第55話


 ぱちっ。

 

 あぁ……。変な時間に目が覚めた。

 食べ過ぎてるからかな。

 

 15品は多いんだわ。どんな天国でも。

 スイーツまでは食べられたけど、フルーツの盛り合わせは持ち帰るしかなかった。

 この二つ無かったら1万円くらい下がったんじゃないかな。


 まぁ、自腹じゃないから全然いいんだけど。

 明日の朝昼くらいは賄えそう。ふふ、ふふふふ。

 

 ……


 ん?

 

 なんか、脇の下が変な感じだな。

 右の脇の下っていうか、ちょっと熱

 

 

 !!!!

 

 

 「すぅ……

  ……すぅ……」

 

 な、な、な、な、なっ!!!

 

 え、

 え、

 えぇぇぇぇぇぇぇ!?!?

 

 い、いったいこれは、

 なにが、どうして、どうなって、

 は、え、わ、がっ!?

 

 「……ん……っ……」

 

 寝てる。

 寝てるな、どうかんがえても。

 

 いや、これ、

 なんにも分からないけど、

 起こしちゃだめだっていうことくら

 

 ぱちっ

 

 え゛

 

 とろんとした眼をしたはるなさんは、

 へにゃっと笑うと、

 僕に、凭れ掛かってきて

 

 「……えへへ……」

 

 抱きついて、きた。

 

 わ。

 うわ。

 

 力、強い。

 そりゃそうか。舞台女優なんて体力勝負なんだから。

 

 って。

 っていうかこれ、外れない。

 無理に外しちゃったら起きるだろうし。

 

 やばい。

 身体が、弾力があって、甘い薫りが立ち込めてくる。

 人肌、めちゃくちゃあったかい。

 何年振り? っていうか、こんなのあった??

 

 わ。

 これ、本格的に熟睡してる。

 

 ゆっくり、

 ゆっくりと腕を外し、

 掛け布団をかけなおす。

 

 ふぅ……。

 

 ……

 嫌だ、こんなからだ。

 生理現象、さっさとなくなってしまえばいいのに。


*


 ……んぁ……

 

 背中が、痛い。

 やっぱり、ソファーで寝るのは無理があるわ。

 

 っていうか、今日、土曜日だから、

 起きる必要なかったんだなぁ……。

 

 あぁ。

 週休二日、しかもフレックス。

 なんて素敵なジャパネスク。


 で、いま、何時なんだ?

 なんだろう、いちいち広いから、

 スマホ見るだけで、ってスマホってベットの

 

 ……

 

 そうね。

 起こせないね。

 こんだけしっかり熟睡してると。


 ……睫毛、長いなぁ……。

 頬がもちもちしてて瑞々しい。

 女優さんとかだとライトあたるから肌ボロボロになるはずなんだけどな。

 

 (……えへへ)

 

 ……

 絶対だめだっての。

 きみはsonほんと中学生か。土曜日だからって

 

 ぶーっ

 

 ん?

 

 ぶーっ

 

 布団の中で、スマホが、もぞもぞしてる。

 あぁ、枕の中に埋もれちゃったんだ。

 無駄に広いベットの反対側にいけば、っと。

 

 ん?

 

 <榎です。>

 

 あら。

 

 <早朝から大変失礼ですが、

  晴香、そちらにおりますでしょうか。>

 

 んん??

 

 <電話をしても繋がらないのです。

  先般のように電源を落とされているわけではないのですが>

 

 は?

 

 <今日のご予定は?>

 

 <朝7時から撮影が入っておりまして、

  現場まで1時間かかりますから、

  準備ができておりませんと>

 

 7時からって、いつもながらブラックだなぁ。

 で、スマホの時間みると、

 いま、6時15分。

 

 !!

 

 「はるなさん、はるなさんっ!」


*


 <遅刻したんだって?>

 

 ……課長のRINE、わかったのはありがたいけど、

 オフィスデーが続いてるような感じになるな。

 ま、いいけど。

 

 <あの娘、遅刻したのはじめてらしいよ。

  現場で話題になってるってさ。>


 ……情報源、いっぱいありそうだなぁ。

 

 <破水しちゃったかな?>

 

 あのねっ!!

 

 <ありえません。課長じゃあるまいし。>

 

 <きみね。

  前から思ってたけど、僕に対する偏見が甚だしいんだけど。>

 

 <違うんですか?

  男性アイドルって、六本木で豪遊して、

  ファンを飲ませて手当たり次第食べまくってるんでしょ。>

 

 <あのねぇ…

  そりゃそういうのはいないとは言わないけど、

  だいたい、淘汰されていなくなっていくもんだよ。>

 

 ふぅん、めっちゃウソくさいな。

 あ。

 

 <なんで雪乃なんですか?>

 

 <あはは、なんか思ったより軽いね。

  きみのことだから、もっとずっしり重ぉく受け止めてるかと思ったけど>

 

 あ。

 あぁ。

 八万円天国とはるなさん耐久レースですっかり飛んでる。

 

 <ちょっと長くなるから、月曜日に話すよ。

  店、用意しといてね。>

 

 ……あはは。

 やっぱりそういうことになりますか。


*


 え。

 

 「主幹が、寿退社、ですか。」

 

 植村主幹、確か50代だったんじゃ。

 

 「まぁ、は、そうなるね。

  結婚相手先の地元に移住するわけだから。」

 

 50代で結婚ってできるんだ。

 子ども、産めないと思うけど。

 

 「パートナーシップ、ってところだろうね。

  幾つになっても、気の合う人と一緒にいたい、

  っていう心はあるものだよ。」

 

 ……。

 わからないでもないけど、

 こんだけいい仕事辞めさせるって、

 向こう、どういうつもりなんだろうな。

 

 「まぁそういうわけだから、

  一人、中途採用枠で取っちゃおうかなって。」

 

 「新卒じゃなく、ですか。」

 

 「そういうこと。

  きみを裏切った元婚約者だから面白そうだ、

  なんて、50%くらいしか考えてなかったよ。」

  

 半分もあるんかいっ。

 

 「だって、

  きみ、もう、大丈夫でしょ?」

 

 ……

 そう、だろうか。

 そもそも

 

 「ま、あの二人には、

  になると思うけどね。」

 

 ん?

 

 「おまたせいたしました。

  プレシデンシャルバーガーでございます。」

 

 ほほぅ。

 これかぁ。えらい重量感あるなぁ。


 「……きみ、ほんとこういうところ、

  よく見つけてくるよねぇ……。」

  

 課長っぽい店探すの、ちょっと大変だったんだけど。

 芸能人に対する偏見をぶつけてみようかと。

 

 あ。

 あー。

 

 こういう、こういうやつか。

 

 「……これもう、ふつうのよくできたハンバーグだよね。」

 

 パテはほどよくサシの入ったミスジ肉のハンバーグなんだけど、

 食感の軽いバンズ、レタスとアボガドと一緒に食べると、

 ハンバーガー特有の一体感が口の中に広がっていく。


 あぁ、このミスジ肉、

 ほどよくジューシーで塩加減完璧、激ウマウマ。

 

 「……ははは、なんだこれ。

  ちょっとハマるかもしんない。」

 

 「こういうの、食べなかったんですか?」

 

 「これはなかったなぁ。

  ハンバーガーは、もっとずっと安い奴だったよ。」

  

 そうなんだ。

 作曲家とかが差し入れてくれるやつかと。

 

 「ないよそんなの。

  そういえばきみ、海原千草に逢ったんだって?」

 

 ん?

 あぁ。

 

 「お会いしましたよ。

  背筋の張った堂々とした方でした。」

 

 「ふふ。

  カンヌを攫った国民的大女優、

  押しも押されぬ芸能界屈指の重鎮に、

  まったく物怖じしなかったそうだけど。」

 

 なんでその情報が入ってるかな。

 社長かな? 単純によく知らなかっただけなんだけど。

 

 ぶーっ

 

 ん? 

 あぁ、課長のほうか。

 

 「ちょっとごめんね。

  ……

  

  ふ、ふ。

  ふふふ。」

 

 ……なんか、悪い笑い方してるけど。

 

 「僕の、騒動を運んできそうだよ。」

 

 えぇ?



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