第22話


 「まぁそれはいいけど、

  福岡の件、慎重にやってね。」

 

 ん?

 

 「あぁ、そうか。

  結城さん人事部長がさ、向こう福岡支社に対策させてるんだよ。」

 

 あぁ、そういう。

 ……。


 あ。

 なるほど、ね……。

 

 「気づいた? そこで黙ってられるのはきみの美徳だよね。

  どうしてそういうのはいろいろ気が廻るのに、

  女性関係はこうも鈍いの? 中学生みたいだよ。」

 

 は?

 

 「あはははは。

  まぁ、そういうところもきみらしいよ。

  一緒に企画本部来る?」

  

 認めちゃってるよ、いろいろ。


*


 「んーっ!

  おわりましたねっ!!」

 

 おわったねぇ、やっと。

 

 「長かったですね……。

  向こう、ずっと説明してましたからね。

  こっちに質問させないように。」

 

 ご丁寧にパワポまで作っておいて。

 資料説明、無駄に長かった。


 「まぁ、この形で出してくれてるなら、

  それはそれでいいんだけど。」

 

 ヒアリングだからね、あくまで。

 貰ったものを精査して、裏付けられるか確認するだけだから。

 ファイナライズは向こう人事部の問題だし。


 「……絶対、なにか悪いことしてますよね。」

 

 思い込みの強い人みたいな言い方になってるな。

 まぁ、残念ながらその心証は合ってるけど。榎本さんもいろいろ鋭いから。

 

 「帰ったら少し慎重に精査する感じだね。」

 

 っていうか、こんだけ資料出しちゃってるの、自滅行為だと気づかないのかな。

 ちょっと調べておきたいことあるから、夜のうちに寺岡さんにメールしとこ。

 

 「ですね……。


  さ、今日はもう、博多を楽しみましょうっ!

  博多っていったら屋台でしょ、屋台っ!」

 

 そっち? 

 てっきり海産物系かと思ったけど、

 気が変わったのか、なにか情報仕入れたのか。


 あぁ、お酒飲めるからっていうのもあるんだろうなぁ。

 屋台の隣に座ったオッサンと普通に一緒に吞めそう。

 ……そうなったら変な輩にお持ち帰りされそうだから、ちゃんと見てないと。

 

 「じゃ、しゅっぱーつっ!」

 

 は?

 

 「いや、屋台でしょ?

  結構距離、あるんだけど。」

 

 ここは博多駅周辺で、屋台街は中洲川端か櫛田神社あたり。

 タクシーで行ったほうが。

 

 「ちっちっち。わかってないですね先輩。

  キャナルシティを見ていくに決まってるでしょ。」

  

 え。

 

 「東京で入れそうなところばっかりじゃない。」

 

 「わ。

  相変わらず身も蓋もないこと言いますね。


  違うんですよ、いろいろ。

  こっちにしかないテナントも入ってますし、限定品だってあるんですから。」

 

 また大川正八商店のよくわからない手拭買うの?

 うーん、まぁ、

 

 「行きたいっていうなら。」

 

 入れる前に多少は体重、減らさないとだし。

 カロリー量で5倍以上の差だから気休め以外のなにものでもないけど。

 

 「……。」

 

 「?

  どうしたの?」

 

 「いや。

  こないだ、大阪でスパイスカレー巡りしたじゃないですか。」

  

 「うん。」

 

 歩かされた記憶のほうが強いけど。

 御堂筋はなかなか華やかな感じになってた。

 

 「その、無駄だって、思いませんでした?」

 

 ……ん?

 

 「いや、別に。

  どうしたの?」


 「だって、おんなじ系統の店、みっつですよ?」

 

 「こないだのは、そういうコンセプトでしょ。」

 

 比較するためって感じでもあったから。

 個性はどれも様々だったけど。定番系からエッジの強いものまで。

 

 「そうなんですけど。

  同じ日に、同じもの食べるの、無駄かなって。」


 妙に歯切れが悪い。

 誰かに、何かを言われたのかなぁ。

 

 「榎本さんは、そんなこと、思ってないんでしょ。」

 

 「……はい。

  でも。」


 「榎本さん、借金はないんだよね。」

 

 「え?

  ありませんけど。」


 「じゃ、なにも問題ないじゃない。

  その人の生み出した付加価値をどう処分するかは、その人の自由だよ。」

 

 会社に付けてればともかく、二店目からは自腹だし。

 

 「……。」

 

 何か、真剣に考え込むような瞳になってる。

 いままでの会話のどこにそんな要素が……


 ってっ!!

 

 「!?」

 

 ……ふぅ。

 危な、かった。


 中心街のど真ん中でも自転車来るんだよな、地方都市。

 東京だとほとんどないんだけど、大阪ですら見たからな。

 歩行者にとって一番危険なのは車じゃなくて、

 高速で突っ走ってくる自転車なんじゃないか。

 

 「だいじょうぶ? 榎本さん。」

 

 緊急対応とはいえ、腕、強めに引いちゃった。

 触っちゃってほんと申し訳ないな。

 

 「は、はい……。」


 なんか、顔色が妙だな。

 呼吸が、ちょっと荒い気がする。

 

 「疲れてるかもね。

  やっぱりタクシーにする?」

 

 ホテルに帰る、っていう選択肢はなさそうだから。

 

 「そ、そ、そうですねっ。

  わ、わたし、捕まえてきますっ!」

 

 ……そこにあるのに、タクシー乗り場。


 ん……?

 

 シティビジョンの、あれ……

 

 『東京:芸能事務所入居ビルで爆破騒ぎ』

 

 は?

 なんだありゃ

 

 ぶーっ

 

 あぁ

 えーっと

 

 <榎です>

 

 は?

 

 <緊急事態ですので、晴香の許可を得てお送りしています>

 

 ??

 

 <一時間ほど前ですが、

  弊社の入居しているビルが何者かに爆破されました。

  居合わせた一ノ瀬が巻き込まれ、

  病院に搬送され、現在、緊急手術中です>

  

 !!??

 

 「タクシー、捕まりまし……


  あの、

  せん、ぱい??」


 <突然かつ筋違いであり、

  誠に不躾とは重々承知致しておりますが>

 

 こ、こんどは、なんだ??

 

 

 <小辻静様

  晴香を、貴方様に預かって頂きたく、

  お願い申し上げる次第です>



 はぁぁぁぁ?!?!

 

 

知らないうちに有名美少女女優を餌付けしてた

第3章


了  

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