第11話 クラスの中心人物ガチャ
「ねえねえ雪野くん! 昨日の可愛い女子誰!? 彼女!? ねえ彼女でしょうー!」
「てんめぇ、雪野! あんな可愛い女の子と親しげにしやがって! 羨ましいぞこんちきしょー! 彼女幸せにしろよ!」
「あの女の子、ちょくちょく雪野君に会いにきてたよね!? ふふーん。あたし結構前から注目していたんだぞー?」
「雪野、聞いてください。『祝いの詩』 ん、んん! あー。あーー! ……くそ! 歌詞が思いつかねえ!」
「ていうか瑠璃川さんとも親し気にしやがって! 楓ちゃんファンクラブのゴールドナンバー12番の俺ですら会話したことないっていうのに!」
翌朝。
登校直後。
なぜか僕は四方をクラスメイトに囲まれてしまっていた。
ていうか、こんなに面白い人ばかりだったのか僕のクラス。
卒業間近のタイミングで勿体ない発見をした気分である。
「え、えと、彼女では、ない、です、はい」
大勢に囲まれるなんて経験は初めてな上、持ち前の人見知りが発動してロボットみたいな話し方になってしまう。
「「「「「嘘つけーーーーー!!!」」」」
なぜかクラスメイト全員の突っ込みが被っていた。
「ほら、見なさい。貴方達傍から見れば付き合っているようにしか見えないのよ」
隣で楽しそうに様子を眺めていた瑠璃川さんも口を挟んできた。
それにしてもそんな風に見えちゃうのかなぁ僕と雨宮さん。
「うぅ。そ、それはさすがに雨宮さんに迷惑掛かってしまうなぁ。これからは距離感気を付けます、はい」
「なんでそうなるのよ! 雪野くん!」
なぜか詰め寄られる僕。
なだれ込むように他の皆さんも不機嫌そうに寄ってくる。
「そうよ! 逆よ! もっとラブい二人を見たいの! 顧客のニーズを履き違えないで!」
「顧客!?」
「もっと近づいてほしいのよ! 初々しく手が触れあっただけで照れあったり、無自覚のうちにイチャラブしてそれを瑠璃川さんに指摘されて赤面する二人が見たいの! 分かる!?」
「やけに具体的なラブコメ王道展開っすね!? さりげなく瑠璃川さんも巻き込まれてますし!」
「謡います! 【栄養補給】。ん、んん! あー、ああー! 『ラブコメは~正義~眺めているだけで~栄養が生きて腸まで届くのさ~!』」
「なんでクラスに吟遊詩人がいるの!?」
「しかたねえ。雪野、お前を楓ちゃんファンクラブ会員に推薦してやる。ブロンズナンバー112番からのスタートだが、努力次第ではシルバーランクくらいには昇進できるから」
「何百人もいるの!? そのファンクラブ!」
このクラスメイト達とは約2年半一緒にいたがこんなにも愉快なキャラクターに富んだ集まりだったなんて初めて知った。
まぁ、僕が自ら距離を取っていたから気づかなくて当たり前なんだけど。
でもいちいちキャラが濃すぎて胃もたれ起こしそうだった。
「ちょ、ちょっとごめん。席を外すね」
「あー、逃げたー!」
逃げますとも。
嫌というわけではないのだが、『人に囲まれる』という人生初のイベントをこなすには僕には経験値が足りていないようだ。
静かなところを求めるように僕は3-Aの教室から離れていった。
思いもよらず時間が出来てしまった。
行くところもなく、いつもの校舎間の渡り橋で時間潰してでもしようかと思ったが……
――『雪野くん。明日3-Eの教室を覗いてみなさい。たぶん貴方ならすぐに察することができるから』
ふと、昨日瑠璃川さんが放った言葉を思い出す。
雨宮さんのクラスでの立ち位置か。
僕と雨宮さんは基本的に互いにクラスでの出来事を話さない。
だから互いに普段の2人がどういう立ち位置なのか知らない。
雨宮さん、教室ではどんななんだろう?
友達が多いタイプにも見えるが、
ただ、彼女の場合は周りがぼっち化を放っておかないだろう。あれだけ容姿が整っていて性格も良く、面白い小説を掛けるのだから、男女共にモテるタイプであると容易に想定はついた。
ならば何が問題なのか? どうして瑠璃川さんはあんな含みを持たせた言い方をしたのか。
それが気になりだしたら止められなかった。
僕は目的地を3-Eに定める。
E組は3階の突き当りか。僕のクラスの3-Aは2階。結構離れているんだな。
しかし、他のクラスって緊張するな。雨宮さんはよくあんな堂々とA組に出入りできるな。
恐る恐る様子を探るように窓からE組の中を覗き見る。
――居た。
窓側の一番後ろの席できれいな姿勢で普通に座っている。
主人公席だ。羨ましいな。
ただ座っているだけで特別何もおかしな様子はない。
瑠璃川さんは『貴方ならすぐに察せられる』みたいなことを言っていたけど、何が異常なのか全然わからなかった。
ていうか、美男美女多すぎない? このクラス。学年中の容姿カースト上位をいっぺんに集めたかのような光景。瑠璃川さんもこのクラスに混ざるべきだろ絶対。
例えるならあれだ。『だろぉ』系でよく見る『乙女ゲーム転生系』だ。
あれってイケメンパラダイスなのはもちろんなんだけど、何気に主人公含めて回り全員が美男美女揃いなんだよなぁ。
で、その中でも最上位に容姿が整っているのが主人公(女)なのだ。
雨宮さんはまさにそれに当てはまっていた。
傍から見ても美少女すぎるんだよなぁ。
そんな人が今自分の友達であることに密かな優越感を憶えたのは秘密である。
そんな雨宮さんに視線を戻すと彼女は寸分変わらずきれいな姿勢のままただ座っているだけだった。
「(あれ? もしかして)」
あの子、友達居ない!?
もしかして僕と全くの同類系!?
見ると、E組のみんなは誰も雨宮さんに話しかける素振りを見せない。
登校してきた人も雨宮さんに挨拶をしようともしない。
それは、クラスに一人は必ずいる『ぼっち』の特徴と一致していた。
おぉぅ、まじかよ。瑠璃川さんが僕なら察せられるって言っていたのこういうことかよ。
雨宮さんには非常に申し訳ないけど、その、正直僕はちょっと嬉しかった。
自分と同じ境遇な人がこんなに身近に居ただなんて……!
てことはこのクラスメイトも知らない彼女の一面を知っているのは……僕だけ!?
やばいな、それ。とてつもなく嬉しい。僕にだけ心を開いてくれていたことが本当に嬉しい。
同類同士気が合うわけだ。これからもっと雨宮さんと仲良くなれる気がする。
「よう、桜宮恋、今日はノートに自慢の小説執筆は行わないのかね?」
そんな風に思っていたらさっきまでクラスの中心でギターをかき鳴らしていた一人のイケメンが雨宮さんに話しかけていた。
なんだよ、普通に友達居たのかよ。ジェラシーなんですけど。
「ぁっ……黒滝さん……ぇと……」
声ちっさ!!
そういえば初めてA組に来た雨宮さんもこんな感じだったな。
「おいおいおいおいおい!? この学園1イケメンの俺様が声を掛けてあげているんだぞ。もっとありがたそうに挨拶でもしたらどうなんだ!?」
なんだアイツ。
イキリ散らすとかそんなレベルじゃない。
雨宮さんにヤンキーみたいな絡み方をしているじゃないか。
イケメンヤンキー野郎が雨宮さんに絡みにいったのを見るや、E組の連中は揃いも揃ってその光景から目をそらしながら静まり返っていた。
一瞬で異様な雰囲気が出来上がる。
僕はその一瞬で察した。
あのイケメンヤンキーがこのクラスの『悪い意味』での中心人物であることを。
「ぅぅ……す、すみません……ぉ、ぉはよう……ござぃます」
完全に委縮した様子の雨宮さん。
「は? 聞こえないのだが?」
「ぅぅ……」
友達関係とかそういうんじゃない。
アレ、絶対ウザ絡みだ。
どう見ても迷惑している様子の雨宮さん。だけど委縮してしまって上手く声が出せない様子だった。
クラスの中心となり得る人物には様々なタイプが存在する。
例えば瑠璃川さんみたいに品行方正、容姿端麗で自然と人を引き付けるタイプ。
他にも底抜けに明るい性格をしていたり、寡黙でも部活動などで好成績を収めているタイプだったり、バカキャラで周りが放っておかないタイプだったりと様々あるのだが……
こんなタイプも存在してしまうのも事実。
即ち『誰も逆らえない俺様タイプ』。
あのイケメンヤンキーがその典型なのだろう。
「今日は例の小説ノート無ぇの!? もし書いてきてくれたら俺様が美声を轟かしながらこの場で音読してやろうというのに。くはははは!」
なんだアイツ。
な ん だ あ い つ。
完全に雨宮さんの執筆物を馬鹿にした下品な笑い声が教室中に木霊する。
「「「…………」」」
変わらずE組の皆も目をそらして黙認である。
あのイケメンヤンキーがこのクラスでどれだけ地位が高いのかが感じ取れる沈黙だった。
「そうだ以前音読してやったつまらなすぎて途中で破いたクソ本あっただろう? 『才の国』。アレをまた持ってこいよ。まぁ、また途中で破くことになるだろうが暇つぶしにはなるだろうがな。いいな! 明日持ってこ――」
「――才の国じゃなくて『才の里』なんだが?」
イケメンヤンキーが言葉を終えるよりも先に、僕の言葉が彼の駄言を遮った。
ほとんど無意識だった。
普段の僕なら絶対にしない行動。
『臆病さ』よりも『怒り』が上回るってこんな感覚なんだなと初めて知った。
「え……えぇっ!? 雪野さん!? ど、どうしてここに!?」
雨宮さんが驚きの表情を向けているのが感じ取れる。
だけど僕はこのイケメンヤンキー――いや、こんなやつをイケメンなんて呼ぶのは本物のイケメンに失礼だ。
イカれ男、黒滝を睨みつける行為を止められなかった。
「だれだ? チビ」
「誰でもいいでしょバカ男」
「ば……っ!」
「バカだから雨宮さんの作品の良さを分からないんじゃん」
「こいつ――!」
「ちょっとでも学があれば才の里を破るなんて愚行起こすわけがない」
ガッ!
黒滝の細い目が更に鋭くなり、瞬時に僕は胸倉を捕まれる。
だけど僕は黒滝に向ける『軽蔑』の視線を緩めたりしなかった。
逆により強く黒滝を睨みつけた。
「なんだその目はぁぁぁっ!!! 俺様を馬鹿にしやがって! これ俺様が黒龍の異名で知れ渡っていることを知らねえのか!」
「…………っ!!」
黒滝の叫びを聞いた途端、僕の顔は引きつった。
それを見て黒滝は微かに微笑む。
「へっ、やっと自分が誰にたてついていたのか理解したみ――」
「……ぷ、ぷぷぷ、ぷくくく……」
「何笑ってやがる!?」
「あははははははっ! こ、黒龍……っ! 自分のことを……黒龍だなんて……あはははは!」
駄目だ。シリアスなシーンだったはずなのに耐えられなかった。
いやぁ、だって無理でしょう。自分のことを、こ、黒龍、だなんて。
ハイセンスギャグすぎて笑いを耐えることができなかった。
「バカにしてんのか!!」
「馬鹿にしてるけど?」
「この野郎……っ!」
ずガッーー!
黒滝の鉄拳が僕の右頬に命中する。
一瞬、しびれるような痛みが奔ったが、思ったより痛くなかった。
僕の頬に命中した瞬間、なぜか黒滝はパンチの威力をセーブしていたようだ。
「雪野さん!!」
「きゃあああああっ!」
先ほどまで静かだったE組の教室内が一気に騒がしくなる。
雨宮さん含め、女子を中心に悲鳴が大きく木霊した。
「やべ……っ、当てちまったっ!」
なるほど。寸止めで僕を脅すつもりが勢い余ってそのまま殴ってしまったというわけか。
痛くないとはいえ、痕くらい残っているかもしれない。
だとすれば僕のすべき行動は一つ。
僕は悠長にスマホを取り出し、カメラを起動し、連射モードに切り替えた。
パシャシャシャシャシャシャシャシャ!
軽快な音を鳴らしながら僕の殴られた自分の右頬を連射で撮影する。
「ゆ、雪野さん? な、何を?」
傍に駆け寄ってくれた雨宮さんが僕の奇行について疑問を投げる。
「勿論殴られた証拠を残しているんだよ。痕でもあればこれを教師に見せるだけで黒龍は破滅だからね」
それを聞いた黒滝はギョッとした表情で焦りを見せる。
まあ写真なんか残さなくても目撃者がこれだけいるのだからこいつの破滅は必須だけど。
「そ、それよりも怪我を手当しないと! ほ、保健室に!」
「あー、うん。そうだね。雨宮さん付き添ってくれる?」
「勿論です!」
怪我の手当というよりは雨宮さんをこんな空間に残したくないという気持ちが先行して付き添いをお願いした。
「お、おい、お前! 結局お前は誰なんだよ! なんなんだよ!?」
まぁ、黒滝からすればいきなり介入してきた意味不明な他クラスの男だわな。
ここで僕はちょっとだけ悪戯心が顔を出す。
「僕は3-Gの雪野虎之助。んじゃねブラックドラゴン」
自己紹介を済ませると隣にいた雨宮さんがピクっと肩を震わせた。
誰にも見えないように僕は『しぃっ』と人差し指を鼻前に当てる。
「お、覚えてやがれ、雪野虎之助えええええええええええええ!」
黒滝の悲痛な叫びに対し、僕は笑いを堪えるのに必死だった。
―――――――――――――――
キャラクター紹介
◆
代表作『大恋愛は忘れた頃にやってくる』(文章)
人気投稿小説サイト『小説家だろぉ』にて『平凡小説家~異世界に渡りペンで無双~』を執筆中。
『だろぉ』での著名は『ユキ』
◆
代表作『大恋愛は忘れた頃にやってくる』(イラスト)
現在は弓野ゆき作品『平凡小説家~異世界に渡りペンで無双』の挿絵を執筆中
親友である雪野弓を『キュウちゃん』と呼ぶ
◆
代表作『才の里』
ノンフィクション恋愛小説執筆を検討。
現在は地の文の無い『7000文字』を書き直し中
◆
趣味で創作活動を行っている。出版作は無し
自分で挿絵も描ける。文章とイラストの二刀流スタイル
クラス内で人気が高い
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