王宮と城

王宮と城

「ここが魔王……いや、レナの家?」

魔王と呼んだ後、顰め面をされたので慌てて言い直す。

レナの家は魔王と言うにふさわしい城だった。

ただ、サイズはいささか小さかった。

王宮の何分の一か、実際、これくらいの大きさの城なら王宮にすっぽり収まってしまうだろう。

「レナちゃん、でいいのに。それはそうと、そうだね。ここが私の家だよ。君の働きで私達は人間に対して大きなアドバンテージを得た。君も偶には休むべきだよ」


そう言って魔王は馬車から降りる。ルーアに手を差し出すと、静かにエスコートして家へと入る。

「ルーアちゃんのことを良く思わない魔物達も多い事だろう。あまり家から出るのは勧めない。何かあったら私か使用人を呼んで」

ルーアが頷くと、満足そうにレナが部屋から出る。

部屋を見渡すと、柔らかそうなソファ、豪華なシャンデリア、そして端には使用人らしい人がいる。

人側にいた時はこんな待遇など受けなかった。まぁ、兵士として捉えれば格別の待遇ではあったのだが。


近くのソファに身を沈めると、段々と眠くなっていく。

どうやら、気付かないうちにかなり神経を張っていたようだ。

瞼が落ちていく。





ネヴェルは王宮の地下、王家居住地からしか行けない場所へ向かっている。一人で。

「この地下には、王家にまつわる伝説の品々が眠っているという噂があったが……所詮、噂か?」

どこまで進んでも金銀財宝の類の輝きは見えず、むしろ地下に進んでいくにつれて血なまぐさい匂いが濃くなっている。

ネヴェルは腰に差している剣を握る。


そうして警戒しながら降りた先、小さな空間があった。

そして、その中央には、大きな何か、化け物のような何かが鎮座していた。

ネヴェルの剣を握る手にも力が入る。その存在がほんの少しでも動けば、剣を抜けるように。


しかしその心配は不要だった。近付くにつれて、その大きな何かが、鉄の塊だということに気付く。

そして、その後ろに机と、風化した本、箱が置いてあることにも。


ネヴェルは本に手を伸ばす。

風化して殆どが読めなくなっていた本だったが、微かに読める部分を抜き出すと、大体の内容がわかる。

「鎧……殿下……なるほど、これは初代国王の……

ああ、ならここは鎧の仕組みか……殆ど分からないが

……ん?認証?義眼……初代国王の?」

その文を読み、ネヴェルは隣の箱に視線を移す。

「まさか……」

ネヴェルはそっと箱を開ける。そこには、目玉が一つ転がっていた。

手に取る。独特の感触が残る。

本に視線を移す。義眼の説明がされていた。

「……視神経の接続?初代国王は隻眼だったと。

……ああ、確かに、セキュリティとしては義眼は万全だな」

本を置き、鎧の中へ乗り込む。

人一人どころか、四、五人が入るほどの鉄の塊は、中に入っても微動だにしなかった。


ネヴェルはそっと鎧から出る。

そして、本をもう一度軽く読み、義眼を手に取る。


結局の所、ネヴェルの願いは満たされないのだ。

他人の上に立ちたい。誰よりも高い場所に居続けたい。

唯一無二の存在でありたい。そんなこと、叶うわけもないのだ。例え国を牛耳ったとしても。

彼は常に飢えているのだ。権力欲、支配欲、サディズム、破壊衝動、満たされることの無い程の欲求を、彼は生まれた時から持ち合わせていた。


彼は少し逡巡してから、義眼を置き、代わりに腰に提げていた鞄からナイフを取り出した。


義眼を嵌めるためには、眼球が無い状態でなければならない。

少し悩んだが、答えは決まっていた。

彼は自分の身体で出来ることを知っていた。

自分は決して化け物のような存在でなく、ただの人の延長線上にしか存在できないと。


この鎧は、その線から外れられる可能性を秘めている。

僅かであっても、可能性があるなら、彼が止まる理由は無い。

眼球をくり抜き、痛みに呻きながら、義眼を嵌め込む。


義眼は最初からあったかのように馴染んだ。視界も制限されずに残った。

しかし確かに、彼の片手には少し前まで嵌っていた眼球が乗っていた。

彼は鎧に乗り込む。

鎧は、轟音を立て、所々から蒸気を噴き出しながら、ゆっくりと動き出した。


鎧に乗ったまま、彼は王宮の中心部、玉座の間へと入る。

今は空白となった玉座を、彼は鎧で踏み潰す。

そして鎧から顔を出す。

彼は鎧の金属反射によって、初めて義眼の自分を見る。

片目は黒く、片目は金色の目だった。

金色の目は、王族の証とも言われている。


玉座を踏み潰し、新たな玉座となった鎧。

彼はその上でほくそ笑む。

しかし、まだ足りない。世界の全てを得るには、まだ。

鎧を得て、力を得て、権力を、王の座を得ても、まだ足りない。


大陸のもう半分を奪い尽くさなければ。

彼は欲望に呑まれていった。




ルーアはベッドの上で目を覚ます。誰かがソファから運んでくれたようだ。

彼女は改めて部屋を見渡す。何度見ても豪華な部屋だ。

窓の外は暗くなりつつある。


ふと、机の上に何かあることに気付く。

「……剣?」

ベッドから身体を起こし、剣に近付く。

横にはレナの文字で書かれた手紙があった。


「これを贈るつもりだったが、寝ているようなので手紙で失礼させてもらうよ。

これはある種族に伝わる、伝説の剣。

私の曾祖母が所蔵していたものだ。

それは単純なもので、壊れず、欠けず、錆びず、そういった剣だ。

君の武功と、これからの活躍に賭けて、これを贈る。

魔王 レナより」


剣を手に取る。重さはさほど感じない。

鞘は普通のものだろうが、柄は黒と金色で作り込まれている。

少し抜いて、剣身を見る。

綺麗な白銀色だった。


「気に入った?」

白銀の髪をしたレナが部屋に入ってくる。

「……ノックくらいはしたら?」

彼女はその言葉に肩を竦めると、傍に寄ってきて、隣から剣を見る。

「私の剣はそれとは逆の配色をしているんだ。柄が白と金で、剣身は黒。今は部屋に置いてあるけどね」


「どうして、私との時はそれを使わなかったの?」

ルーアは訝しむ。

「あの時はどっちかと言うと見回りみたいなものだったからね。これからそれを使うのは――


人間を、滅ぼすためだよ」


大戦を起こす。

そう言った時の彼女の目は魔王のそれになっていた。





あとがき

やってるゲームの分量が明らかに異次元の多さらしくて嬉しいです

全部を糧にして作品に活かしていきたいなぁ

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