しかしはっきりと聞こえた。
ふっ、と。腕の力が抜け――倒れ込んだ。シャルの隣に。
遅れてくすりと小さく笑う声が聞こえ、俺は枕に顔を突っ伏した。
「……悪い」
「謝らないでいいんだよ。そういう所も……ううん。そういう所が好きなんだし」
シャルが半身を乗せるようにのしかかり、抱きついてきた。肩にむにゅりと柔らかいものがのしかかって……腕を体に回される。
「ありがと、テオ」
耳元でそう囁かれる。ゾワゾワと、背筋を優しく撫でられるような錯覚を起こした。
「また一歩進めたね」
そう言ってはくれるが、進めているのかどうか。俺には分からない。
ただ一つ、今回の件で分かってしまった事がある。
――シャルはもう全てを覚悟している。全てを受け入れる覚悟を。
覚悟が足りないのは俺の方だ。覚悟も、準備もまだ足りていない。
「ふふ」
耳をくすぐる笑い声。聞いていると、心を覆っていたモヤが晴れていくようだった。
「いつか、ね」
耳たぶを
夜は更けていき――気がついたら、俺もシャルも眠りについていたのだった。
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