第3-1節:衝突する想いと信念
程なくドアはご丁寧にもノックされ、そのあとに声の主が室内に入ってくる。
「えっ? フロイ様っ!?」
そこに立っていたのは昼間に教会を訪ねてきたフロイ様だった。
彼は私と目が合うと、ニッコリと柔らかく微笑んで
でも視線をコメット様に向けた途端、万物を射貫くかのような鋭い目つきになって冷たい空気がその場に漂う。
得も言われぬような憎悪と戦意、威圧感。それは私に向けられているわけではないのに、端で見ているだけで全身に鳥肌が立つ。恐怖で胸が締め付けられる。
同じ人物なのに、相手によってここまで感情が大きく切り替わるなんて……。
一方、コメット様はそれに動じることなくフロイ様の様子を
「魔族の気配を感じて来てみれば、リーシャ殿たちの間にはそういう事情があったとは。いやはや申し訳がない、そのつもりはなかったのですが全て立ち聞きさせてもらいました。割って入るタイミングもなかったので」
「好き者め……。貴様がリーシャの話していた勇者の仲間だな?」
「はい、フロイと申します。ところで、あなた方の話に出てきた『リーシャ殿の持つ力』とは何のことです?」
「…………」
「黙秘ですか……。まっ、それはコメットさんを滅したあとで、ゆっくりとリーシャ殿にお
緊張感がさらに高まり、一触即発の雰囲気。このままではコメット様もフロイ様もきっと無事では済まない。お互いに傷付け合って、相打ちなんて最悪の結末にもなりかねない。
それを避けるための最善の選択は、私がなんとかしてこの場を収めること――。
そう
「フロイ様っ、どうかコメット様を見逃してあげてくださいっ! 私は大人しく王都へ行きます! あなたの知りたがっていることも全てお話しします! だからお願いですっ!」
「リーシャ殿、あなたは根本的に間違っています。魔族はその存在そのものが人間にとっての害悪。どれだけ穏やかな性格で、どれだけ友好的な思想を持っていたとしてもね。完全に根絶やしにしなければならないんですよ」
「そんなの横暴です! コメット様は優しい方ですっ! そして心を尽くせば、ほかにも分り合える魔族の方がきっといらっしゃいます!」
「リーシャ殿はコメットさんに
フロイ様は呆れ返るように言い捨てた。
ダメだ、彼の魔族に対する敵対意識には並々ならぬものがある。ちょっとやそっとの言葉では揺るがない。
ここまで堅固なのは、幼い頃からそう刷り込まれてきたということなのか……。
だからこそ、勇者様の仲間として魔族との激しい戦いをくぐり抜けられてきたとも言えるけど。
もちろん、私の想いは私の人格や信念に基づくものであって、コメット様に
恋愛感情がどうとかというのは完全に的外れということでもないかもしれないけど、物事の本質はしっかり捉えているつもりだ。
このままでは議論は平行線。どうすればいいんだろう……。
そう思い悩んでいると、コメット様が私の肩を掴んで後ろへ下げさせる。
「リーシャ、これ以上の話は時間の無駄だ。こうなったらその男を殺して逃げればいいだけのこと」
「リーシャ殿、これが魔族の本質です。所詮、人間とは相容れない存在。水と油のようなもの。分り合えることなどあり得ません」
「ごちゃごちゃとうるさいヤツだ。八つ裂きにしてやるからさっさとかかってこい!」
業を煮やしたコメット様は腰に差していたショートソードを鞘から抜いて構えた。フロイ様もニタリと怪しく口元を緩め、腰から片手剣を抜いて切っ先をコメット様へ向ける。
こうなってしまっては、もはや私に止められる術はない。張り裂けそうになる想いに耐えつつ、静かに事態を見守る。
「並々ならぬ憎悪と殺気。コメットさんはなかなか高位の魔族のようですね。久しぶりに歯ごたえのありそうな相手で嬉しいです。最近はほかの仲間たちが率先して魔族を
「それが貴様に見合った実力だと思われているのではないか?」
「では、あなたを滅してみんなから再評価してもらうことにしましょう。ま、ボクの力を認めていない仲間はいないと思いますが。――だって強いですからっ♪」
「寝言は寝て言え。そのためにも俺が貴様を永遠の眠りにつかせてやろう」
「ふふっ、なかなか面白いことをおっしゃいますね。ですがあなたに私が殺せますか? あまりボクの実力を侮らない方が良いと思いますよ」
「うるさいと言っているッ!」
先に仕掛けたのはコメット様だった。
踏み出した1歩目から目にも止まらぬスピードで、そのまま重い一撃を繰り出す。
それはフロイ様に軽々と受け止められたけど、コメット様は間髪を容れずに流れるような動きで次の一撃。金属同士のぶつかる音が甲高く響き、この狭い部屋の中で達人級の剣技が
(つづく……)
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