第4-2節:恋は世界の運命を変える

 

 そんなコメット様の様子を見てスノーは楽しげに大笑いをする。


「にゃっはっは! そういうわけだから、オイラはキミたちにアドバイスをすることはあっても手を貸すことはない。単なる白猫の『スノー』という存在としてなら別だけど。要するに伝言とか手伝いみたいな、この世界の生物でも可能な雑用くらいなら気分と交渉次第でやってやらないこともないってこと」


「スノー、アドバイスとは違うんですけど、聞きたいことがあります。あなたはなぜ神様が私に滅びの力をお授けになったか分かりますか?」


「さぁっ? 天界の連中の考えていることはサッパリ分からん。単なる気まぐれとかたわむれとかじゃないのか?」


「そ、そんな……」


 手掛かりが全く得られず、私はガックリと肩を落とした。


 運命に選ばれたからとか素質を持って生まれたからとか、理由が少しでも納得のいくものであれば受け入れられる気持ちになったかもしれないのに……。


 もちろん、もしスノーの言ったことが真実だったとしたら、それはそれで愕然がくぜんとするけど。私が死まで覚悟して思い悩んでいる元凶がそんな無茶苦茶な理由だったとしたら、心がモヤモヤする。


「ただ、こっちの世界に対して天界の連中は過度に干渉しすぎだとは思ってる。本来はもっと放っておくべきなんだ。さすがにオイラも堪忍袋かんにんぶくろが切れたから、こうして当てつけにリーシャたちに関わってるようなものさ」


「当てつけか……。貴様は俺以上に意地が悪いな」


 ニタニタと薄笑いを浮かべるコメット様に対し、スノーはベーッと舌を出す。


「なんとでも言え。で、キミたちはこれからどうするつもりだ? 滅びの力の発動は魔王も気付いただろうし、勇者も本能的に違和感を覚えているはず。おそらくその力を利用するなり封じようとするなり、人間にも魔族にも追われ続けるぞ」


「滅びの力を消すことは出来ないのか?」


「無理。むしろ発動した以上、時間の経過とともに少しずつでも覚醒していくよ。それと使えば使うほど完全覚醒の時期が早まる。そして限界に達した時、最低でも大陸のひとつやふたつは消滅するんじゃないか。ま、覚醒の程度によらず、力が暴発してしまうことも充分に考えられるけど」


「どういう意味だ?」


「リーシャ自身は滅びの力を使えないってさっき言ったよね? 唯一、彼女自身が開放のきっかけになる場合がある。それは『命が絶たれた瞬間』だよ」


「何っ!? じゃ、もし俺が1年前の時点でリーシャを殺していたら……」


「力が具現化する前だからね、それでもこの国くらいなら軽く吹っ飛んでただろうよ。コメット、命拾いしたね。まったく、悪運が強いというか、あるいはこれも運命さだめだったというか」


「…………」


 知らされた事実があまりにも深刻すぎて、今回ばかりはスノーの挑発にもコメット様は愕然がくぜんとして口をつぐんだままだった。


 一歩間違えばコメット様も死んでいたのだから、それも無理はない。


 でも不幸中の幸いというか、結果的に現時点まで命を失わなかったことに私はホッとしている。だって犠牲を最も少なくするために私は自分の死を望んだというのに、そのせいで大勢の無関係な人たちを巻き込んでしまったら意味がないから。


 危うく私はあの世で不特定多数の皆様に謝罪しなければならなくなるところだった。地獄で魂が浄化されるまでの果てしなく永い年月、自分の犯した深すぎる罪に後悔し続けるところだった。


 あるいはその自責の念によってなかなか昇天できず、魂が変質して異形の怪物になっていたかもしれない。それを思うとゾッとする。


「そうでしたか……。私を殺さずにしばらく様子見をするという、コメット様の判断は正しかったというわけですね……」


「まっ、そういうことだね。もっとも、それがコメットの真意だったかどうかは怪しいけど」


「真意ではない? それはどういうことですか?」


「だってあの時点でコメットはリーシャに特別な感情を抱いてしまい、殺せなくなっていたんだろ? つまり単にその気持ちを言えず、適当な理由を付けて誤魔化していたに過ぎないんじゃないか。不器用でお熱いことだ」


「っ!? あ……っ……」


 確かにスノーの言うことには筋が通っていると感じ、照れくさくて途端に私の顔が熱くなった。胸の鼓動は高鳴って、血液の流れは濁流だくりゅうのように激しくなっているような気がする。


 いずれにしても、コメット様が私のことを想ってくれたからこそ、私を含めて多くの人々が救われた。彼も自分の命を助けることになった。




 これはある意味、世界の運命を変えた恋――。




 不謹慎かもしれないけど、それって素敵な響きで幸せな気持ちも溢れてくる。



(つづく……)

 

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