第19話 ワード・スプリング・キャノン
そしてその翌日。
遂にこの日が来てしまった…
例のキスシーンの撮影が今日行われる予定なのだ。
だから今日はいつもより気合いと覚悟を決めて撮影に臨むつもりだ。それが本当に予定通り行われるならばな………。
実は今日、朝から一つのニュースがきっかけで世間はある話題で持ちきりなのだ。
ネットを覗けばSNSはその話題でファンやアンチが必要以上に騒いでるし、テレビを見てもその事しかやってないしで世間はそのニュース一色で埋め尽くされている。
ただ、こんなにも世間が騒ぐ理由も無理はない。
何故なら、あの国民的俳優、冴島大貴の熱愛不倫が某週刊誌にすっぱ抜かれたのだ。俗に言うところの何とか砲がもろに直撃したって訳だ。
私から言わせればこのニュースが出た事は意外でもなんでも無いのだがどうやら世間の感覚は違うらしい。
ネットやSNSを見ても衝撃や意外、信じられないってコメントが大半を占めていて、冴島を庇う声も少なくない。寧ろ、批判の的になっているのは冴島ではなく相手の女性に関するものの方が多かった。
これに関してはすっぱ抜いた週刊誌側も想定外の反応だったはずだ。だって相手の女性は一般人では無いものの、冴島の様な誰もが知る有名人ではなかったからだ。正直週刊誌側は、彼女の方はをオマケのような物としか思っていなかっただろう。これがきっかけで相手の彼女の事も話題になるのは当然だとしても、こんなにも注目されるなんて思わなかった。
それにこの記事が出る前までに彼女が中途半端に売れていたのも炎上の原因だろう。そのおかげで売名行為の為にあえて冴島に近づき、仲のいい様子を故意に写真を撮らせたのではないかという噂まで出ている。でも私にはどうしてもそう思う事は出来なかった。何故なら私はその現場をこの目で見ているからだ。あの楽しそうな様子が嘘をついている人の姿にはとても見えなかった。でも、嘘は女のアクセサリーって言葉があったくらいだ。
本物の女性にとって嘘を嘘だと思わせない事など容易な事なのかもしれないが……。
この事は私にも全く無関係な話ではない。
相手の女性の名は樹彩華。知っての通り彼女には返しきれないほどの借りがある。
そんな事をこっちが勝手に思っているだけではあるのだが、彼女が苦しむ所を俺は見たくない。だから俺は彼女の事を信じる。世間が彼女を敵だというのなら俺は彼女を敵にしてしまった張本人でもある。だから、姫乃皐月として俺は彼女を護るつもりだ。
その想いを胸に私は誰かに電話をかけた。
この報道がきっかけで撮影は一時中止に追いやられ、例のシーンの撮影も後日に延期される事になった。
後日、冴島は謝罪会見を開きメディアからの質疑応答を行った。この事がきっかけで樹彩華は誰もが知る有名人となった。ただし、国民的俳優を貶めた性悪な魔女としてだが。
どうしてこんなにも樹に対して風当たりが強くなってしまったのか?本来なら不倫をした場合、女性より男性の方が社会的ダメージを受けやすい傾向にある。ましてや冴島の方が知名度や人気もあるのだからバッシングの標的になってもおかしくない。
だが、冴島の謝罪会見はいつもワイドショーでよく見るようなマスコミからの容赦ない質問やあの独特な圧を感じる空気感は無く、今までの謝罪会見とは何か不思議な違いを感じた。まるで結末が分かっている物語をみているようでメディアからの質疑応答も奴の誠実さが伝わる様な対応だという事で世間からも好感触だった。
自分は逆にそれが気持ち悪く感じて仕方がなかったのだが……。
勿論この会見では、樹彩華との関係に対しても聞かれた。その質問に対して奴は、誘ってきたのはあくまでも彼女の方からでこちらはずっと断っていた。だけども必要に彼女は迫ってきて遂には断りづらくなり、いけないと分かってはいたが手をだしてしまった。
この発言により世間のバッシングの標的は完全に冴島から樹に入れ替わり、冴島は売名行為に利用された被害者として世間に認知された。これにより、冴島の誠実な対応が世間から好感触となり今まで以上に仕事が増えたらしい。
即ち、例のシーンも問題なく撮影する事が決まり私はより、冴島の事が嫌いになった。
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