第47話


「……。」


「……。」


「……。」


「……。」


 こ、これは……

 さすがに、だめだ。


「……申し訳ありません、静さん。

 この人に、ストーカーされてたみたいで。」

 

 は。


「言ってくれるわね。

 だいたい、なんであんたみたいな端女が

 静を下の名前で呼んでるのよ。」

 

 っ


「貴方こそなんですか。

 カネに目が眩んで静さんを棄てた女が、

 今更、何の用なんですか。」


 ぇ


「あんた、わかってるでしょうがっ。

 だいたい、あんたが私の計画を台無しにして」


「台無しにされて当然ですけど。

 低レベルなクライアントの指示に対して

 逆提案で普通のものをぶつけようとしてらしたんでしょうが。」


「!」


 あ。


(むしろ、かなりうまくやってたって感じ)


 そういう前振りのつもりだったのか。

 それにしてはやり方がこなれてないな。


「大人しく言うことを聞くだけと思ってた主演女優の主導で

 思ったよりずっとまともなものがあがってきちゃったわけですからね。

 うわ、だっさ。」


 ……帆南さん、元営業部の血が騒ぎ始めたのかな。

 えらく強い言い方になってるけど。


「うっさいわねっ。もとはといえば、

 あんたらの社員がこの計画をからでしょうがっ。」

 

 社員?


「グループ全体の百五十周年事業ですよ。

 億単位の金かけて失敗したら、

 コストカットしてる人達になんて言い訳するんですかっ。」


 うーん、正論だ。

 正論なんだけど


「社員って?」


 はっ、って顔してるな、洋子さん。

 あ、帆南さんが、冷静な顔になった。

 ああいう顔してる時は、才媛モードに入ったな。


「……。」


「言いなさいよ。

 言えよこのアマ。」

 

 うわぁ。

 こういう態度になっちゃったよ、帆南さん。

 営業部の上司の態度、身に付いちゃってるのね…。


「どうせ貴方、切られるだけでしょ?

 っていうよりも、貴方の計画、実際には口約束で、

 最初から潰させるためにやってたん

 

「ちがうっ!」


「違わない。違うわけない。

 違ったなら、私達のプレゼン見た時、もっと悔しそうな顔してたはずじゃない。

 こうなるの、分かってたみたいな顔して」


「だまれぇっ!」


「は。

 そんなんで黙るわけないじゃない。

 馬鹿じゃな


 ……

 し、

 静さん、それ……。」

 

「うん。

 交通会館の近くで買った。」


「……

 あはは、あそこですか。

 鹿児島のアンテナショップ。」


「そうそう。

 うどんはもう、近場でああいうところがあるから、

 甘いものにしようかなと。」


 はるなさんのためなんだけどね。

 まぁ、いいか。


「あー。

 かるかんですか。」


「うん。

 百貨店に来てる店と同じやつ。あんこ入ってないやつね。」


「………。」


「食べる? 洋子さんも。」


「……

 はぁ。

 

 食べる。

 いや、食ってやる。」


 ……はは。


*


 改めて見ると、髪型もだいぶん変わってしまったし、

 化粧や香水の系統がぜんぜん違う。

 当たり前か。あれから5年も経ってるんだから。


 あの金持ちのオトコの趣味なのかな。

 悪相プロデューサーは逆側だと思うけど。ロリコン性癖だし。

 

 あぁ、でも、もう他所のオトコのモノなんだから、

 顔、覗いちゃいけな……


 あ。

 視線が、合っちゃった。


「……ほんと、いい部屋ね。

 稼ぎ、そんなにいいの?」

 

 僕が実際に借りてるのは茗荷谷なんだけど。

 ややこしいから黙っていよう。


「家賃手当でなんとか。」


 絶対に無理だけど。


「……ふぅん。」


「貴方は金持ちと結婚してんだから、

 こんな部屋、大したことないんでしょ?」


「いちいちつっかからないでくれる?

 うざ。」


「存在がうざいのは貴方。

 つっかかられる覚えしかない癖に。」


「……チッ。」


「舌打ちするなら帰ったら?

 もともとお呼びじゃないんだから。」


 帆南さん、ほんとに戦闘的だなぁ。

 まだカロリー足らなかったか。


「……あんたたち、付き合ってるの。」


「そうよ。」


 っ!?

 ほ、帆南さんっ??

 

「……そう。

 じゃあ、恋人を情実人事で送り込んだってワケ。

 変わったのね、静も。」


 違うんだけどなぁ、根本から。


「は、馬鹿言わないで。

 素人同然のスキルの癖に

 愛人のお情けでしがみついてる貴方のほうがよ

 

 ……あむ

 ……あむ、あむ……っ」

 

 うーん、

 かるかんだと、

 まぁまぁ棒効果、弱いなぁ……。

 

 ……しょうがない、か。


「洋子さん。」


「!」


 ……意外に、平気だ。

 もう少し、身体に震えがくるかと思ったけど。


「……

 もし、今回の件で、

 何か頼み事をしようと思ってるなら、

 僕に言っても無駄だよ。」


「……。」


「僕は企画者じゃないし、人事権者でも、決定権者でもない。

 ほんの少しお手伝いはしたけれども、

 もともと、このプロジェクトは僕の管轄外。」


「……調一の妖刀。」


 ん?


「この企画案を構成したのは、

 すべて小辻静だって。」


 はぁ?


「誰から聞いたの。」


「……。」


 黙秘されてるな。

 なんか、尋問してるみたい。


「こんなまるわかりのデマを信じるなんて貴方らしい。

 というよりも、静さんを棄ててまで玉の輿に乗ったのに、

 なんでこんな素人道楽やってるの。」


「……っ。」


 帆南さん、棘が強すぎるって。

 あぁ、かるかん、もう終わってるな。

 結構安くなかったのに。

 

 しょうがない。

 五三焼カステラでも出そ


 ぴりりりりりりっ


 ん……

 また0120とかじゃないよね?

 知らない番号だけど……。


「もしもし。」


『あ。

 そちら、小辻静様の番号でよろしかったでしょうか。』


 またなんか売りつけるやつか、

 それとも宗教か。


「どういったご用件でしょうか。」


『あ、ありがとうございます。

 こちら、文芸読物社のカシヤと申しますが。』

 

 ?



『弊誌の取材では、小辻さんは

 榊原晴香さんとお付き合いをされているとお伺いしていますが、

 お間違えありませんでしょうか。』


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