第3話 チュートリアル
「私はマリア・フォン・オルドリッチ。マスターのサポートするため『サイバー&ファンタジア』から参りました。これから末長くよろしくお願いしますね」
微笑む彼女は自身のことをマリアと名乗った。薔薇の花弁が舞う幻想的な背景に現実離れした美貌の少女に手を差し伸ばされる状況に唖然とした。
「マスター? どこか痛むところでも」
「えっ? あ、いや大丈夫です。」
俺はマリアの手を取り、立ち上がる。グンと彰のことを引っ張り上げるマリアの力は意外と強かった。それもそうだろうあの巨人の化け物を細身の剣の一振りで両断してしまったのだから。
「それであなたは誰なんですか。サイジアから来たって一体」
多少冷静になるまで時間を要したが、一番に聞きたい事をとりあえず聞くことにした。マリアは『サイバー&ファンタジア』から来たといった。それにマリアと言う名前とあの見た目は彰がこの世界に来る前にプレイしようとしていた『サイジア』のガチャ画面にいた少女と瓜二つだ。まさか本当にサイジアのキャラなのか?
「マスターの思っている通りですよ。私はサイバー&ファンタジアからマスター彰様の戦闘からこの世界での生活をサポートするために呼ばれた存在です。マスターがこの世界にくる前にガチャを回しましたよね。その中のキャラの一人が私です」
「本当にマリアなんだ」
まさか異世界に来て一番最初に会う人がゲームのキャラだとは思わなかったな。右も左もわからない状況で、というか異世界でゲームのキャラにリアルに会うなんて不思議でもないか?
「何はともあれさっきは助けてありがとうございましたマリアさん」
そういって俺は頭を下げる。その様子にアワアワと慌て出すマリアさん。
「頭を上げてくださいマスター!。マスターの身を守る一人の騎士として当たり前のことをしたまでです。それに敬語もおやめください! 敬称も不要です。マスターは私の主人なのですから」
「そ、そうなんですか?」
そういえば、俺のサポートをするために来たっていってたような。てっきり雇用関係的なものだと思ってたら主従関係だったとは……。だからと言って主従なんて一般人からしたらよくわからないし、でもマリアさんからしたら当たり前のことなのかも? だったら。
「わかった。これでいいマリア」
「はい!」
「じゃあマリアも砕けた喋り方でいいよ、マスターって呼び名もむず痒い」
「そ、そうですか……それでは彰様と今後お呼びします。でも敬語はそのままでお願いします! 」
「様呼びか。あんまり変わってない気がするけど。というか俺の名前知ってるんだ」
自己紹介なんてした覚えがないが。
「それは私がこの世界に来る時に彰様のことを初め、この世界の知識をある程度をいただけるのです」
「そうかのか!? じゃこの世界は一体何なんだ? 人はいるのか?」
「まず最初にこの世界はサイジアの世界ではありません。この世界は私にとっても異世界になりますね」
そうなの!?
「この世界の名前はゼント・アヴァヘイム。サイジアの世界に似ていますがマスターの使った異世界転移券でのみくることの出来る異世界です。ですがご安心ください。この世界には様々な人種族が存在し、それぞれの分明を発達しております。ご主人様から見れば中世の世界と行ったところでしょうか。魔法が存在するのである程度は現代的な技術はいくつか存在しているらしいですよ?」
本当に世界について知っているらしい。マリアにとってもこのゼント・アヴァヘイムという世界は異世界なのか。彰はこの世界に来る前に神様らしき人物に会うどころかなんの説明もなしにほっぽり出されたと言うのに。少し不公平と思う彰。
「人の国はあるのか、とりあえずはその国に向かうのが目標かな。それまではマリアにモンスターは任せるしかないけど大丈夫かな?」
「あ、言い忘れてましたけど私が来たのはチュートリアルを彰様に受けてもらうためなのです」
「え?」
GAAAAAA!!
二つの頭を持つライオンのようなモンスターがマリアに飛びかかってきていた。
「マリア!」
「問題ありませんよ」
マリアは彰がモンスターに気づく前には剣を抜いていた。剣で飛びかかってきたモンスターを受け止め遠くに吹き飛ばした。俺より小さい華奢な女の子が涼しい顔でモンスターを吹き飛ばす様子はマリアの力が強いのではなくモンスターが軽いのではない感と勘違いしそうだ。
「それでは彰様。ちょうどいいモンスターも来ましたのでチュートリアルを始めましょうか」
「えぇ……」
ちょうどいいモンスター? まさかあいつと戦うのか? いやいやいや無理だろ!? チュートリアルがあるのは100歩譲っていいとして、あのライオンみたいなモンスターは最初に戦う相手じゃないだろ!? 明らかにそれなりの経験を積んで戦う相手だよね!?
「無理だって! 絶対にチュートリアルに戦うモンスターじゃないって! ゴブリンとかスライムとかもっと適任なモンスターがいるだろ!?」
「それでは彰様。メニューを開きましょう!」
あれ? 話聞かないなこの子。それにメニュー? 異世界ものでよくあるアイテムとか取り出すやつか。多分インベントリっていえば開くとか言うやつなんだろ。
「メニュー」
彰がメニューと言葉にすると目の前に浮遊するゲームの画面が出現した。
おっ本当に出た。
「無事出せましたね。それではアイテムと書かれている部分に触れてください」
「お、これか。……ん? なんだこれ、サーヴァント?」
「それは私のようなサイジアのキャラクターの編成の項目ですね。今では無理ですレベルを上げることで複数人この世界に召喚することができますよ」
「……マジで?」
と言うことはハーレムが実現できるというコト!? サイジアのキャラクターたちはどれも評判が高い。それがマリアのように俺を慕い付き従ってくれると言うのか!? マリアがいてくれるだけで贅沢だと思ってたのに!
「マスター? 」
「はっ……! いや大丈夫だ。ええとアイテムだったっけ」
我を忘れて妄想に耽っていた彰。慌ててアイテム欄を開く。すると浮遊する画面いっぱいにアイテムのアイコンが映し出された。
「多っ」
それもそうか。1000連ガチャで引いたアイテムが全部表示されてるんだもんな
「たくさんありますね。とりあえず最初の装備は普通の鉄の剣にしましょう」
「鉄の剣?」
なんで? さらっとアイテムの名前を見てみたが、『秘剣フェニックス』とか『対城超電磁砲グングニル』とか明らかに強力そうな武器があるんだが。
「はい。鉄の剣です。それに彰様が見ていた武器はまだ装備できませんよ。レベルを上げて装備条件をクリアしないといけません」
「そうなの!? 」
というかレベルなんてあんの!? いやさっきサーヴァントの説明であったような……。聞いてなかった。ここはサイジアの世界でもないんだろ? 急にゲーム仕様が来たな。あのロマン武器はいつになればお目に描かれんだろうか。
すっかり肩を落とした彰は渋々アイテム欄から鉄の剣を取り出しそのグリップを握る。
あれ? なんか懐かしい感じがする。
彰が感じた。不思議な違和感。彰は初めて握ったはずの剣が今まで日常の一部のように感じた。妙に手に馴染むグリップの感触に頭が混乱する。
「なんだこれ。なんか手に馴染む気がする」
「それはですね。彰様が私たちサーヴァントをこの世界に召喚するときに彰様にサーヴァントの能力の一部が貸与されるのです。私の場合は剣の技術。私の使う流派オルドリッチ剣術を習得できたようですね」
「へぇ〜」
そう言われるとしっくりくるな。と言うことは俺が今感じているこのなつかしい感じはマリアの感じていることのコピー的なものか。
彰の感じる普段から剣を握ってきたような感触を確かめるように剣を素振りする。存在しない記憶を埋め込まれたような、地に足つかない彰の違和感が素振りを繰り返すことで、だんだんと馴染んでくる。
「彰様。そろそろ本番になりますがよろしいですか?」
「うん。大丈夫だと思う」
あ、防具切るの忘れてた。この革の鎧でいいだろ。
インベントリから革の鎧を取り出す。すると自動で部屋着と入れ替わり、立派な革鎧と変わった。
GAAAAAA!!
さっきマリアが遠くに吹き飛ばした双頭ライオンが戻ってきた。次はマリアではなく俺の方に飛びかかってきた。
「次は俺かよ」
腰を落とし、グリップを両手で握って迎え撃つように構える。正面から飛びかかってきた双頭ライオンの爪が襲いかかってくる。それを剣で受け止める。
よし! あれ?
「うわっ!」
「彰様!」
受け止めたはいいものの。力が足りない。そのまま押し倒されてしまう。
「くそっ! 」
「ガアッ!? 」
双頭ライオンの体を思いっきり蹴り飛ばし仰け反らせる。その隙に横から転がるようにして抜け出す。抜け出してすぐに立ち上がり、剣を構える。
あ、危ねぇ。死ぬかと思った……それにさっき気づいたけど体が勝手に動く。マリアの技術が体にインプットされてるからか? 素人の俺が考えて動いたところでたかが知れてるしな。体に従ってみるか。
「よしこい!」
「ガアッ!」
また正面からきた。舐められてるのか?
正面から飛びかかっ来る双頭ライオンをできるだけ引き付ける。先ほどのように腰を落とし剣を相手に向かって横に構える。双頭ライオンの爪が剣に触れる瞬間に彰は身を捻り、双頭ライオンのギリギリ横に逸れる。
「ここだ!」
横にそれることで彰の真横に双頭ライオンの首が来る。それを逃さず首に剣を突き立てる。全体重をかけて深く剣を突き立て。崩れるように倒れる。
GAAAAA!!
急所をつかれ暴れ出す双頭ライオン。それを彰は逃がさないようにグリップを強く握り、体重をかけ押さえ込む。
数十秒の格闘の末。双頭ライオンが少しずつ体力がなくなっていき、最終的には力尽きた。力尽きた双頭ライオンは煙になり霧散した。霧散したその場には牙や爪、毛皮などの素材がゴロゴロと落ちていた。
勝ったのか?
「お見事です彰様!」
「あぁありがとう」
どうやら本当に勝ったらしい。
マリアの手を取ろうとすると、急に疲れが全身を駆け巡る。腰が抜けその場から動けない。
「お疲れのようですね。少し休みましょうか。……どうですか?」
ん? 何だ? 急に正座して膝を……まさか!?
「ひ、膝枕してくれるのか……?」
「お嫌でなければですが」
「是非!」
どうやら彰の反応はマリアには少し意外だったらしい。少し驚いた表情をすると、優しく微笑み彰の頭を自身の太ももに乗せた。
「お休みされたら人間の街に行きましょうか。それまではゆっくりお休みください」
彰は頭を撫でられ、心地よく意識を手放した。
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