第20話 自意識過剰のクズ王子
それから後日。
都内の高級マンションの一室が自棄に騒がしかった。
その声は残念ながらイヤらしいものなどではなく男に厳しく問い詰める女性の怒声が響いていた。
その部屋の住人は今色々と話題の俳優冴島大貴が住んでいる。ただし相手は一緒に住んでいるはずの奥様では無い。その理由は簡単で実はこの部屋、冴島が奥様にも秘密で借りている別宅なのだ。この事は冴島の周りの人間でも極少数しか知らない秘密の隠れ家でマスコミやメディアの人間にもまだ知られていない。普段からここに気に入った女性を連れ込んでいるらしい。
まさに男の秘密基地である。
そんな秘密の部屋で怒声をあげているのは、これまた話題のモデル、樹彩華だ。
「どういう事よ。あの会見!私から誘ったて言ってたけど最初に誘って来たのは貴方の方よね。……それに、会見をする前に私に言ったじゃない。この会見で責任をとって芸能界を辞める事を発表するって。その後に奥さんとも離婚して私と一緒になるって。そう言ったのに……何で……」
徐々に涙を浮かべる。
「分かってるよ。彩華が俺の事を本気で愛してくれてるのは。俺もお前の事は本気で好きだから」
優しく冷静に彼女を宥める。そんな甘い言葉を真顔で言われた樹は少しだけ笑顔を取り戻し始める。
「じゃあ………」
「ああ。俺も会見が始まるまではな」
「えっ……」
「考えたんだよ。俺の事が好きなお前が一番喜ぶ事って何だろうって?それは俺と結婚して幸せになる事なんかじゃない。俺が芸能界で更に活躍していく姿をその目で見る事だって気づいたんだ!だから、利用させてもらう事にしたよ。俺の為にも、彩華の為にもね」
さっきまで優しく宥めていた冴島が一変して怪しげに微笑む。
「彩華のお陰で俺の人気は更に急上昇で仕事のオファーもどんどん来てる。本当にありがとう!!」
唖然としている樹の手をやさしく握りながらお礼を言う。
「いや~、自分でも驚いてるよ。こんなにも俺の作戦がうまくいくなんてね。最初は話題になればいいかなぁってぐらいのつもりだったんだけど、まさかここまで盛り上がるとは俺も思わなかったからさ。
でもよ、本当に一般人ってちょろいよな。ちょっと涙をうかばしながら誠実ぶって対応しただけで直ぐに俺の事を擁護してくれるようになって強い味方になってくれる。俺の事を批判してる奴の事もそいつらが勝手に退治してくれる。そしたら今度は俺じゃなくて彩華の事を批判する様になってさ。そこで揉めれば揉めるほど俺の事がまた話題になるから、そうなると願ったり叶ったりなんだけどね」
本性を表した冴島の姿を唖然と見つめるしかなかった。
「……どうしたんだよ。嬉しくないの?俺の役にたてたんだよ。これでもちゃんと感謝してるんだ。本当にありがとう、彩華!!」
「…………ねぇ、これから私をどうするつもりなの?」
「どうするって簡単だよ。今まで通り普通に一緒に暮らせばいい。流石にお前はもう芸能界にはいられないだろうから辞めるしか無いだろうけど。でも安心していい。芸能界を辞めたって俺達の関係が終わるわけじゃない。すぐにとはいかないだろうけどこの騒ぎが静かになれば今までと同じようにいられる。さっきも言ったけど俺はお前の事を愛してる。だから俺はこの関係を終わらせる気はないよ」
「……私が貴方と一緒にいたいって今も本気で考えてると思うの?」
顔を硬らせながら言い放つ。
「ああ。勿論」
何故か自信満々に言い返す冴島の頬を勢いよく思いっきり叩く。
冴島にとって思ってもいなかった行動なのだろう。
何故自分が叩かれたのか、叩かれた頬を摩りながら必死に悩んでいる。
その様子を見て樹は呆れ果てた表情を見せる。
「本当に私ってバカ。こんなクズの役にたったってことが自分ながら本当に腹がたつ。アンタとはこれまでよ。遅いぐらいだろうけど」
「おい、どうしたんだよ?そんな汚い言葉を使う子じゃなかっただろ?それに、これまでって……だから言っただろ!俺はこの関係を辞める気は無いって!!」
「そんなのアンタが決める事じゃない!。それに、これまで貴方が私にしてきた事の全て、洗いざらいぶちまけてやるッ!これでアンタも終わりよ!!」
動揺していたと思われた冴島がここで冷静さを取り戻し始める。
「そんなの好きにすればいいさ。お前がどれだけ行動を起こそうがが俺にとって大したダメージにはならないだろうからな」
「そんなアンタに都合良く行くほど世間は上手く出来てない」
「出来てるさ。冷静に考えてみろよ。そんな世間の今の標的は俺じゃない。お前なんだよ。そんなお前がいくら騒ごうが誰もお前の事なんか信じりゃしない!それに、世間はいつだって俺の味方だからなぁ。
そりゃあ、それがきっかけで俺の事を再び疑い出すメディアやファンも少しはいるだろうさ。どの世界にも跳ねっ返りはいるからな。でもそんな奴らの意見に耳を傾ける事なんて無い。それどころか問答無用で俺のファンはソイツらを叩き始めるだろう。俺のファンは俺の事を信じて止まないからなぁ。だからお前の戯言なんて信じないし、俺が信じさせない。全部無駄なんだよ。諦めろ」
「そんな事やってみなきゃ分からないでしょ!!」
「だから、分かってるんだよ…。いいから黙って俺の物になってればいいんだよ!」
感情を表に出した冴島は思いっきり樹に掴みかかる。
「いやっ、離してよ!!」
「離すわけないだろ。安心していいよ。別に何かしようって訳じゃない。ただ俺の事が好きで堪らなくなるようにもう一度躾けるだけなんだからさ」
自分が矛盾した事を言ってるなんて思ってもいないのだろう。
それに、きっと他人が嫌がる事をしてるって自覚も無い。
そんな人の気持ちも考えられない男の事が好きだった自分がまた嫌になった。
だけど、今はそれどころじゃない。
奴の手を振り払おうともびくともしない。
女の私が必至に抵抗したって大の男の力に敵う筈がない。
私の抵抗も虚しく奴の手が私の服の中に入ってくる。
その手は私の身体をイヤラしく触りながらも強引に接触してくる。
ちょっと前まではこんな事でも嬉しく感じていた私も今では嫌悪感しか感じる事ができない。
「イヤっ。……やめ、てよ!やめてってば、誰かぁっ!」
力では敵わない、だから声だけでもと必至に叫んで抵抗する。
が、助けなど来る気配など来る気配など微塵も感じられない。当然といえば当然なのかもしれない。
抵抗する私の声をうるさく思ったのか冴島の唇が私の唇を塞ぐ。私はそれでも必至に抵抗するが奴の唇は離れない。
その時だ。部屋のチャイムが鳴った。
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