第2-2節:王都からの使者

 

 年齢はコメット様と同じくらい。サラサラの茶髪と爽やかな雰囲気で清潔感もある。体格は小柄で、私よりも少し大きいという程度。目鼻立ちは整っていて瞳には強い輝きがあり、しっかりとした性格の好青年といった印象だ。


 また、高級感の漂う旅人風の服装とその上に身に付けた金属製の胸当て、腰には片手剣が下げられている。


「失礼します」


 彼は私の目の前で立ち止まり、こちらに向かって正義正しく頭を下げた。髪は軽く揺れ、香水の良い匂いがほのかに漂う。


 それに対して私も慌てて会釈えしゃくを返し、声をかける。


「あの、どちら様でしょうか? 当教会に何かご用事でも?」


「私は魔法剣士のフロイ。勇者ウルト様とともに魔族征伐の旅をしておりまして、現在は王都ユドラを拠点に活動しています」


「王都からであれば、この村まで1週間はかかったことでしょう。お疲れ様でございました。私はこの教会を預かっている、巫女のリーシャです」


「こちらの教会はその王都に総本部のあるシャイン教団に所属しているそうですね。神官長のルシア殿から色々と話を伺っています」


「そうでしたか! ルシア様はお元気でいらっしゃいますか?」


 久しぶりに聞いた懐かしい名前に、私は思わず気分が高揚した。


 ルシア様は私がまだ幼い子どもで巫女見習いだった時期に、総本山で色々と面倒を見てくれた御方。最後に彼女とお会いしたのは、私が王都を離れてこの村に来た12歳の時だからもう3年も前になる。


 約1年前に洗礼の儀式を受けるために私が王都を訪れた時は、たまたま祭祀で隣国へ出かけていてお会いできなかったから。


 当時でさえ60歳を超えていたのに、今もますます若々しく活躍なさっていると、この村を訪れた神官や巫女などから聞いている。


「はい! ボクはそのルシア殿の依頼でこちらへ参りました。最近、各地で魔族や魔物との戦いが一段と激しくなり、王都の神殿では回復魔法の使える巫女を招集しているそうなのですが――」


「その話なら私もあちこちから聞き及んでいます」


「そのため、リーシャ殿のお力もお借りしたいとのことです。ルシア殿からの手紙も預かってきております。それで私は王都までリーシャ様の護衛を依頼されたのです。ほかにも一般兵が何人か、ボクと一緒に村へやってきています」


「なるほど。それではお手紙を拝見します」


 私はフロイ様から手紙を受け取り、その場で開封して中を確認した。


 すると内容は彼が話してくれたこととほぼ同じで、筆跡は確かにルシア様のもの。魔法文字による署名もこの手紙を書いたのが彼女であることを証明している。


 つまり差出人はルシア様であり、状況から考えてもフロイ様は信用できるということになる。


 ――ただ、いくら彼女の頼みとはいえ、王都へ行くのには抵抗がある。だってコメット様と離ればなれになってしまうことになりそうだから。


 もちろん、彼と一緒に王都へ行って暮らせるなら何も問題がない。そして恩義のあるルシア様には最大限の協力をしたい。でも状況を色々と考えると、それは実現できなさそうだから悩ましいのだ。




 とりあえず、今は時間稼ぎをしてコメット様に相談しよう――。


 私は動揺を必死に隠しながらフロイ様に返事をする。


「分かりました。準備をしなければなりませんので、申し訳がありませんが何日かお待ちいただけますか?」


「はい、もちろんです。旅をするための荷造りだけでなく、お世話になった方々へのご挨拶やお仕事の関係など色々とおありでしょうから。ボクや兵士たちは村の宿に滞在しておりますので、準備が終わりましたらお声がけください。せっかくですから、休暇だと思ってのんびりと過ごさせてもらいますよ」


 フロイ様は明るく笑うと、私に会釈えしゃくをして講堂から出ていった。


 私はその背中を硬い笑顔で見送り、さらに窓からこっそり外を覗いて彼の姿が完全に見えなくなるまで様子を窺う。その後はすぐに勝手口から裏庭に飛び出し、ハシゴを使って物置の屋根へと駆け上る。



(つづく……)

 

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