同族を殺すということ

同族を殺すということ


砦が燃えている。

中からは悲鳴とうめき声が聞こえる。

力づくで開けられた門からは絶えず武器を持った小柄な魔物達が侵入している。

砦の周りは包囲され、逃げようともがく人間達を容赦なく捕まえていく。

その禍根の中心にいるのは、一人の金髪の女性である。


砦に残っている側の人間からしたら地獄ともいえるこの光景を、彼女がたった一人で作り上げたのだ。


彼女の前に、年若い青年の兵士がいる。

恐らく新兵だろう。もはや戦意もなく、剣を捨て、這いずりながら、目の前の脅威から逃げようとしている。

金髪の彼女……ルーアは少し前に一瞬、思いを馳せる。

自分と魔王と呼ばれる彼女との出会いに。

あの時の自分も、こうやって地を這っていた。

以前の自分が死ぬ時も、奴隷商から逃げようとする時も、常に自分は地を這っていた。


彼女は気付く、


彼女は逃げようともがく新兵の背に拾った剣を突き刺す。

彼は必死にもがき、逃げようとするが、程なくして息絶えた。


彼女は周りを見渡す。燃える砦を。

彼女の頬が赤いのは、炎の熱のせいだけではない。


魔王は、少し離れた所から、人類側の砦の行く末を見ていた。

そしてその中にいる、ルーアを。


彼女は恐れ戦いていた。ルーアに。

しかしそれと同じくらい、喜びもあった。

自分と同じ土俵に立とうとしているルーアが、魔物達と共に砦を落としていることに。

魔王は、ルーアを深く信頼している自分に気付き、苦笑した。




彼、副将軍ガリアは、王宮に帰らずに戦場に残った。

元々彼はそうであった。常に戦場におり、どんな時でも指揮を取り続けていた。

しかしそんな彼でも、今回の事件はショックだった。

王宮からやってきた人類希望の星、勇者。

そんな彼女が一夜にして消え、裏切ったとまで言われている。


ガリアは信じていないが、それでも兵の士気は低下している。

彼のいる高台から兵士達を覗くと、あまり談笑もせず、黙々と飯を食べている兵士がそこら中にいることに気付く。

まるでお通夜のようだ。彼がそう思って空を見上げようとした時、視界の端に黒い塊が見えた。


彼の持ち前の反射神経と直感が、左手で頭をかばい、その塊の直撃を避けられた。

あれは……石?投石か!

彼はそこまで見抜くと、頭を低くし、まだ動く右手で鐘を鳴らし、剣を取る。

「敵襲だ!構えろ!お前たち!」

野営地が殺気立つ。


彼がそっと石の飛んできた方角を覗くと、そこから人が飛んでくるのが見えた。

飛んでくる、というよりは飛ばされている。の方が正しいか。

その人間は、彼のいる場所の少し下にぶつかり、ただの肉塊となった。

とんでもない力だ。

……彼の頭に不吉な予感が浮かぶ。この芸当が出来る人を、彼は知っている。

野営地の入口、松明で照らされた金髪がなびく。

彼は、野営地の周りが大小様々な魔物で包囲されていることにも気付く。

そうか、もう詰んでいたのか。


自身の死を悟った彼は、野営地の入口へ向かう。

そこには、彼が最も見たくなかった人がいた。

「……勇者、様」


彼女は、そこにいた。数多の同胞の亡骸を踏み付けて。

彼は剣を構える。

「……なぜ、どうして」

問いかける。


彼女は、一言だけ残した。

「あなたは、私の名前を知っているの?」

彼の体は吹き飛び、傍にあった木に叩きつけられる。


あぁ、そういえば、勇者様の本名、知らなかったな。

尋ねようとも思わない。彼にとって彼女は勇者であり、それ以外では無い。

他の兵士にとってもそうだ。

それが、一因だったのかもしれない。

そう思いながら、副将軍ガリアは死んだ。





「次の任務は?」

ルーアは魔王の前に立ってそう言う。彼女はもう薬も飲んでいない。素のままで魔王に会うことを許されている。それは、信頼の裏付けでもある。


「あなたは……」

そこで魔王が言葉を止めた。

どんな無茶な任務を課されるのか。任務は段々と大変になっていっている。次は何か、ルーアは固唾を飲む。

「私の家に来てもらいまーす!いぇーい!」

ルーアの膝ががっくりと落ちる。魔王、レナはその様子を見て笑っていた。





あとがき

最近人生で初めてギャルゲーを買いました

めちゃくちゃ面白くて大抵の時間はそればっかりしてます

書きだめがあって良かったと心の底から思いました。土日も更新します

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