第5話 人脈はどうやらとってもすごいらしい
彰、マリア、エリクトとその護衛はファウストの街に入る門の行列に並んでいた。
「それにしてもすごい行列ですね街に入る時はいつもこんなに並ぶものなんですか?」
彰たちが街の関所に並ぶ行列に合流してから、すでに小一時間過ぎている。エリクトに売った食料召喚陣の使い方や、主にお金の相場について聞いて時間を潰していたがあまり進んでいるように感じられない。
「いえ彰様。この行列はファウストの街ぐらいのものですよ。ここファウストの街はオリアン王国の領地に存在する街で一番大きい街ですから。それにこの行列は初めて街に来る者たちの通過儀礼みたいなモノですよ」
ほえ〜。オリアン王国っていう国があるのか。それもそうかお金の名前になってるし。
「そういえばお二人は何の目的でファウストの街に?」
「目的? ……あれ? マリア。なんでファウストの街に行くんだ?」
「そうですね。強いていえば冒険者ギルドに冒険者のライセンスを取得するためでしょうか」
「冒険者! お二人は冒険者になるのですか。ゴブリンや双頭ライオンを簡単に倒してしまうお二人なら天職かもしれませんね! それに私にも好都合……」
「エリクトさん? 何か言いました?」
「いいえ?」
彰がエリクトに問いかけると変わらない笑顔で返してきた。彰が一瞬感じた背筋が凍りつくような悪寒は何打たのだろうか。
カンカンカンカン!
門の入り口の方から鉄板を叩く音が聞こえた。
ん? なんだ?
「商人用の関所が開設されましたね。いきましょうか」
「商人用の関所なんてあるんですか?」
「このファウストの街は行列が一定以上に伸びると、商人を優先して街に入れるために専用の関所が開設されるんですよ。この仕組みのおかげで商人の出入りがスムーズになって私たちも嬉しい。街は商人が多く入ってくるから景気が上がって嬉しい。利害が一致してる仕組みですし、他にもファウストの街では商人を優遇する政策が多くありましてね。これのおかげでファウストの街は大きくなったとも過言ではないですよ」
行列を抜けて商人用の関所に向かう。他の商人や馬車を持つ商隊が行列を抜けてゾロゾロと関所に向かっていく。エリクトが関所にいる衛兵の持に馬車から降りて向かい。何やら手続きを済ませ戻ってきた。
「それではファウストの街に入りましょう」
大きな門を抜け、目の前に広がるファウストの街はとても華やかで活気があるように見えた。
「うわぁ〜。スッゲェ!」
馬車から身を乗り出し街を見渡す。
すげぇ! レンガの家がめちゃくちゃ綺麗に並んでるし、あれは水路か? 全然水が汚れてなからキラキラして綺麗だ。しかもあれはエルフ!? 耳が本当に長い! 美人! ネコミミ!? 獣人か!?
「彰様。あまり身を乗り出すと危ないですよ」
「アリア! 街はすごく綺麗だし。それにエルフがいたぞ!」
子供のようにはしゃぐ彰をなだめるマリア。
「はぁ〜すごいな。まるでおとぎ話だ」
「エルフ族や獣人族は珍しいですか?」
「え? そうですね。私は生きている中で見たことはありませんでした」
「それはよかった。ファウストは多種族を積極的に受け入れる街でもあるので、これからファウストの街で過ごすのでしたら実際に会って喋るぐらいの機会はございましょう」
「そんな機会があったら嬉しいですね」
「おや? もう冒険者ギルドにつきましたか。残念ですもっとお話ししたかったのですが……」
「エリクト様はこの街に拠点を置く商人なのですよね? 私たちもしばらくはこの街を拠点にしていくのでご縁があればまたお会いしましょう」
「そうなのですか! ではそのご縁を確かなものにしなければなりませんね。これをどうぞ」
「これは?」
金貨? それにしては大きい気がするけど。
エリクトから渡されたそれは手のひらに乗るぐらいの大きさをした金色のメダルだった。表には麦と財宝袋のエンブレムが描かれており裏には何やら文字が書かれていた。
「リッチブレッド商会?」
おお、マリアは読めるんだ。
マリアが文字を読み上げるとエリクトはバッとわざとらしく立ち上がり、紳士的なお辞儀をしてきた。
「エリクトさん?」
「お二人は私たちの命を救ってくれただけではなく。魅力的すぎる商談をさせていただきました。私たち商人は何よりもご縁を大切にします。そしてお二人の縁は切れない確かな縁を結びたく、そのメダルを勝手ながらお贈りさせていただきます。そのメダルは、この私リッチブレッド商会、総会長エリクト=リッチブレッドを筆頭に商会がお二人の身分の証明と保証。金銭的物資的な支援を全面的にさせていただく証明になります」
次は片膝をつき彰の手を取る。
「ぜひ受けとってもらえますか」
えぇ! なになになに! 身分の保証? 支援? よく分からん! そうだマリアは?
隣で行儀よく座って静かに目を瞑っている。どうやら明に判断をまかせるらしい。
「ありがとうございます。大切にします」
「おぉ! ありがとうございます! 私の店に来る時はこのメダルを持っていらしてくだい! いつでも歓迎しますよ!」
エリクトの勢いに押されてメダル受け取ると、彼は心底嬉しそうにしていた。冒険者ギルドの正面に下ろしてもらってからは、嵐のようにエリクトは街の中に消えていった。
「このメダルどうしよう」
「メニューのアイテムストレージにしまいましょう。貴重品のようですし、一番安全な場所がいいでしょう」
「アイテムストレージってガチャアイテム以外もしまえるの?」
「可能ですよ。手に持ったままメニューを開くと収納ができます」
あ、本当だ。しまえた。
ストレージにメダルをしまい、冒険者ギルドに歩き出す。エリクトの厚意で冒険者ギルドの正面まで送ってもらえたが冒険者ギルドの大きさは彰の想像以上だった。
「まさかこんなおっきいとはな〜。大きめの館ぐらいに思ってたんだけど、これじゃ城って言われても信じちゃそうだよ」
「私も王城以外でこれほど大きな建物は初めて見ました」
二人で見上げるその建物は一つの白い城だった。窓の数を見ると大体5階建てのようで周りの建物と比べて2倍以上の高さがある。四つの角にそれぞれ建つ塔が特徴的で、正面から全貌を推測できないほど大きい。
「どうやら、冒険者の仕事仲介業者としての施設だけじゃなく。訓練場や男女別の銭湯、宿や魔物の売却所など冒険者のための巨大施設のようですね」
冒険者ギルドの入り口にある看板をマリアに呼んでもらって、納得した。訓練場や銭湯は広い敷地が必要だろうし、彰の勝手なイメージだが冒険者と言ったら家ではなく宿で寝食をしている人が多いのだろう。つまりこの冒険者ギルドは巨大なホテルの役目もあるらしい。
「とりあえず入ってみるか」
「そうですね」
二人が冒険者ギルドの門をあけ中に入ると、中は街以上の活気と熱気に溢れていた。
酒場で騒ぐ人、巨大な剣を磨く人、ギルド受付でいちゃもんをつける人、意気揚々と外に出かける人、落ち込んでいる人。これが冒険者の日常なのかと思うと引くというよりは好奇心が湧いてきた。
「あちらが冒険者ライセンスの発行受付らしいですね。行ってみましょうか」
マリアは熱気に当てられて動けない彰の手を引っ張って受付まで連れて行く。
「ようこそ冒険者ギルドへ、冒険者ライセンス新規取得の方ですね。身分を証明できるものはありますでしょうか? なくても問題ないのですがいくつかの手続きが免除になりますよ」
受付の女性が丁寧に説明してくれた。
「身分証明? ……彰様!」
「はっ! な、なんだ?」
「身分を証明できるものを提示するように受付に言われたのですが、あれが使えるのではと思いまして」
「そういえば身分を証明してくるものって言ってたもんね。……これでいい?」
そう言って取り出したのはついさっきエリクトからもらった金のメダル。それをみた受付の女性はみるみる様子が変になっていった。
「麦に財宝袋の紋章……リッチブレッド商会ってあの!? あの紹介はメダルを滅多に渡さないことで有名なのに……はっ! まさかリッチブレット商会のお抱えの方だとは思いませんでした! すぐにギルドマスタ―に取り次ぐので少々お待ちください!」
ギルドの受付が慌ただしくなった。エリクトからもらったあのメダルは彰やマリアが思うよりずっと大きな価値があるらしいのを実感したのだった。
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