第4話 アイテムの便利さと価値

 「い、いつになれば街が見えるんだ……」

 「そうですね。あと一日歩けばつけると思いますよ」

 「一日っ!? ……ブッ続けで?」

 「? はい」


 当然のように言い放つマリア。あまりにもかけなはれた価値観にその場で崩れる彰。それもそうだろう彰がチュートリアルを終え、マリアからの膝枕を受けた後、街に向けて出発してから既に数時間立っているのだから。


 マリアは汗ひとつかいてねぇ。それに革鎧って意外と重い! 

 「マリアぁ。そろそろここで一泊しないか? また明日にしようぜ」

 「そうですか? ……それもそうですね日も落ちて来ましたし、訓練を受けてない彰様は鎧を着ての移動は少し辛いものがあるでしょう」

 絶対今まで気づかなかっただろ。マリアって意外と脳筋? 

 「それで彰様。ここで泊まるのでしたら野宿ですか? 私はそれでも構いませんが」

 「それが、メニューのアイテムを見てたら一つ便利そうなの見つけてな」


 メニューを開き、あるアイテムを取り出す。出てきたアイテムの見た目は、かなり大きいピクニックシートのようなものだった。


 「そ、それはまさか!」

 「あれ、マリアこのアイテムのこと知ってるんだ」

 「はい! それはログハウスキット! シートを広げることで家具を全て備えたログハウスがその場に建つアイテム。王族でもなかなかお目にかかれない品ですよ! 彰様お使いになられるんですか」

 「そうだよ。流石に野宿は勘弁だから」

 マリアもかまわないと言ってたけど、野宿は嫌だよな。喜んでもらえたらしい。


 シートを広げると広げたシートが折り紙を売るようにパタパタと形を変えていく。あっという間に立派なログハウスになった。平原のど真ん中にログハウスは少々異様な光景だった。


 「え、これで完成?」

 「はい! 立派なログハウスですね」

 

 キラキラした表情を向けるマリアの反応を見ると本当にこれだけで完成らしい。折り紙を折るように完成したログハウスに少し頼りさなを感じるが、壁を触ってみると本当に木で出来ている感触がする。多少力を入れて叩いてもびくともしない。


 「へぇ〜。ほんとにシートを広げるだけでログハウスが立っちゃたよ」


 メニューを開きアイテムの説明を見る。

 

 【SR ログハウスキット ――シートを広げるだけでその場に数人泊まれるログハウスを出現させる。旅好きの大貴族が喉から手が出るほど欲しい貴重品―― *野外でのみ使用可能】


 実際半信半疑だったけど本当に書かれてる通りの性能だったな。これなら他のアイテムも期待してもいいかもな。

 「彰様っ! 早く中に入ってみてください! ほんとに凄いですよ!」

 

 マリアは既にログハウスの中に入っていらしい。新しいおもちゃを買ってもらった子供のような興奮の仕方をしている。そんなマリアに催促されログハウスに入る彰。


 うわっスッゲェ!


 ログハウスの中は外からは全く感じられなかったが部屋の中はとても明るい。それとリビングは天井まで吹き抜けになっていて実際の部屋の広さ以上の開放感がある。どこかの富豪の別荘とも言っても納得するような出来の良さだ。


 「彰様〜!」

 

 2階から手を振ってくるマリア。それに軽く手を振り返し、彰はマリアとは別にログハウスの散策を始める。


 ソファやわから! キッチン広っ! ベットでかっ!

 

 しばらく散策した後……。


 「スッゲェなこのログハウスキットっていうアイテム。確かに喉から手が出るほど欲しくなるのもわかる」

 「そうですねぇ。お恥ずかしながら私も興奮してしまいました」

 

 二人はそれぞれソファと椅子に座って余韻に浸っていた。彰はソファに溶けるように座り、マリアは椅子に行儀よく座っている。しかし我に帰って興奮していたことを思い出しているのか、少々赤くなった頬を手で隠している。それにいつの間にかドレスの鎧部分が消えていて、動きやすそうなパーティドレスのようになっている。


 ぐゅるるるる〜


 「あーお腹すいたな。こっちに来てから何も食べてないからな」

 ガチャ産のアイテムになんかいいのないか? ……お?

 「彰様?」

 「マリア。好き嫌いってある?」

 「いえ、特にはないですが」

 「そりゃよかった」


 そう言って取り出したのはテーブルに出したのは小さな魔法陣が書かれた紙。


 「これは?」

 「これは食料召喚陣だって、何なに?」

 【R食料召喚陣 ――使用者が言葉にした食材から料理まで食べ物なら何でも召喚できる召喚陣。研究に没頭したい学者や魔法師御用達―― *使い切り】

 グル○テー○ルかけじゃねぇか! しかもちょっとマイナーな部分を……。というか、アイテムの機能を説明した後の蛇足の説明は全部にあるのか?

 「どうかしました?」

 「大丈夫……。魔法陣の前で食べたいものをいえばそれが召喚かれるんだって、マリアが食べたいものを言ってみて」

 「よろしいのですか?」

 「うん」

 「それでは、岩石ニワトリの丸焼き!」

 ……なんて?


 ボフン!


 マリアが料理の名前を口にすると魔法陣の描かれた紙が小さく爆発した。爆発と一緒に発生した煙が晴れるとテーブルには見事な鳥の丸焼きが鉄板に置かれる状態で出現した。


 「わぁ美味しそうです!」

 「確かに美味しそうだな」

 岩石ニワトリとか聞こえた時はどんな鳥が来るのかと思ったが見た目はふつうの鶏の丸焼きだな。それにしてもこの匂いはたまらないな。この匂いは香草? 鶏の匂いもそうだがそれだけじゃない複雑だけど食欲そそる香りだぁ。

 「それじゃあ切り分けるか。キッチンにナイフとかあるかな?」

 「美味しいです!」

 「え?」


 彰が切り分け用のナイフをキッチンに撮りに行こうとすると、既にマリアが鶏の足をむしって豪快に齧り付いていた。豪快だがどこが上品に肉にかぶりつくマリアはとして幸せそうに頬を肉を持たない手で抑えていた。


 「ま、マリア。肉は切り分けなくていいの?」

 「? ゴクン! 岩石ニワトリはこのように食べるものですよ?」

 「あ、そうなんだ……」


 興奮した姿を見せて頬を赤らめていた金髪美少女が肉を頬張る姿を目の前で目撃した彰は呆然とするしかなかった。

 二人とも美味しく丸焼きを堪能した後、マリアが淹れてくれた紅茶を飲んでいると、窓から見える景色の向こうに燃える火が見えた。


 ん? 火?

 「マリア、あれなんだろ」


 キッチンにいたマリアに問いかける。彰の元に来たマリアに指を刺して火が上がっている場所を教える。


 「あれは! 人が魔物に襲われてます! どうやら商人とその護衛のようです!」

 え!? 見えんの!? いやそれよりも

 「じゃあ助けないと!」

 「はいっ!」


 マリアが返事をするとどこからともなく光の粒子がマリアに集まってくる。それがマリアに固まると形になっていき、だんだんとドレスに鎧が装着されていく。


 「マリア! 行こう!」


 ログハウスから飛び出し、火の上がる方へ走る。商人らしき男と数人の体格のいい男がいた。戦っている相手は5体の緑色の肌をもつ小人と、2頭の双頭ライオンだった。


 あれはゴブリン!? しかも双頭ライオンもいる。

 「マリア! マリアはどれぐらい相手にできる」

 「双頭ライオンはお任せください! 倒し次第加勢します!」

 「わかった!」

 

 マリアが急加速し現場に向かってからはあっという間にその場が解決した。

 アリアが双頭ライオンを一振りで2頭とも切り捨てた後、彰が合流し剣をゴブリンい向かって思いっきり振り下ろすと一撃で倒せた。


 えっ!? ゴブリンよっわ! 


 そんなことを思いながら戦っていると2体目を彰が倒す頃にはマリアが加勢し一瞬で残りのゴブリンを倒した。

  

 「はぁ、はぁ、はぁ。大丈夫ですか!」

 「あ、あぁすまない助かった」


 なんとか全員助けられたらしい。それからは助けた商人とその護衛をログハウスに招待し、食料召喚陣で食事を振る舞った。どれにも驚く人たちを見て少し優越感に浸る彰だった。


 それから一晩経って。


 「彰様には感謝しきれないですよ! モンスターから助けてもらっただけではなく、あんな立派な家に招待してもらいましたし。とても美味しい食事を護衛の分まで! そして何よりそれらを出す魔道具は長い商人人生の中でも見たことがありませんよ! このエリクト感激したしました!」

 「いやそれほどでも」


 緑髪のイケメンのエリクトが興奮した様子でずいっと彰に詰め寄る。

 なぜこうなったかと言うとエリクトの商隊が街に送ってくれるというので馬車に乗せてもらった彰とマリア。出発してからエリクトはずっとこの様子だ。


 まぁ不思議なもんだよな。ログハウスをどう片付ければいいのか分かんなかったけど、まさかシートを巻くだけで片付けられるなんてな。巻かれるシートに巻き込まれていくログハウスはとても不思議な光景だった。メニューの収納に入れるのは流石にまずいと思って手元に置いてあるが。

 「それにしてもあの食料召喚陣という魔道具は私たちに使ってもよろしかったのですか? どうやら一度使うと消えてしまうようですが、とても貴重なものでは?」

 「いえいえ、それほど貴重なものでもないんですよ?」

どうやらガチャのハズレ枠らしいんだよねこのアイテム。100個以上ストックされてたし。

 「そうなのですか!? あのログハウスとは言いません!、食料召喚陣をいくつか譲ってはいただけないでしょうか! もちろん彰様の言い値で買い取らせていただきます!」

 「え、えぇ?」


 突然の商談に戸惑っているとマリアが助け舟を出してくれた。


 「いくつか買い取ってもらいましょう彰様」

 「マリア?」

 「街につけば、お金は多少必要になります。それに通行税を街に入るときに払わなければなりませんし」

 「お金か」

 まぁそれもそうか、この世界の通貨もその価値もわからないしな、それに100個以上あるアイテムを数個売ったところで痛くないだろ。

 「わかりました。エリクトさん。とりあえず召喚陣10個買取をお願いします」

 「おおっ! 10個も! それで値段の方はどうしましょうか?」

 「エリクトさんが決めてください。お金の価値には少し疎いもので」

 「そうですか……それでは……。オリアン白金貨10枚でどうでしょうか!」

 白金貨?

 「はいそれでお願いします」

 あ、やべどうやってメニューから取り出そう……そうだ

 「エリクトさん。おっきいカバンなんて取り扱ってないですかね?」

 「ございますよ?」

 「それを買取額から差し引いってもらって、買いたいんですけどいいですか」

 「それぐらい差し上げますよ! 召喚陣を買い取らせてもらえるだけで私としては大黒字なんですから!」

 「ありがとうございます」


 それから鞄をもらった彰は隠れて鞄をゴソゴソするふりをしてから中から召喚陣を取り出し、10枚の白金貨と引き換えにエリクトに召喚陣を渡した。エリクトはうっとりした顔で召喚陣を見つめる。


 それにしてもこの白金貨ってどれぐらいの価値があるんだろ? せめて日本円に例えてくればわかるんだけど

 「なぁマリア。白金貨ってどれぐらいの価値がるんだ? 日本円で例えられる?」

 「そうですね。白金貨1枚で100万円ぐらいでしょうか」

 「ひゃ、100万っ!?」

 ということは一千万!? ガチャのハズレ枠が一千万に!? というかこんな大金をポンって出せるエリクトさんって何者!? それにマリアはなんで冷静なの!?


 突然の大金が舞い込んできたことや、周りの状況への疑問に混乱していると、馬車の周りにいた護衛の一人が声を上げた。


 「ファウストの街が見えて来たぞ!」

 「彰様! 街が見えてきましたよ!」

 「あーうん。そうだね」


 とりあえず彰は思考を放棄した。

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